※現パロ
雨上がり、晴れ間の校庭で秘密基地を作っていた面子が素晴らしく大人になっていて驚いた本日の同窓会は、あれ?私大丈夫ですかねと誰かの胸倉掴んで問いただしたいくらいに不安になった。
どんな事にも全力がむしゃらで、先の事よりその瞬間に阿呆かってほど必死で。賢くは無かったけれど、達成感も得るものも大きかったあの頃。
過去と現在をまざまざと見せ付けられた居酒屋のお座敷で、ウーロン杯の人と言う叫び声に乗り遅れた私は、一人でお冷やの雫と戯れるしかなかった。
適当に腹を膨らませて終わった一次会の後、カラオケをすっぽかして真っ直ぐに帰宅する。靴も脱がずに押入れから引っ張り出した埃だらけの段ボールの蓋を開け、取り出した一冊を開いた途端、上の空だった感情が目まぐるしく動き始めた。
人生こんなもんじゃないよね、
こんなんじゃあ。
どうしてこのページに戻れない?
落としてきた大切なものを取りにいきたくて、玄関を飛び出したマンションの共有通路に傘を広げた。中に入って膝を抱えてみたら、あの時の皆は綺麗に笑っていて、鳩尾の辺りが痛くて顔が歪む。
「てめぇ…何やってる」
そんなところへ、突然なんの気配もなく傘の端から顔が飛び出すから、驚いて1upしてしまった。
こいつは昔よく一緒にゲームの裏ワザ研究をしていた、先程の同窓会で有無を言わさず唐揚げに檸檬を絞りやがったロー君だ。
「えっえっ、そっちこそ」
最近隣に越してきたというありがちなトークをひとしきり終わらせると、見覚えがあるであろうこの光景を、一人で、しかもこのタイミングで再現している自分が恥ずかしくなってきて。
引越しの挨拶をやると部屋に戻って行く背中を見ながら、3本の傘をそっと閉じる事にした。
ところがそんな時に限って締まらない錆びた一本。物音立てず、静かに静かにと格闘していたら、玄関に入るのが一足遅れてしまい、戻ってきてしまったローをちら見して、溜息が出る。
「まぁ待て」
すると、気まずさの中フリーズする私から、閉じた傘を全てふんだくり、ぼんぼん開いて転がす四つ目に、あの時喧嘩して早退してったローの黒い傘が足されて、アルバムのまんまの秘密基地が完成した。
「根底は変わらねぇ」
何でそんなの持ってんだと疑問に思っていた、さっきの宴会で大活躍していたカメラで突然写真を取られ、ういーんと出てきたまだ真っ黒なそれを、引越しの挨拶だというかなりミスチョイスな大学ノートに貼り付けたから驚いた。
王道の洗濯洗剤や食器用洗剤じゃなかったからじゃない。ニヒルを地で行くロー君の耳が、なんで、どうして赤いのかだ。
きっと先週、階下の馴染みに、あの時ローに好きって言えば良かったなんてこぼしたせいだろう。
そんなに恥ずかしいなら首まで被ってればいいのに。フワフワの帽子を私に被せてくれるものだから、取り戻せないと思っていたあの時から、同じ想いだったんだと奇跡を確信して。
そしたらわざわざ隣に引っ越して来た、一見ストーカーなこいつにまた、あの頃みたいにときめいてしまった。
階下の友人にお礼を言わないと。そうだ、一人で行くより、君の粋な計らいで私達結ばれましたよの方がスマートでいいかもしれない。
だったら今私がする事は。
「ロー、」
「帽子は返せよ」
「それは返す、でもローは、」
破顔した君の可愛さに衝撃が走って、あの時やっぱり伝えるべきだったと改めて後悔した。掴む事ができなかった君の手を掴んで思い出を塗り替えにいく胸騒ぎは、こんなにも神がかりで闘志が溢れる。
もう負けない。
私は今から過去を取り返す。
断固として勝つ。
そして次の華麗なる爆弾で確実に仕留めて、真っ赤に爆発した君がキスに応えたら、それとよく似た真っ赤なお酒で祝杯を上げよう。
「帰さないよ」
君が校庭を走り去る前に、
今度こそ捕まえてやるんだ。
-ブラッディマリーに乾杯!
カクテルシリーズ。
お題投函ネタ箱より
【同窓会、引っ越してご近所さん、甘め】
【晴れの日に広げられた傘、笑顔、アルバム、ほのぼのか切なめ】