国語辞典・本のページ数を
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出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画-45min.より

辞典お題【白露】
※学パロ



最後の一回、走り出す。

飛べた試しのないラインを超えようとする体は、上手く棒スレスレで反り返り、不思議なほど難なく飛び越えた。

しかしいつまで経ってもマットに沈まない。それどころか妙な重圧まで感じ、見ていた世界は突然切り替わってしまった。



崖から流れる滝の上、
そこを背面飛びで飛び降りてしまったのだと気が付いた時には、岩肌に跳ね返る飛沫を浴びて、手遅れな高さを落下中。

景色はエスカレーター並の速度でゆるゆる空へと流れていく。そして降ってきた棒を見て、また駄目だったと思っていた。



どうしてもどうしても、
何をしても、
あの高さを越えられない。


でもそこには、諦めたいのに「超えてみろ」と、あり続ける一本のライン。すると次にはもう、癖で助走を始めている自分がいる。駄目だって解っているのに、どんなに息が切れても走らずにはいられない。そんなジレンマを越えたいが故の世界だったかもしれない。


滝の終りへ近づいた頃、
ジャングルの様な木々の青葉に肩を弾かれ、ふと見た横で飛び散った玉の雫が、同じ速度で浮遊を始める。水晶の煌めきで全てを逆さまに映す白露は、自分が空へ高く上っていくビジョンを見せてくれた。




「ちょっとユメ!あんた爆睡しすぎ!」


肩を揺すった友人のお陰で、
私は滝壺へ落ちずに終業のチャイムを聞く。広げた生物のノートは、途中まで熱心に書き続けた黒板の内容と、背面飛びの理想図、似てもいない3秒トラファルガーの絵が書かれて終わっていた。



「おいユメ、俺の授業で寝るなら部活は辞めろ」


「絶対…諦めません!」



駆け出してしまった早まる想いに絶対不可能な高さを叩き付け、それを条件にしたこの人が不敵に笑う限りは、脚が折れたって走り続けてやろうと決めたんだ。


きっと駄目。
絶対に敵わない。
飛べない事は解っている。

それでも私はこの煌めきの中で、
誰よりも高くこの空を飛んでいく。



【High Jump】




【白露】
白く光って見える草木の露。

棒高跳び/俗称(ハイジャン)
英語における名称"High Jump"から

 


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