BGM:ロビー・ウィリアムス / CANDY


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お題
サボ+こちょこちょしてみた

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もし君の弱みを見つけられたら、

いつも護ってくれる力強さに
溜め息が出るほど胸が大騒ぎしている事や、

わがままな強引さに頬を膨らませても
引っ張る手が
少しも痛くない事に笑ってしまう事とか、

二択なようで一択の狡さに、
実は臆病な心臓は
背中を押されて助かっている事とか。

私ばかりがしてやられてるなんて、
悔しい思いはしないかもしれない。

だから天気の良い昼下がり、島へ降りて一人潜入するサボの弱みを見つけるために、私はコソコソと皆の元から姿を消した。


まだ少し、オレンジ味のあるレンガなら平和そうに見えたかもしれないのに、街の中央へ差し掛かるにつれて石畳は灰色がかって闇の影を落とす。こんな荒くれ者の巣窟に単身で乗り込むなんて…バディの私を置いていく許可を直談判しにいってまで置いてくなんて、やっぱり少し酷すぎる。今までどんな事でも二人で乗り越えたのにその功績をカウントゼロにされたショックがアイツは分からないんだろうか。

思い返してムスムスしながらも、余所者がバレないように汚しを掛けたローブを深く被り直す。トンネルの影で座り込む男達も、酒場前の樽で賭けに勤しむ男達も、あまりこちらを気にしていなくて、流石 やったね なんて悠長にサボの背を遠巻きに追い掛ける。

中央街からやや逸れて小道に入ればあっという間にスラム街、ゴロツキの風貌も中々に凶暴そうになっていく。サボはと言えば潜む気なんて無いようで正面突破。侵入者だー!と飛びかかる男達を次々に薙いでは火を纏う。一旦、物陰に身を潜めた私はそんな姿を見ていた。

弱みを探しに来たのに

ローブの端っこを握り締めたのは、身を隠すために強く深かぶりした訳じゃなかった。サボの戦い方が、水を得た魚みたいに生き生きとしていたから。

跳躍も派手だ。お得意のパイプだってリーチを気にせず振り回すし、纏う炎に加減もない。表情は…笑ってる。それも得意げに。まるで、私が居ない方が助かるみたいだ。

「完敗だ…サボは弱みなんてないや」
「何に乾杯だオジョーサン」
「!!」

頭の布を捲られて顔を晒してしまって、すぐさまその腕を掴み、背負い投げる。加減を間違えた敵は今しがたサボが飛ばして転がった男にぶつかって、崩れたアジトの酒瓶が幾つも落ちてピンボールみたいにフィーバーしていた。

「…あ?!なんでユメが居るんだ!!」
「…しー…まっ…た…」
「お前…本っ当に…」
「チィス」
「あぁ…後だもう。来い!」
「最初からそう言え!ばーか!」

遠慮する必要が無くなり同じ広場に飛び込む。アジトの上階から飛びかかった男はサボがKO。足元で武器を構える奴らの懐にダッシュで滑り込んだ私は全員得意の組手で投げ飛ばして数人を玉突きフィーバー。

「爽快ー!」
「こうなるから嫌なんだよ全く」
「久しぶりだわこういうの」
「聞いてるのかって」
「楽しいわね大暴れは」
「聞けって」
「潜むばかりは退屈よね、サボ」
「そうだな」

サボの戦い方は乱入してから変わった。振り回すリーチは大胆なものから私を気に掛ける巧みな捌きに。炎は熱波でやられぬ様に的をより絞って的確に。鼠を追い込む様な遊びから、大勢を纏めて引き離し、ノックアウト出来るような派手さに。

少し悔しいけれど、
サボにはサボができる事を。
なら私は私にできる事を。
二人がペアなら、二人で噛み合わせてやればいい。
そうやってやってきたんだ今まで、これからも。

君は無敵だ。強みばかりだ。
弱みばかりは私だ。
くだらない事で弱気にならないで、
堂々と君の隣に居たらいいのに弱みなんて探して。
君を弱かった事にしなくたって、
勝ち負けなんか気にせず大腕振ればいいのに。

「ばかはどっちだって、ね」
「なんか言ったか」
「ばーか!」
「…覚えとけよ」
「どっちがよ!工作して置いていった癖に!」

サボは少し笑った。太陽の斜線に溶けたから伺えなかったけど、少し嫌味が効いたか、苦味をもった表情でいた気がする。盗まれた海図を取り返すから少し任せたと言い残して、アジトを上階までかけ登っていった。

何人も投げ飛ばしながらふと思う。
二人で来れば直ぐに終わったのに、わざわざ置いていくんだ。サボだって自由に大暴れしたかったんだろうななんて考えていた。こう、地味な活動に存分に力を使えずストレスが溜まっていたとか。仕方ないわよ許してあげましょうなんて呑気に思っていた私はこの時、まだ後に続くフィナーレを知らない。

「取ったー!!」

大きな声は上階から。グルグルに巻かれた海図を握りしめて宙を飛んだサボはこちらへ向かって降りてくる。

「帰還するぞ!」
「え?待って?残党は?」
「ボスをやったんだ、海図は俺の手。もういい」
「へ?勿体ない!まだ投げられる!」
「ああ…だから…あー。聞けって」
「セーイ!!……っし。見て!あれは百点よ!」

ガラガラ崩れる男達とレンガの塊は面白い。一人で手を叩いて喜んでいたら、頭を抱えて溜息をついたサボに腕を掴まれて強制終了させられてしまった。

「嫌なんだよ」
「………は?」
「行くぞ」
「ええええ!嘘ぉぉ?!それ乗るの?!」

アジトの壁に寄りかかったバイクに勝手に股がってしまったサボは無理やり私を後ろに乗せるもんだから驚いた。飛ばすぞ、なんて言って拒否権はなくサボに捕まるしかなくて、悔し紛れに追いかけて来る残党を切り抜けながら、暗さに怯えながら歩いた灰色のレンガ道を颯爽と下って行く。

「帽子が飛びそうだ」
「うわあああ片手!片手!前見て!」
「悪ぃ、持ってて」
「無理無理無理!離せない離せない」
「はは、俺を離せないみたいだ」
「合ってるし違うしばか!早く前見て!」
「だから帽子が」
「うわああああああ」

爆速の蛇行運転でゴロツキ街を抜け、
島の船着き場に立つ頃にはフラフラになっていた。

「で?なんで来た」
「置いてくからよ。サボこそ何よ今更」
「もう一回くらいコレ、乗りたいな」
「は?聞いてる?」
「聞いてるよ。聞かないのはいつもお前だ」
「何言っ」
「俺だけ抱き締めればいいだろ」
「…へ?」
「お前、肉弾戦の任務になると組手使うだろ。わざと任務から外してんだ。今回は仕方が無かったから置いていった」
「…え…や…そんな……え?」

相棒とは思えない温度を持った胸に押し付けられて、スカーフがくすぐったくて仕方ない。私は、遥か先を見つめる君と歩めるならと物陰に隠れていたのに。そんな強引さを見せられたら、優しく背中を押し付けられたら、本当はこの胸に収まりたかった臆病な私がまたしてやられてしまうじゃない。

「だーかーら。他の奴触るなんて許せなくなった」

もし君の弱みを見つけられたらと思った。
それがまさか、私であるなんて。
弱みさえ握れば私ばかり好きみたいだって
悔しい思いはしなくて済むって思ったのに。

結局とんでもないブーメランを返されて、どの道コイツは狡くて敵わないのが悔しくて、ウンともスンとも言えず、硬直してしまった自分の身体に一生懸命動け仕返しだ!と言い聞かせる。

胸を押し返し、できた隙間へ両手を差し込めば、ん?と不思議そうに傾くサボにはまた心臓がやられて、とてもムッとした。

「…もう!!ばーか!!」
「え、…まて、おい…!それ、は!」

くすぐった瞬間、かっと赤くなった肌は、
金色と、黒と、白と、青のコントラストの中で華やかに混ざって私の心までくすぐる。こんな心臓どうしたらいいんだ、扱い方知らないんだ。こんな可愛い顔されてしまったら、どっちが弱みを握ったかわかりゃしない。

「なあ、それイエスだな」
「え」
「俺のなんだな」
「ま、」
「嫌じゃないんだろ」
「それは」
「あー、嬉しくて自制できそうにないなこれは」
「あ」

切れ切れに発した言葉は、何が言いたかったのか自分でも分からない。ただ最後の何かは憧れた唇に簡単に食べられてしまって、届くもんなんだと冷静に思考する。ただまた置いていかれてしまった心臓だけはうるさくて、空から降ってくる七色の酒瓶が次々弾ける光景を思わせた。

【777】

 


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