たとえどんな投稿がこようとも…
書いてやろうじゃねえか…!
どんな無茶ぶりも応えて見せるっ…!

そんなスタンスで、
無茶ぶりリクエストに対し、
1000文字前後の全力で
3人の管理人が挑みます。
−企画 panic room!−
第一弾 採用お題
【誰かと誰かがキス(男女、
男男、女女、なんでも可】

※女死ネタ、某曲がテーマ





時の流れを、
その中で起こる全てを。
万物を知るものが
この世の中には居るのだろうか。




烏兎そうそうに、
全ては過去になった。

ティーチの死、ユメの死。
時に置いていかれた二人は既に思考を持たない。しかし見送った俺達は違う。



遠い向こう側、後光の前から動こうとしない二人を振り返り、ついて来ようとはしないその笑顔を、後ろ髪を引かれるように時々、皆は振り返っているように見える。



あいつが残したのは微笑みとキスだけだと思っていたが、後から気が付いたとなれば、これは遺言と遺産に近いものがあるのかもしれない。


家族達の顔付きは変わった。
笑いはするが、何かを持たされた様な、前を向けば何かを見据える様な瞳に変わった。そしてそれを見る度に、その魂を相続したのかと、ふと思う。


あのエースに寡黙な時を。
嫌煙家のイゾウに煙を。
家族達に哀しみを。

サッチには、闇を。





「マルコっ!!!サッチが!!」




駆け込んで来たのはエースだった。また始まったかとサッチの部屋に向かえば、その扉を誰も開けてやれない理由が直ぐに解る。

扉を囲う数ミリの隙間から、
漂っては引いていく黒い闇。


愛した女の亡きあとに浮かぶ実を、食べぬ訳にはいかなかったんだろう。取り込む事で生かしてやりたかったんだろう。

だからサッチは闇を相続した。
しかし、それは愛ある故にただのブラックホールに終わらない。


こうして手が付けられなくなる部屋の中で、自身の中に落とされた闇とも闘っているのだ。



「親父んとこ行ってくるよい」



静かに引き返し、親父の元へと歩いていく。俺は傍観を突き通した。何も相続していない。強いて言うなら謎だけは貰ったが。だからサッチの部屋へも親父の部屋へも歩いて行けたのだろう。


しかし聞かされた。残されていた。
俺にもあったんだ。
相続するものが。




親父の前に座るなり差し出された小箱。そこには海楼石の欠片が入っていると。


「聞けマルコ。それはユメが実を食べた後から持ち歩いていた物だ」


後に続く話は、更に昔へと遡った。
ある日の真夜中、親父の元へ来たユメが、恐ろしい夢を見たと。たった一人、大切な人を残して皆が消えるのだと。


そいつはおっかねぇと宥めてやる腕の中で、寝言のように俺の名を呼んだのだと。




「クソォォォォォ……!!」



眼は開ききっていた。

小さく繋がっていく謎が、俺を大きく取り込み、巻き込んでいく。次に息を吸うまでに、小箱を握り締めて全力で駆け出していた。



時の流れを、
その中で起こる全てを、
万物を知るものが
この世には居るのだろうか。


ユメはそれを見ていたのだろうか。




「サッチ!!!しっかりしろよい!!」



握り締めた小箱で扉は簡単に押し開けられた。すると、突き出す拳を境目に引いていく闇。大股で踏み出す一歩に、ゆらゆら揺れて消えていく。そして部屋の隅には、膝を抱えたサッチ。


「肯定しろ、肯定しろ、俺は」


そう呟き続ける周囲の床板は、ぐるりと爪痕が囲っていた。サッチは何に震えているのか、何を見ているのか。


「大丈夫だ、聞け」


しかし、
呟き続ける虚ろな目は
この声を聞こうとしない。


「聞けっつってんだろうが!!!」


思い切り振り切った右手で頬を打ち、何も見ない目をこちらへ向けて唇を重ねる。愛する仲間へ、家族へ、俺に残されたのだという、大切な家族へ唇を重ねる。


ユメが見たのが、ただ一人孤独に残された俺の姿だったというのなら、このままではこの男もまた消えるのだろう。俺は此処でこいつにそのチャンスを与えてはならない。


「ユメは俺達を守った。ユメも俺達も、皆お前を否定したりしねえよい!!いいか…!」


サッチの目からは、
虚ろが消えていた。
代わりにたくさんの涙を流して。


「生きんだよい!!!」



抱き締めれば抱き締める程、 自身からも知らなかった涙が溢れる。互いの涙を見ながら、愛で繋がりながら残されたのだと。


ユメは皆に影を残した。
家族達に多大な哀しみを。
サッチには、大きな闇を。

そして俺の中に、一つの真実を。



【金烏玉兎回顧録】


・金烏玉兎(きんうぎょくと)

日月。太陽と月。「金烏」は太陽に棲むとされた3本足 の烏、「玉兎」は太陰(月)に棲むとされた兎。
歳月があっという間に、早く過ぎ去っていくことを烏兎怱怱という。


・回顧録
過去の思い出などを書いたもの。



・烏兎怱怱/烏兎そうそう
読み方:うとそうそう

月日の経つのが早いこと。
「烏兎」は古来、太陽に烏が、太陰(月)には兎が棲むという伝説から、日月を意味する。なお兎は「脱兎の如く」などのように素早さに喩えられる動物でもある。「怱怱」は慌しいさまを意味する。転じて、月日があっという間に過ぎ去っていく様子を指す。光陰矢の如し。


 


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