国語辞典・本のページ数を
指定してもらい、
出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画-45min.より
本「空色通信」より
【絵の具箱/ペイントボックス】
肌色から徐々に近い色を乗せ、様々にキャンバスが賑わってきた所で君の唇のようだと思いながら紅色を挿す。
この絵を描き始めて一体どれほど経った?
自身にそれを問う度に、重なり合った色と同様、苛立ちが重なる。唸り、頭を掻きむしり、筆を振り抜けば、赤の絵の具が茶色の蔦に花を咲かせた。
「アイスバーグって呼んでいいでしょ」
普段の秘書は冷や冷やと止めに入ったが、それでも無視して絡むる女を止め切れず。
「ンマー…いいか。名前は」
「応援要員派遣秘書、ユメでーす」
ふざけ倒し、なんの悪気も無さそうに笑う常識の通用しない女に、男の悪気が湧いてくる。俺が教えると直属の秘書を下げ、市長室は直ぐに画材の匂いで二人だけを包んだ。
「市民を代表して提出する絵画展用のよね。枝のぐちゃぐちゃに蔦と花?」
「ンマー、そうだな」
「下手くそすぎ」
「だから断ったんだ、お陰で本職ままならねぇ。ンマ、しっかり秘書応援やってくれ」
キャンバスに向き直ったが、予想通り背中にはまとわりつく温度、感触、香水。これも仕事のうち?と囁く声は、簡単に背筋を震わせた。
お前の様な女はそうだよな。
好奇心の軽さだろう?
ならば心置きなく頂けばいい。
雪崩込む奥の仮眠用のベッドは大きく鳴った。煽られた分だけ。悪気が薄れた分だけ。
「どうしよ、愛しちゃうかも」
そうか、お前の様な女がか。
だが真に受けはしない。
真に受けは、しない。
それがどうだ。
今じゃ目敏くお前の背中を探すから、筆は益々進まない。
「ユメはどうした」
「海軍が追ってます」
描くペースが止まった頃か。
俺を驚かせた、知らぬ間の現実と女の素性に、取り残された仮のアトリエは、混ざり合う絵の具で鮮やかさとは真逆の暗さを落とした。
「金庫が空なんです!どこの部屋も!!市長室も今すぐ確認を」
言い終える前に駆け込んだ自室の金庫はカラだった。しかしそれだけではない。最早、それだけでは無いのだ。
なあユメ。
何処まで掻き乱す気だ?
お前の唇はどんな軽さだ
少なくとも
馬鹿な俺を惑わせる程にか
木の枝は幾重に重なった。
白も橙も、
様々な色は狂った様に線を引き、
唇の様に赤色は散っていく。
ホールに飾られた無数の中で、それだけ明らかに異色を放っていた。丸でペイントボックスをぶちまけたような、混沌とした絵だと、額縁を前に誰かがそう言程に。
そうだ、あの女は。
重なり合う数多の色にカモフラージュされたこの中で、佇んで、なんの悪気もなく笑っているのだ。
唸り、頭を掻きむしり、筆を持たぬ拳を振り抜いて、全てを破り捨ててやりたい。しかしそれができぬ程、自由にもなれない立場がお前の存在に影を付け、遠目にも解る程に際立たせて、いつまでも消えない。
枝隠れのカモフラージュ、
巻き付く緑の刺、
赤い花に囲まれて、
愛してると、額縁の中が微笑んだ。
棘のファムファタル
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ファムファタル (仏:Femme fatale)
男にとっての運命の女、運命的な恋愛の相手、もしくは赤い糸で結ばれた相手。 また、 男を破滅させる魔性の女(悪女)
オムファタル (仏:Homme fatal)
運命の男。あまりにも魅力的で、引き付けられずには入られない危険な男