国語辞典・本のページ数を
指定してもらい、
出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画-45min.より
辞典お題【荒らげる】
マスターシーザー様!と、振り向くまで声を掛ける事をやめない男達を、言葉巧みに連れ込んでいった壁の向こう。渦を巻く紫色が唐草模様に巻き上がるのを遠目に見ていた。そしてアラベスクの美しさで重なるグラデーションの隙間から、間もなく伸びる人数分の足。
「来い。飴をやろう」
「あ、え、何故私でしょうか」
「そのまどろっこしい喋り口を何とかしたら教えてやろう」
いつからだったか、これで数えて三度目の真正面。そしてその三度の全て、引き止められる時はいつも周りに誰も居ない。もしくはこうして居なくなる。
しかし私は、この人が両方のポケットをあさる間、白衣の胸元のGASロゴが点滅する様に揺れる光景を、どこに入れたか解らないんだわと、クスクス笑う事すら許されるようだ。
「次こそドラッグキャンディですか」
「喰えば解る」
袋を開けて口に放り込む今日も、ただのサイダー味が満たしていった。それは頬の内側で弾ける泡の一つ一つまで甘酸っぱくて、次々と小さな刺激をつれてくる。こんなんじゃあ恥ずかしいからと、抗う様に歯を立てて噛み砕いた。
「あの。マスター」
裏切りはこの人の代名詞。
簡単に部下までも欺く。
でも私の前に立ち、
見下ろす時だけは。
「マスター」
心地良いこの胸の痛み以外、私を苦しめる物は与えない。紫の渦を纏うこともなければ、ときめきで呼吸を止める以外に酸素も奪いはしない。
「あのー……マスター、聞いてますでしょうか」
怪しく揺れる事も無く、
こうして高い位置からほんの少し背を曲げて、ぴたりと静止するのだ。
「マスターシーザー様。…シーザー様」
そしてただ私を、ずっと。
「……シーザー…?」
「なんだ」
「…もっと、欲しいです」
へっと短く笑った綻ぶ顔は、いつまでも長く長く余韻を残し、背を丸めて見下ろすばかり。本当はもう少し近くに寄ってみたいんだけれど、飴以外に甘いものはなかなかに横してくれないから。
「少しは味わいやがれ」
新たに駆けつけた男達が数人、ドアの外で酸欠になり倒れていく足音が聞こえても尚、甘いと感じなくなってしまった私もまた何かの毒性に殺られているのだろうか。凶悪で狡猾で悪魔のようなこの人は、どんな感情で私を見つめているんだろうか。
泡のようにシュワシュワと浮かぶ謎を今日も噛んで砕いて飲み込んで。でももしいつか、ゆっくりと舐めて味わう余裕ができたら。あと何度か同じサイダー味を貰えたら、その時は思い切って問いただしてみようか。
君だけに荒らげる
【あららげる】
声や態度などを荒くする。
荒々しくする。「言葉を―・ げる」