10/31企画 ハロウィンぽい街の話




突然だが、
私は変な怪物を飼っている。

飼っているというか、住み着いているというか。とにかく妙なものが居る。お菓子を食べないと死んでしまうらしいのだが、それがうちに懐き、居座ってしまったから大変だ。


時々半透明になり壁を突き抜けて外出するのだが、その際、口に付けていたチョコやらお菓子のくずが壁につく。
本人は壁をすり抜けるが、何故か汚れは全て白い漆喰が拭うらしく、お陰で壁拭きが私の日課に加わった。


勿論その食欲と偏食について喧嘩もしたが、解決策は見つからず、だからといって出ていくわけでもなく。出ていけと言っても、勝手にすり抜けて入ってくるから、私の意志は関係ないのだ。ただ馬鹿みたいにお菓子を与えねばならない。

全く理不尽だ。食費を払うでもなく、働きに行くわけもなく。見返りに何かくれるのか?…ああ、お掃除をさせて下さるわね。あんたが食い散らかした床を履き、出ていく度に壁を拭き。どこのプリンスだ。紐か。寄生虫か。兎に角とんだ化けもんだ。



買ってきたばかりの小麦粉10キロ。どさりと調理台に置いて、ぐったりとその袋に顔を乗せる。すると丁度、出掛けていたサボがするりと壁から帰ってきた。



「浮かない顔。どうした?」


「うっせぇよ馬鹿」


目の前にあるコースターを俊敏に投げる。しかし透明にも逆にも自在に変化できるコイツには無意味だ。ハハハと軽快に笑われて、更にやな気分。


「まったく…直ぐ居なくなる」


サボはキャラメルをどっさりテーブルに置いて、また壁に吸い込まれていった。



それにしても。
腹満たしを集めるのに、
まぁ必死なもんだ。

あんな容姿だから、きっと近所のご婦人方に可愛がられ、餌付けされているのだろう。うちの家計だけでは養えない事をアイツも解っているはず。


山になったキャラメルを見ながら、これを全部捨て続けたら居なくなるだろうかと考える。

鬱々と幾つかを手に取り、何となく積み重ね始めたキャラメルは少しずつ高くなり。疲れのせいか無意味と知りつつ楽しくなってくる。
しかし、折角のキャラメルタワーは壁からお帰りになった馬鹿お化けプリンスによって、全部倒された。


「見ろユメ。大漁だ」


15階建てキャラメルタワーだった物の上に巻き散らかされた、帽子いっぱいのビスケット。マドレーヌ、チョコレート。

そして頭を抱え、止まらないため息を吐き続ける私の目の前に、三色のチューリップが突き出された。あぁ、一体どこの花壇からむしってきたんだろうか。



「ほら言って早く。お決まりのやつ」


「トリックor…トリック」


飴を一握り、全力で投げつけた。
しかし面白そうに笑うサボはそれを無視。気にもとめずに、さあさあと勝手にお菓子パーティーを始める。
何個かのビスケットを一気に頬張り、両手いっぱいのチョコレートを掌でぐりぐりと押し込み。その食いっぷりに化け物らしい姿だと改めて思ったが、直ぐに動きが止まった。



「やっぱりユメの焼いたのじゃないと調子悪いな…なんでだ。こんなに沢山あるのに、嬉しくもなんともないな」


「あのさぁ。何言っても今日は絶対…絶っ対作んないからね。大量に貰って来たんでしょ?いいわねぇ。良かったわねぇ。ほらキャラメルでも食っとけよ」


「なあ頼む。作れよ」



投げたキャラメルは今日初めてサボに当たった。ざまあみろだ。続けて数個の飴を、偉そうに懇願する顔へ一つずつ投げ付ける。
考え込む顔は次第にふてくされ、面白くなさそうに溜息を重ね。そのうち拗ねたのか、壁に飴を投げ始めた。


コン、コン、とか。
ココン、コーンとか。

飴が壁に当たる音が延々と。





一日で一番大きなため息をついた私は、やはり買ってきたばかりの小麦粉を開けてしまった。

気持ちなんて一々込めない。適当に作るし、
目分量だし。焼き加減?そんなのは知らない。焦げ目がついたらだ。フルーツは切らずにジャム乗せる。



「勘弁してよねホント。今日これで最後だから」



仕方なく焼いた即席ジャムタルト。タルトかどうかも怪しい。なんなら小麦粉焼きのジャム乗せだ。

しかしそれを君は嬉しそうに掲げ、子供みたいに喜んで、手掴みで化け物みたいにモリモリ食べる。そしてそのニッコニコを眺めながら、「ああ化けもんだったわ」と笑う。



「ほら食べてみろ。元気でるから」


「アンタじゃないんだからそんなんで、……!やめろ!」


無理矢理突っ込まれたものは、やはり美味しいとは言い難い。キャラメルの方が美味い。ジャムもたいして美味しくない。
これ以上食べたくないから、引き攣る苦笑いで元気が出たフリでもしておこう。



「なあ?美味いだろユメの。ただ難点は食べたりない事だ。いっそユメごと食べてみようか」



モンスターらしいおどろおどろしさで真面目に目を光らせたサボは、安いジャムだらけの唇を私の口にくっつけて、ベタベタの咀嚼を始めた。



「新発見だ。一緒に食うと美味い」



私のじゃないと駄目とか言うなら他所で食ってくんじゃないよと、そんな事思い始めた私は一体どうしたらいいんだろうか。ああ本当に今日もアンタのせいで気分が悪い。



「うーん…やっぱり食べたりない。おかわりだ、ユメ」


全くこんな顔で笑いやがって。
押し退ける元気も湧いてこない。


my sugar honey,
Sweets
monster


 


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