国語辞典・本のページ数を
指定してもらい、
出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画-45min.より

辞典お題【爾 自 示】



イライラするんだこの男。

食堂のカウンターで騒音を聞きながらパンをむしゃむしゃしてたら、隣にいた下っ端君をぽいっと摘み上げたサッチが、するっと座る。


「バテてねぇか?ユメ。今日あっちーもんなァ」


さて飲め!と言わんばかりに置かれたのは、コーヒーを凍らせて牛乳をいれた、氷コーヒーなるもの。それを無言で半分ほど飲み干して、小粒の氷を幾つか口に含めば、砕きわる苦さは現状と一致した。


そのニヤケた顔が嫌い。
触れないのにひしひし伝わってくる温度が嫌い。至近距離でドキドキさせるだけの、低くて優しい声が嫌い。

綿あめに練乳かけたような甘さでまとわりついて、毎日分かり易いえこ贔屓のオンパレード。そのくせコイツ、一度も口説いてきやしない。

可愛い可愛いって健全もいいとこだ。歳も歳だしそんなお嬢ちゃんみたいなナリでもないのに。まあ、頭を撫でる馴れ馴れしい掌を払いのける度、胸を痛めて「早う気付け」と祈るあたりは、そうかもしれないけど。


お嬢ちゃんなんて柄じゃない。
でも願わくばオーソドックスに心を攫われたい。そんな葛藤を毎日、綿あめと練乳にまみれながら繰り返して。それなのにこの馬鹿は、更に私をむず痒い甘さで包もうと、するり隣へ滑り込む。



「今日も一段とゴキゲン悪ィのな」


しょぼくれたおっさんにとてつもなく胸が痛んだ理由をもう知っている。腕の中へ飛び込めない私を中々迎えに来ないからだ。こんな私を好きなら、迎えに出向くのが筋だろうに。

ああ気持ち悪い。イラッとする。
なんでてめぇがそんな顔すんだ。
私は被害者で、
悪いのはお前じゃないか。


しつこさに日々増す痛み。
なんで私が我慢してんだと思ったら、ここ最近で一番の情けない顔に、また痛みが増して。ブラックコーヒーがはねた真っ白な腕を衝動任せに引っ掴んでいた。



「誰のせいか教えてやろうか。……テメェちょっとこっち来い」


食堂の裏口ドアへ押し付け、目線上のスカーフを絞り上げれば瞬く間に焦り出す。縫い目が軽くブチって音を立てて、私の中の何かもついでに吹っ飛んだ。


そんなに妹したきゃ、近寄らなければよかったんだ。私はきっと家族でいられたさ。でもアンタはその優しさに色を乗せすぎた。待ちぼうけが大好きなお嬢ちゃんなんて、もうやらない。



「えっ……ま、待て!まあ待て」


「その気持ちの悪い片想い、全てお返ししよう。さあ」


脚の間から見える板壁に蹴りひとつ。締め上げたスカーフを引き寄せて、遅刻の怒りをぶちまける。



「示せ」



ほら、早く次へ連れてけよ。
好きなんだ。
愛しくて仕方ないなんて、
言えやしないけど。



【爾に出ずるものは爾に反る】







爾(なんじ)に出ずるものは爾に反る
善悪にかかわらず、自分のやった行いの報いは必ず自分に戻っ てくるという意味。従って、幸運も災難も自分で招く場合が多いということ。

 


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