BGM

ルッチ:Portugal.Tha Man/Tomorrow
ジャブラ:Arctic Monkeys/NO.1 party anthem
カク:Jagwar Twin/Loser

マシュマロリク【麦わら一味の主がヤンデレCP9に狙われる話。お題「海賊の女が病みの正義に囚われ」より】

・潜伏してCPに可愛がられていた麦わらさんちの主、好きになった上に、バレました。ルッチ→ジャブラ→カク

病みの正義












「貴方達と同じじゃない…ガレーラを騙したみたいに」

代わり映えの無い表情である筈のルッチは眉を吊り上げた。片手で帽子を外したものだから、彼にしては珍しくというのが、痛い程に分かる所作だった。


「そんな顔して…情でも移ったの?知った者に後は無いんでしょ。消さないの?」


最後まで非道であればいいのにと、
吐いた言葉は半円描いて自分に刺さる。

ゆったり笑みを浮かべて
僅かな動揺を掻き消した男は、


寝具で微睡む枕の代わりに差し替えた腕を、
悪態を付いて引き止めたいつかの手のひらを、
攫うように抱き寄せた胸を。

日々を思わせる温度のまま保ち、命を甘やかした。


「ならばユメの居場所を消せばいい」


馬鹿な男だ。

我が船長は負けやしない。
ただ前に進むだけであるのに。


馬鹿な男だ。馬鹿な男だ。
そう繰り返す度に相変わらず吐いた言葉は半円を描いて胸をえぐり、あと僅かであってももうその背に伸ばす訳にはいかない手に代わって、預けられた帽子に涙を隠した。

海賊の女が病みの正義に囚われただなんて。
欠片でも、ましてや心を。

揺るぎない意志を前に、
死んでも口にはできない。

ほんの少し、愛したかもしれないだなんて。







緩やかに膨らんでは小さくなる毛並み。
部屋の主が、眠っているんだわと安心した私が縄張りに足を踏み入れるのを狡猾に待っている事を知りながら、甘んじてジャブラに手を伸ばした。


「……ユメ一人くれぇ取り込めんだぜェ」

「嘘よ。いくら政府でも麦わらから引き抜くなんて」

「意外と器はデケェもんだ」

「まあ行く気は更々ないけれど」

「勘違いすんな…腹にだよ」


大きな口を開け、
おどろおどろしさを見せつけても
世話を焼く優しげな瞳までは隠せず、
駄々をこねる童心のように揺れる。


食い殺すなんて、できやしないのだ。
消すのが惜しいと思うのはお互い様で。

だから私は甘んじて踏み入り、
この男はうそぶいて脅しかける。


「狼さん狼さん。どうしてあなたのお口は大きいの?大きな嘘をつくためかしら」

「お前を喰うためだっつってんだろうが」


人型に戻っていく振りかざした爪は、
首元をかき寄せる厚みのある指先に成り代わり、もう一つの鋭さは棘を失ったまろみで、背を押す。

私は押し付けられた胸に沈んだ。


「海賊の女が闇の正義に囚われ…ってなァ、ユメ。皮肉なもんよ」


逃がせもせず、殺せもせず、
飢えた獣が与える唇を、甘んじて頂く。


「いいえ、病んだのよ、貴方も私も」


このまましばし、
化けの皮を被った童心と優しい眠りを。

別れの前にせめて、眠りの中だけでもと。
嘘つきな仕草で降ろされた柔らかなシーツに包まれて、叶わない夢を見た。










「ほう、それがどうしたんじゃ」

私の本来あるべき場所が、
此処ではなく彼らの船だと知っても尚、
男は船大工時代を思わせる先輩風を吹かせる。

彼は眠りが浅いのか深夜もドックに残っていたから、作業に追われた時はいつも甲斐甲斐しく教えてやろうと顔を見せて、その技量で瞬く間に終わる。そして決まって残った時間を、切り上げるには惜しいくらいの甘さで包んでいった。



「わしが教えてやろう」


「なにを?」


「振りかざすまでもない」



かざしたのは正義か、
腹黒さに隠した執着か。

我儘でいて離す気のない手を振りほどけず、微量ずつ盛られた甘さの続きを知りたくて、抱き上げてくる男の首に手を回した。


「誰の腕の中におる」


選ばせはしない、
手中にあるとでも言いたげに。



欺きの末路なら悲愴であるべきだ。


航路の先へかけた意思が揺らぐ事も無いのなら、
当たり前に、駆け落つことも無いのに。

もうひとつの揺らがぬ意志が少しでも胸を温めて幸福で包んだなんて、突き放せるくらいには悲愴であって欲しかった。

 


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