昔むかし。あるところに、
小さな島がありました。

その島の小さな村には、
ユメという
女の子が住んでいます。

この村には大人ばかりで、子供は他におらず、ユメは毎日を寂しく過ごしていました。


そんなある日
村へ海賊がやってきました。

今まで話し相手だった村人は
こぞって海賊の元へいってしまい、ユメは一人ぼっちになりました。

島にやって来たのは、
全てを取り上げる、
悪い海賊だったのです。


ユメは悲しくて怒りました。怒って怒って、仕返しをしてやろうと、ついに海賊の一人に飛びかかりました。

大きな体に小さなパンツ。
足には毛がつんつん生えていて
大きなごぼうのよう。
鼻は硬い鉄でできていて、
まるでロボットのようです。

それに水色の立派なたてがみと、
怪獣みたいな鋭い目。
その恐ろしい姿を前に、ユメは勇気を振り絞りました。

「帰って!帰って!」

えんえん泣きながら足を叩きました。すると、怒った巨人はユメをつまみあげて

「なんだこのガキは」

と、悪い顔をして、
今にも食べようとしてきます。
近付く大きな顔が怖くて、ユメは大きな声で泣きました。

巨人は口を開きます。
食べられらる!
そう思った時でした。

「しかたねぇなぁ」

そう言って、
水色のたてがみをポリポリかくと、巨人が急に、面白い顔をしたのです。


こわーい口は小さく可愛い形に。
まつ毛がびよーんと伸びて、
鉄の鼻はポロンと取れたりしました。

ユメはおかしくなって、つまみ上げられたまま笑ってしまいました。するとロボット巨人はにこっと笑って、

「もっといいもの見せてやらぁ」

と言って優しくユメを下ろすと、恰好いいポーズを決めて、

「ニップルライト!」

と言いました。
いったいどういう事でしょう、なんと巨人のおっぱいがピカピカ光ったのです。

女の子はたくさん笑いました。
お腹が痛くなって、砂の上を転がるぐらい笑いました。

巨人は満足げに優しく笑うと

「明日も来い、遊んでやるよ」

と言いました。
女の子はニコニコお家に帰ります。楽しくて楽しくて、帰り道で思い出してしまうせいで、帰りがいつもより遅くなってしまう程でした。

ユメはそれから毎日、
巨人の所へ行きました。

面白い顔を見せて貰ったり、
髪の毛を同じようにくくったり、
ケンタウロスごっこをしたり、
大きな腕で鉄棒をしたり、
大きな たかいたかい で
空を飛んだりもしました。

そして色んな事も教わりました。

こーらを飲むと元気が出ること。
背中を棒で、
つついてはいけないこと。
足の毛を引っ張ると、
怪獣に変身してしまうから
絶対にダメだということ。

そして毎日を元気に過ごせる、おまじないの言葉も教えてもらいました。

「すーぱー」です。
うーん と言いながら元気をためて、頭の上でぐーをくっつけてから、大きな声で「すーぱー」と言うのです。

これはすごいおまじないです。
不思議なことに、
本当に元気が出てくるのです。
ユメはその日から、
毎日すーぱーをしました。

そのおかげで毎日元気はいっぱい。ご飯に出てくる、大嫌いなピーマンが食べられるほど元気になりました。




ある日の朝も、
ユメは巨人の所へ行きました。ところがその日は、いつもの場所はからっぽで、誰もいません。

女の子は一生懸命、巨人を探しました。大きな体が入りそうな物陰をのぞいたり、こーらがあるお店を探したりしましたが、見つける事ができません。

たくさん、たくさん走って、
ついには、
海賊船の前までやってきました。

船の周りには
村の人がたくさん集まっていて
色とりどりの紙吹雪の中、
さようなら、さようなら、と
お別れを言っています。

ユメは悲しくなって、
今までふざけて呼んでやらなかった、巨人の名前を初めて呼びました。


「ふらんき、ふらんき」


その声が届いたのか、
船から巨人が降りてきました。

すると、いつも元気な巨人が、おいおい泣き出してしまいました。立派な水色のたてがみも、今日ばかりは、しょんぼりとしていて元気がありません。

ユメは悲しかったのですが、巨人が泣いてる事の方が悲しかったので、ぴょんと岩に飛び乗ると、すっかり元気のなくなった 水色のたてがみをよしよしとなでました。

「ふらんき、すーぱーだよすーぱー」

女の子は岩の上で、
すーぱーをしました。

何度も何度も、大きな声で。
元気になあれ。元気になあれ。
そう願いながら、
今までで一番の
すーぱーをして見せました。

すると、鼻水をたらして泣いていた巨人は、みるみる元気になって、今までで見たことがないくらいの、世界で一番の大きな大きな、かっこいいすーぱーを見せてくれました。

海の波がザバンとかかって、
巨人はキラキラ輝きます。

二人はもう、
少しも悲しくはありません。
巨人は女の子を抱き上げて
ぎゅうっとすると、
「大きくなれよばかやろう」
と言います。

なのでユメは最後に、
巨人に教えてあげました。

「ばかやろうは汚い言葉だから、ダメって言ってたよ」

ユメが知っていて、
巨人に教えてあげられるのはこれぐらいなのに、それでも巨人は、ばかやろうと言って、また泣き出してしまいました。

女の子はおかしくなって、
笑いだしまします。

物知りで、
色んなことを教えてくれる
大人の巨人でも、言う事を聞けない事が面白いからです。

お母さんがダメだと言う、
悪い言葉ばかり言うふらんき。
それでもユメにしてみれば、
可愛いばかやろうなのです。

二人はお別れをしました。
さよならをしても、
ユメはもう前のように
寂しくはありません。

巨人が言った、

「大人になったら乾杯してやるよ」

を、叶えるために、

毎日すーぱーをして、
嫌いな物も頑張って食べて、
たくさん寝て、

大人になるためのしごとで
毎日忙しくなったからです。


それからはユメは
遠い海を眺めなら、
毎日、毎日、楽しい日々を
大好きな すーぱーをしながら
少しずつ大きくなっていくのでした。


ふらんき、
大きくなったら、
いっしょにこーらをのもうね。


【おおきな ふらんき】


 


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