爽やかな葉桜が映える頃、
同日に軍へ入ったこのお男の腕を試したくて、好き放題に伸びた枝の下で真っ赤な林檎を頭に乗せた。


「撃ってみなよ。自信あんだろ」

「何を撃てばいい?芯か、それともヘタか」


芯。そうはしゃいだ瞬間、被った銃撃音。驚きに跳ねた私を、いや悪いと口元覆って軽快に笑った。


そんな、神がかりなウィリアムテルで撃ち抜かれたのは心臓だったなんてよくある話が実りもせず、腐って落ちた。参謀長の発言は正にそれを決定づけるものだった。



「革命の灯火が最重要任務となった」


桜は何度散ってもあの頃の緑を連れてきた。だからこんな風にずっと、同士として、友として、想う人としてずっと私の世界を彩るものだと思っていた。


無限に感じた時の中で溜息を付いていた日も、ニュースクーに心躍らせていた日も、動機を知ったあの日からもその息吹は繰り返すから、こいつもずっとそんな風に変わらない世界を生きると思っていた。交わりもしないけれど、延長線上で良かったと、行く年くる年、心を躍らせていた。

本当にそんな日が来るのかと彼自身も思い初めていただろう。だからそれ程に、遂にと感慨深げに触れた写真は相変わらずジョーの全てだったんだ。と、思い知った。



「……なんてことだ」


良かったじゃないか。暖かな笑みに悪戯な温度を乗せた参謀長の言葉に、「そんなんじゃありません」なんてボリューム上げて返す余裕の無さ。そこにあるのは憧憬の念を越えた、最早私なんぞが届きもしない領域の想い。


これは言っとけばよかったなんて後悔じゃない。元々結果は変わりはしなかったんだ。ただ、一歩先へ進んだ彼、置いていかれた私。強制終了させられる残酷さに打ちひしがれてるだけ。

しかし、
任務となった以上彼は必ず出会うだろう。
たとえ一刻も早く出会いたいと手配書を見るあの眼差しが私に向けられる事は無くとも、同じ歴史を歩んだ旧友の目前に迫る運命に、誰よりも祝杯をあげてやりたい。



「何してる!走れ!!!!!早く志願してきな!」

「待て、俺も頼んでやるから!」



こんな思いでクラスタなんて飲んだら、益々腐らせた想いに告別できやしないだろう。解っているのに他の誰かを思う芯の強い眼差しは、どうしようもなく輝きを増して私を離そうとしない。だからいっそそのライフルで、あんたで埋め尽くされた頭を撃って欲したかったんだ。


でも。私はそれでも祝うから。
「もう一つ頂き」と銃口に得意気な息を吹きかけた、出会った頃の横顔を焼き付けておきたいと思う往生際の悪さと、あんたの残したブランデーに願う我儘くらいは許してほしい。



「ジョー。あんたの未来に乾杯」


寂しげに転がり落ちた林檎を広いあげ、一人窓から覗く景色は新芽に散りゆく仇桜。涙が出るほど懐かしかった。嗚呼、こんなにも清々しい世界に君だけがいない。



思惟線上のアリア





▼カクテル言葉
ブランデークラスタ/時間よとまれ
まつ様へ:バニージョーこじらせ記念。

まつ様より:頂き物
続編はコチラ→やがて花は散る

 


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