たとえどんな投稿がこようとも…
書いてやろうじゃねえか…!
どんな無茶ぶりも応えて見せるっ…!

そんなスタンスで、
無茶ぶりリクエストに対し、
1000文字前後の全力で
3人の管理人が挑みます。
−企画 panic room!−
第一弾 採用お題
【昔物語!かぐや姫とか
桃太郎とかなんでも!】

アンデルセン/マッチ売りの少女
(※両方死ネタ)




大切なものをなくしましたが、
女はそれでも探していました。



【紛失届】






旅に出たときは靴を履いていましたが、 今は裸足です。

夢中で歩き続けていましたから、
底がすり減り、
穴があいていた事も知らず、
なくした事にも気が付かなかったのです。




少女は探し人の名を呼びながら
夢中で歩き続けていました。

エースを、知りませんか?
どこにいますか?
もし見かけたら
教えて頂けませんか?

しかし問いかけに答える人は
誰一人いません。

少女はこうして海を渡り
たくさんの地をめぐり
幾つもの季節を越えてきましたが、
そんなことには気が付かず
夢中で歩き続けます。



その日は特に
からだが痛む日でした。

白い雪が一面に広がり、
空から舞うひらひらも、
全てが灰のように真っ白です。


そして少女はやっと、
靴をなくした事を知りました。
餓えている事を知りました。
寒かった事を、知りました。

この道を夢中できたのではなく、
うやむやにきたのでした。

そして、
なくしたものは
十中八九もどらないと
知ったのです。



すると、
風に舞う羽根のように
軽かった体は重くなり、
歩くことも、
立つことも難しくなりました。

レンガの壁に背を預け、
とうとう 倒れ込んだ少女に
容赦なく雪は吹雪きます。



しかし一人の男が、
随分前からその少女を見ていました。

その現れた哀れみの男は、
少女に歩みより、麻袋一杯の
選択肢を与えて立ち去ります。


中には、たくさんのマッチが入っていました。




きっとこのマッチを売れば、
身体を温める毛布が買えたでしょう。
パンだって買えたかもしれません。
しかし少女は迷う事なくそのマッチを擦りました。




じじ。と現れたオレンジ色は、
ずっと探していた人でした。

一瞬で消えてしまう彼に会うため、
少女は次々とマッチを擦ります。

しかし湿気ったマッチは
一瞬だけ光り、
ぼんやりと輪郭を映すだけです。

あっという間に、
マッチは残りわずかになりました。
もう、あと一束しかありません。
一束分の内、
ほんの少しか会えません。





しかし、
一日を終えた暗がりの街で、
悲しみに暮れる少女が
発し続ける信号を、
星は確かに見ていました。



少女は思いきって
マッチを束ごと、
建物のレンガに擦りつけました。

するとどうでしょう。

今までで一番
探していた人がはっきりと、まるで目の前に居るかのように現れました。

温度も、笑顔も、声も、
全てがはっきりと見えました。


キラキラと辺りが輝き、
胸の内を照らすよう、
いっぱいにあふれる幸福。

生涯で一番美しく、
まるで夢のような光景に、
少女は感動の涙を流しました。


そして、これが、
少女の最後の時でした。

微笑む探し人に抱かれ、
全ての苦痛から解放され、
炎の温もりに包まれながら
少女は天へと昇ったのです。


翌朝、
通りを行き交う人々は、
建物の影に座ったまま
動かぬ少女を見て、
たいそう哀れみました。


「可哀想に。凍えてしまったのか」
「飢えていたんだなぁ」

「このマッチを売っていれば、苦しむ事なく生きられただろうに。」


そう、人々は言いました。

少女が最後に見たあの瞬間が
どれほど美しかったか、
どんなに愛に溢れ、
暖かく、輝いていたか、

それを考える人は
一人もいません。

少女が微笑むその理由を
考える人は、
誰一人いませんでした。


 


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