BGM:P!NK / better Life


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お題
見習いシャンクス
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攫われた上に、脱がされた所を助けに来る

幼心の胸








「あ、ごめんバギー!足が滑った!!」

「舟揺らしてんじゃねえええよ!海スゥゥイ…力がァ…ほぉぉぐっ、?!」

「悪いバギー。場所が無かった」

「…こんの…派手馬鹿野郎共…」

「ねえシャンクスは何しに行くの」

「レイリーさんの頼まれ事がある」

「なになになに」

「聞いてんかオイ!陸上がったら派手に死ねやァ…」

「ちょっとうるさいからもう少し海水すり込んどこ」

「…やめろぉぉ…クソ女ァァ…」

「それくらいにしてやれよ」


羽目外さんようになと掛けられた声を背負って降りたタラップ下、小さな小舟に順に乗り込んだ私達を、跳ね返る飛沫がやたらと清涼感を持って太陽光を透過する。

久しぶりに陸へ降りるとあり、
海の子とは言え、だからこそのロマンがある。
波ではなく地に乗るなんて非日常で、そんな貴重な時を二人と居られるなんて、バカみたいにこの日を楽しみでいた。


「あんまり海水触るなよ」

「どうして?私は大丈夫」

「服が濡れるだろ」

「なによ、今まで一緒にしてたじゃない」

「バーカめ。お前だっておん…っいてぇ!!!…なぁァにしやがんこのクソボケご機嫌野郎がァ!」


寛ぐふりをして、わざとバギーの鼻の上に肘をついたシャンクスだったけど、もう言いたい事を理解してしまって、サラシで潰した胸がやけに傷んだ私は直ぐに口を結んでしまった。


手を繋げる程だったじゃれ合いには距離間。

無邪気に飛び付き合った過去は、
突き放されて無かったものに。

甲板の雑魚寝は特別な一人部屋に。


ずっとの三人だった。
だから少しずつ離されていく寂しさに耐えきれないで、どこかの姫様でも寝ていそうな大きなベッドで一人、毎晩泣いた。そこには頭を撫でる手も無いしド派手に叫ぶ声も無くて、勝手に女になっていく私は誰にも見つけて貰えずに戸惑いを殺すしかなかった。二人して話の逸らし方が上手だから騙される所だったけれど、こうなるとシャンクスの言ったレイリーさんの頼まれ事はきっと、私を守る事で確定した。


守られるなんて嫌だよ。
いつもみたいに三人で同じ場所から走ろうよ。
そう願って俯いた顔を上げれば、少年とは言い難い変化を辿るシャンクスの首筋に、抑えきれない胸が鳴った。


日当たりのいい岩場で少しバギーを干して、しっかりうるさくなった頃合に街へと歩く。好き勝手並びあったかつてと違い、用心棒でも付けるみたいに二人が私を挟んで歩くから、成長を拒む子供が喚いて仕方がない。店に入りたいと駄々を捏ね、男女のマークを指さした私は、察しのいいシャンクスとデリカシーの無いバギーを置いて、香水を振りかける背伸び靴の女の人をくぐり抜けて、颯爽と化粧室の窓に足を掛けた。

窓枠から飛び降りる軽快さの後ろで坊やみたいねと笑われた事を、そうであったらと願って走り抜ける町は、波より揺るぎなく私の焦りを何処までも運んでくれる。


友達みたいだ。兄弟みたいだ。大好きだ。
優しいんだ。強くってかっこよくて頼れて。

シャンクスの声が変わってしまって、
もっと私を見てほしいと思ってしまったんだ。

ほんの少し、
大人になりたいとも思ったんだ。
でも君が離れてしまうなら、
私は時が止まったらいいと思うんだ。


「…っとぉ…待てよ譲ちゃん」

「っ…離せくそ」

「お前…ロジャーの船の小童だろ」

「違う」

「無理があるぜ、俺たちゃ見てたんだからよ」

「悪いが未来の因子は摘ませて貰う」

「…っ!いっでえええ!何しやがる!」


食いちぎるつもりで腕を噛んだが、うなじに手刀の衝撃を受けて駆け出すだけの力が上手く入らない。酒樽でも担ぐように簡単に運ばれて、二人を待たせた店が小さくなっていくのをどうしようも無い思いで食いしばる。声は堪えても、ボタボタ落ちる涙だけは止められなかった。


小屋に転がされ、殴られた唇を拭って壁まで後ずさったが、男の手がロープで足をぐるぐると巻き始める。足首を一周してしまう巨大な手が、私の知ってる大人とは違う獣のようで怯んでしまった。


「ビクビクして可愛いねぇ譲ちゃん」

「威勢がいい悪い子は身体チェックもしとかねぇとなぁ?武器でも持ってちゃ…こっちも手が掛かかって仕方ねぇからよぉ」


ただのサバイバルナイフなんかでシャツのボタンは簡単に弾かれていく。こんなの海で幾らでも戦ってきたのに、私が私でなくなったみたいに力が出ない。サラシの中央に指を差し入れて浮いた隙間から男のナイフが滑り込む。ぶちぶちと布が割れ、焼けるような小さい衝撃を残した最後、無理やり押し込んだ胸が弾けた。


「ここか」


扉を押し破ったのはシャンクスで、
腰から刀を引き抜いてゆったりと構える。
その後ろに、
幾つも刃先を光らせるバギーが目を吊り上げていた。


「だぁからオンナつったろーがぁ…大人しくしろやスットンキョーが」

「大丈夫か」


上手く答えられず小刻みに頷くだけの返事を返せば、いつもの服も気丈さも失くした私を見て、二人の空気が張り詰めたものへと変わっていく。

シャンクスは口をつぐんでしまった。
代わりに静かな太刀捌きで、
大きな男達を薙いで、払って。
回り込む運びで護るように正面へ立ち、
大きな背が視界をいっぱいにした。


「…子供の癖に生意気な!!」

「強さに大人もガキもねぇんだクソがぁ黙って捌かれナァ!」

「ちっ、ずらかんぞっ…」

「…やらいでかァ!!!!」

闘志を失い武器を捨てた男共をしつこく追い掛けるバギーはおでこに血管を浮き立たせていた。アイツにあんな顔をさせたらもう止まらないのに。残されて静まり返った小屋で転がったまま、そんなドア外の風景を見送る。

シャンクスは足首に巻かれたロープを、男達とは違い、ひとつも傷つけることなく一太刀で解いてくれた。


「ごめん。もっと早く見付けられたら良かった」


腰から抜いたサッシュを谷間の傷口に押し付け、裸の背中を素手で起こされて、訳の分からない熱さを横切る様に涙が伝う。


怖かった。ごめん。私が女でなければ。
ずっと三人で。置いていかないで。
泣きたくない。

傷つかないほど大人になりたい。
気付かないほど子供でいたい。


私にシャツを着せたシャンクスの素肌を見たくなくて、着せながら目を伏してしまったシャンクスも、私を見ていられない事が解ってしまった。


「あんまり責めるなよ、女だって海賊だ。それに女でいてもらわないと…強くなる理由が減るのは困る」

「私が居なくてもシャンクスは強くなるよ」

「それじゃ意味が無いだろ」


居ないとさ。
ずっと隣にいてもらうには強くないと。


夢見た大きな男達の、果てない海の匂いがする。
簡単に抱き上げた揺るぎない足取りは私の知らない人なのに、具合を案じる度に目を泳がせる小さな紳士は、私のよく知る、思いを馳せた人。


置いていくどころか、一緒にいるために大人を先取りしようとしているなんて知ってしまって、並んで歩く未来へ簡単に飛びたくなった私は、抑える物を失って上下する度に膨らみを繰り返す胸であっても、気にせず大きく息を吸った。


戻ってすぐに熱を出した私は、手当の後に寝かされた自室のベッドで、見舞いに来た二人を引きずり込もうと病人の弱気に隠してまた駄々を捏ねた。助けに来てくれてありがとう。伝えてすぐ静かになった二人に守られるように挟まれて、大人びた二人の手を握り締めた。


【幼心の胸】

 


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