企画45min.より
国語辞典・本のページ数を
指定してもらい、
出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画。

辞典お題【監禁】
※現パロ



不思議なもんだ。

この男は幼馴染みという、ある意味永遠の友人枠には手を出さない、興味が無いのだと、またもう一人の馴染みに聞いた事があるのに。
今こうして私の自由を奪った男の顔つきには葛藤すら見えず、興奮している上にその心音まで聴こえてくるようだった。

話が違うじゃないかと静かに混んがらがる頭の中で、健全な友達をしていた時の彼の顔を思い浮かべてみる。


トレードマークのそばかすは笑う度に男らしい顔付きを良い意味で崩し、可愛くすら映った。しかしその男が、次は足だと言って延長コードで足首をぐるぐる巻にする。

いつから私の決心も巻かれたのだろう。エースがそう言うのなら幼馴染みで良かったのに。それでも本人から確実な言葉がないぶん変に余裕はあって、「まだ友達なのよね?」と随分上から目線な自分がいた。

望みがないなら意地でも友達を続けようじゃないかという一種の拗ねだったかもしれない。悲しい覚悟だ。でも仕方ない。彼はそんな言葉の片鱗も見せてはくれないから。


「大人しく言う事きけよ」

「それは…違うんじゃない?有無も言わさず無理矢理な感じを出すにはもっとこう」

「こっちの方が悪人ぽいじゃねーか」

「だってただの強盗みたいだよ」

「な…に…してんだ…?」

「えっ?あ、サボ。違う違う、遊びだからこれ。監禁ごっこ」

「…なんでこうなったんだよ」


玄関前の通路に置いたままだった家具と荷物のうち、近い物から運び入れたサボが、エースの頭を小突いて。目前に並んだ二人は改めて私を見下ろし、とても長い溜息をついた。



「こいつが軟禁と監禁の違いが解らないとか言うから」

「再現してたの。ねえねえ、サボの監禁はどんなの?」

「もういいだろ」

「ん、俺はー…」

「なに乗り気になってんだ」

「ここに首輪とリードを足してだな」

「ご飯は?外出は?」

「禁止。飯はそうだなー…どうしてもってんなら命令に答えられたご褒美で、」

「へえええ、お前えええええ!そんなあああ、趣味がーーー」

「エースうるさい!!聞こえないから!」

「ユメが一番声でけぇよ」

「引越し唐揚げ買ってきたぞー!食おおおう……何してんだ?」

「おいルフィ、蕎麦って言っただろ」

「唐揚げを食いたくなったんだよ。仕方ねぇ」


「ルフィ良く聞けよ。これは悪を滅ぼすシミュレーションだ。俺とエースは味方でユメが悪者だ。いいな?よし、捕えろー!」


「なんだ?まあいいや!よし任せろおおお」

「ちげえよ!!!!」

「馬鹿!俺達がお前の味方なんだって!」




私達3人は、勘違いしたルフィから窒息レベルの全力ハグをもらって、新居の片付けなんてそっちのけでゲラゲラ笑って。皆でおかずを取り合いながら、コンビニ弁当を食べて。


ここまでは完璧に普段通りだったのに、たったの数十分で家電の設置を終えた彼らは、嵐のように行ってしまった。

「お邪魔しました」と一言、
今までの彼らからは想像もできない言葉を放ち、さっそく一人暮らしの現実を突き付けて。



四人分の荷物から持ち出した一人分は、こんなもんだったのかって事がよく解る寂しげな部屋で、三人がホームセンターで選んでくれた統一感の無い家具に囲まれる。

ルフィが暴れたり、エースが寝ても割れないようにってお揃いで買った四色のプラスチックのコップは一色だけここにあって、誰の足音も聞こえないんじゃあ割れもしないのに。


でもいいんだ。これを期にお揃いは卒業して、私は私の好きなグラスを買って誰のためでもなく自分の健康だけを気遣ってご飯を作り、家事に追われる事無く自分の服だけ洗えばいい。



でもそうだな。今日くらいは、静かな事に落ち着くまでは、この写真を冷蔵庫に貼っ付けておこう。
エースの誕生日にセルフタイマーで撮影した、ホールケーキにフォークを刺す四人の姿。取り合いが始まる、まさに嵐前の一枚を。ほら、少しだけ騒がしくなった気がする。




落ち着いてくる自分に呆れながら溜息ついて、笑って。再度インターホンが鳴ったのは丁度その時だった。

覗いたドアスコープが見せてくれたのは、両手をポケットに突っ込んでそっぽを向くエースで、あっちこっちで靴下を脱ぎ散らかすから忘れていったんだろうと思っていた。

でも開けてみたらちゃんと靴下は履いていて。足元からゆっくり見あげても合わない目線を追いかけて首を傾げれば、エースらしくない静かな声が私の心を踊らせた。



「なんで引っ越したんだ?」


「離れてみないと解らない事もあるのかなって」


「…これ。引越し祝いやるよ」



やっと動いたエースは、ポケットから捕まえてきたネックレスを私の手のひらに落とした。残念ながら夕陽のせいで顔色は解らないけれど、なんだかとても居心地悪そうに。

そして、ラッピングもされていないそれを無造作に突き出す真っ直ぐなスタイルに、裸の気持ちを貰ったみたいで心を打たれ。

一度離れてみないと解らないのかなって強行したばっかりだったけれど、きらっと光るネックレスが全部教えてくれた。暖かくて意地悪な兄弟愛のせいでたくさん迷走したけど、この鍵の意味はたぶん間違いじゃないと思うんだ。



「お前、玄関の鍵は増やせよ」

「やっぱり少し変だね」

「解んねぇ。さっきのでおかしくなった…かも」


調子悪そうに頭をガシガシかく彼も、色々とこじらせてるんだと願いたい。


本日一番調子が狂いっぱなしのエースが面白くって、無性に可愛くて。突然知らない優しさばかり見せつけてくるものだから、散々虐められてきた分加虐心に火がついて、引っ張りこんだ後ろ手に鍵を締めてやった。




「逆監禁とかしてみる?」



な、と短く発した彼は大きな腕を振りかざして必死に友人面を隠したけれど、その間からはそばかすの弾けた可愛い顔が、まんざらでもなさそうに大爆発している。



「観念してもらおうか、エース君」



黒い瞳はキョロキョロと部屋を泳いで、そんな彼に迷子だった恋心も光を見出して。少し長居するであろうこの後の、彼との不器用な過ごし方を考えると笑いが止まらなかった。




ハートロック




モチーフ 鍵:幸運の扉を開ける
鍵と鍵穴を好きな人とペアで持つと、二人の愛が強固なものになる


 


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