BGM:Pay money To my Pain/13monsters
お題 闇サッチ考察リク より ::闇サッチは能力持ってから皆にちょっと恐れられてるんだけれど(命への脅威への本能)夢主にはそうは見えなくて、サッチには突き放されるんだけど、最終的に闇サッチの力に助けられて距離がグッと縮まる







「へぇー!それ凄ーい。じゃあ、手品とかさせたらなんの信用もないよね〜。種も仕掛けもありません!とか言って全部消しちゃう訳でしょ〜」


「そういう簡単な事じゃ無いんすよ!」




おたおたと慌てる男達の情けない顔は、到底海賊には似つかわないなと思う。

私の所へ「聞いて下さいよ」と寄ってきた一人から始まり、何を言われても共感しないものだから、これでもかと補足するように援護が増えて、いつの間にやら男達に囲まれていた。


「ふーん。で?」


サッチ隊長が、他の隊長方が出払ってる間に悪魔の実を見つけ、食べたのだということから始まった談義だった。



確かに、それを宿す身も、共にある身としても試されるさすがの闇の実だとは思う。だがしかし、私にはそれまでの話だった。



離籍していたサッチ隊長が戻る時間までに男達はパラパラと持ち場へ戻っていき、引き替えるようにしてサッチ隊長がカウンター越しのキッチン奥の扉を開けた。



「おかえんなさい」


「アァ…?ユメまだ食ってんのか?…調子悪いのかよ」


「サッチ隊長のご飯が美味しすぎて味わい尽くしてるんですよ」


「またまたぁ、俺を待っててくれたんじゃねーの?」


「…サッチ隊長ォ、寂しがりですもんねェェ?抱っこしてアゲマショーカ?」


「んーんー、俺はぁ、抱っこしたい方ナンダワァァァ??」


ふざけ合いに耐えきれず、どちらともなく笑いだして、できるだけ甘ったるい言い方に気をつけながら語尾にハートを飾って、手元のナイフをキッチンに向かって投げた。



「もうやだぁ。サッチさんったらぁ」


「こっわ!ユメちゃんの乙女心むっずかしぃ!!」



サッチ隊長の横をすり抜けたナイフは上手に壁に刺さったものだから、大口開けて笑ってしまった。


可愛い人なんだよ。
これが愛すべきサッチ隊長だ。

闇を宿そうがそれ以上でも以下でもなく、この人はこの人で。この愛しさに変わりはないだろうがよ。


扱い方を見誤った時、
いつか見境なく味方ごと闇に飲まれてしまうかもしれないと惑うクルーの気持ちも解らないではない。

でも私は難しい事はどうでもいい、こんな風にわかり易く愛でてくれる、ヘラヘラしながらも時々鋭い目で刺すような事を言うサッチ隊長を、目の前で存在するそのままを、サッチ隊長だと思い続けるだろうなとそう思った。それだけだ。私の中にこれ意外の異論はない。



そして、そんなそれぞれの惑いを試すかの様に、寄港した晴天の地で突然に戦いの幕は開いた。


名の通った奴等ではあると入れ墨から解る。サッチ隊長以外の隊は島周辺と周囲の海域へ出てしまっていて、残りは私たちしか残されていない。

誰より早く察して飛び出して行ったのは、やはりサッチ隊長で、私達がそれを目の当たりにする頃にはもう既に、あちこち穴を開けたように例の"黒"が散らばっている。

仲間を巻き込まない様
第一線の遥か先で、
そこはサッチ隊長の独壇場だった。



全力で駆け出した私の元へほんの一瞬駆け付けた影の主は、構ってられず忙しいとでも言う様に私の周りをうろついてみせる。

そして、もう前線へ戻りたい、そんな邪魔者扱いを存分に見せつけていた。



「ユメよ。俺が能力を完璧に操り切れてると思うか?お前らでも簡単に引き摺り込めるぞ。いつかは仲間を殺しちまうかもしんねぇなぁ…?解ったら俺が数えるうちに戻りな」


爪先が一つ一つ黒く燃えて、
灯るように揺れる。


私にはその光景が、自信に溢れた表情というよりは、小石を巻き込んだ歯車がガタつき始めたような、そんな表情に思える。

サッチ隊長は返答なんて、
ハナから待っていなかった。


片手の指が全て開いた頃、静かに握りしめる拳に変えて、またゆっくりと背を向けたサッチ隊長のゴツゴツとした肩のラインから背筋、足元まで陽炎のように黒が滲み、また戦の渦中へと小さくなっていった。



「おい!てめーら加勢しろ!何やってる!!!」



後方でモタつく仲間達を振り返り、けしかけたが、ぐっと食いしばり後ずさる様子を見てイラっとした。



解ってる。
本当は私も解っているんだ。

後ずさる彼らも、恐れこそ抱いても家族愛を失いはしない事を。コントロール不可になったサッチ隊長が多方に巻き添えを出し、それを喰らってしまう事で、愛すべきサッチ隊長を仲間殺しにしたくないんだ。

極悪気取りで、脅してまで私を引かせるサッチ隊長も、守れる確約ができないから単独で乗り込んでいるのは明らかで。



皆それぞれにあるのだ。
出来る事ならそれが上手く噛み合えよと思うが、それでも一歩引く彼らにもサッチ隊長にも共感してやりたくない私だけがそこに残っていた。


「悪い、私は行く」


愛すべき隊長なら、仲間なら、ひとり闘わせる事はすべきでないと内側に自分の声が響く。
他の隊長達を待てと引き止める後続を振り切って、私はサッチ隊長から仕込まれたサーベルを抜いた。


「加勢します」


有り余る勢力を前に乗り込むというのは、単身では無いにしろ確かに孤独だと思った。

晴天に間違って黒の絵の具を零したように、目に映る景色のあちこちが闇に覆われ始めている。その至る所から、吸い込まれていく敵の無数の悲鳴が混沌さに輪をかけていくんだ。
サッチ隊長もしかり、いつだって先陣を斬る隊長達は誰にも劣らぬ力を得た時から、同時に授かった人並み外れてしまった闇と闘い続けていたのだろう。そしてこんな光景を前に、たくさんの愛を背負って。


寄り添いたいとは思わないけど、やっぱりそれを知ったからには孤独に戦わせたくはない。


飛び掛ってきた三人を薙ぎ、返して後陣を斬る。私にしかできない戦いを続けるしかないんだ。


「薄情な仲間達だなぁ?女ァ!誰も来やしねぇじゃねぇかァ!」

「よく見ろよ。お前らたった一人相手にこんなもんか」


こいつは許さない。もう一つのサーベルを背から抜いて口元に投げ捨て、怯んだ外野に円を描いて散らす。
その一瞬で視界に写った一際大きい闇の方角から、サッチ隊長の声が僅かに呻いた様に聞こえた。


「ダメだ…、!!!サッチ隊長!!行くな!!」


崩れ落ちる男の背を踏んで、渦中の中心に向けて、我武者羅に宙に跳んだ。

何人だ、十…二十、男どもが囲う黒いモヤの真ん中から伸びた白、サッチ隊長の足。


「嫌だ!!行かないで隊長!!」


同じ中心へ、つま先が着くかつかないかの刹那で、背後から殺意が向けられたのを感じた。構う気なんて無かった。放たれた殺意は銃声とともに左肩を掠ってえぐり抜いた。



「ユメ…!!!」


隊長の元へ立つ事は、
寸分の差で叶わなかった。

代わりに、闇に包まれそうだったサッチ隊長の腕に両手で抱きとめられて、歪に浮かんでいた乱雑な闇の塊が突然統制を取り始めて、周囲の敵を全て飲み込んでいった。

そしてそれとほぼ同時に、青空に尾を引く不死鳥の輝きと、爆音の熱波が本船に向かって駆け抜けて行った。




もう大丈夫だと言うのに、見上げたサッチ隊長の気迫は薄れる事を知らない。また私たちの足元に闇が落ちる。

しかし、先とは全く違う。
完全なるコントロール下で、その証拠に私達だけを切り抜く様に残して、円盤の闇が広がっていた。空の青と暗がりに挟まれて、二人だけに風が吹く。まるで、闇に浮かぶオセロ盤にひとつの白だ。


ゆっくりと降ろされ、
地に立たされた私の足元を見れば、波のように揺蕩う闇が、綺麗につま先のラインを超える事なく揺れていて、思わず笑ってしまった。

ほらやっぱり殺しやしない。
本能で救ってくれるじゃないか。



「…超ー格好いいっす、サッチ隊長」


「お前なぁ」



界隈の念を抱くからこの人達は心に闇を持つのかもしれない。いつだって周りの人間が恐れおののきバケモノと呼ぶのだ。


「全く戦いにくくて仕方ねぇよ」


そう呟いた、揺らぎながらも戦いを止めない横顔に、また私も心揺らせていた。






食堂のカウンターに座った私は、いつになく晴れた気分で腹を満たしていた。


「イカスミパスタをさ、闇ッチスペシャルとか言ってメニューに増やせばいいよ」


「はあ?なんのためだよ」


「親しみやすさキャンペーン。サッチ隊長はイイヒトなのにさ、勿体無い」


「へぇ。じゃあ裏メニューにしてやるよ。ユメだけの」


「まじっすか!…いや、待って下さい私専用ってキャンペーン意味無いじゃないですか」


「もう少し独り占めされとけよ」


目を細めて眺めるサッチ隊長の瞳を、私もまじまじと見つめた。片方の口角を上げてニヤリ笑う渋みがなんとも似合う、良い男の顔だ。恩人ちゃんと付け加えられた一言は気に入らないから聞かなかった事にしておこう。


「あと一つ、ちょっと物申す。……こうやって脅すのはもうやめて下さい」


左肩はまだ痛む。
代わりにフォークを置き、右手でサッチ隊長の頬を撫でた。

驚いた瞳が滑り落ちていく掌を追い掛けて下を向いたのを確認してから、よく見ろと言わんばかりに、あの戦いで隊長が見せた黒く燃える闇のカウントを再現して見せた。



「サッチ隊長は微塵も、そんな事思っちゃいないんですよね。世界で一番、優しい男ですから」


頬を掻きながら目を泳がせて、
暖かい手だけは頭にぽすぽすと心地よい優しさを乗せてくれる。



「やー…参った…ホント、マジで調子狂うわ」




ほら、間違っていない。

脳裏に浮かぶ瞬間は
黒に浮かんだ一つの白。

たとえあの指を飲む黒が本人を包んでも、世界が闇に飲まれる事はない。

あの光景が全ての答えだ。




One's duty, NONFICTION.




―――
One's duty
義務を果たす, 本分を尽くす

 


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