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出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画-45min.より

辞典お題【凹面鏡】





「ちょっと散歩」で世界を飛び回る男が帰ってくると言った日、これまで通り約束を守らないと踏んで、この島で一番高い木の天辺に短冊を吊るした。しかし家に戻り、自宅から出てきたその男と鉢合わせたものだから言葉を失う。


「散歩かね」


驚かせようとして笑ったのを見て、364日の想像上かと震え。そして胸に飛び込む。背中に回った温もりを半日で覚えるのは無理があると解っていながら、それに挑もうと必死で記憶。そして同時に、後何日と、来年の夏までのカウントダウンを始める。


一年分の何気ない会話を少し。
そして恒例の、大河に架かる橋の真ん中に座る。すると目も当てられないという感じの視線を感じた。

この日を一年待った。
だから念願のこの顔、この体、この声を前に、気になるものなんて他にはない。でも、男のあぐらの中に横向きで抱かれて、長い髪を三つ編みにして遊ぶくらいの余裕はあった。

「あそこで短冊を配っていたな。君は書かないのか」

「そんなもの書かないよ、あれはただの星じゃない。願いなんか叶えないわよ。ホント、幾つだと思ってるの?」

「さあ、君は年々美しくなるからな」

「まあ。上手く誤魔化してくれてありがとう」


笑った振動が伝わり幸せに包まれる。こんなに近くにあの瞳があるなんて、嘘みたいだ。目の前にレイリーが居るなんて。

長い髪に腕をゆっくり差し込めば、傾いた眼差しが、伏し目がちに視界を覆っていく。瞬きの合間に、やはり公衆の面前でといった視線を感じた。

でも今夜、彼はまた、
どうせ行ってしまうね。
そう思えば、他人の視線は全く優先順位に入らない。


しかし、目の前を通る、祭り帰りの親子だけはやけに私の目を奪う。父親がくじ引きの商品の袋を開けてやると、子供は目を輝かせて「不思議だね」と嬉しそうに言った。

あんなものを作ろうと考えた奴は一体誰だろう。光のトリックを使った、小さな箱の中央、鏡面に乗る織姫を取ろうとした少女の手は、何度も空を切る。

私はそれを残酷な玩具だと思ってしまうくらい、賢く不純に歳をとった。


「君は本当に空を見ないな」


この人も同じだ。
あの玩具と。

空を見ない女だと思っているだろう。短冊など書かないと、真に受けているんだろう。だったらこの人の見ているユメは嘘だ。


目の前に居るこの人も、本当はあるのか解らない。苦痛の毎日を過ごしても、今日を境目にまた貴方は居なくなる。だから、本当は、居ないのかもしれない。


「だっていい男が目の前にいるから」


はは、と笑う男の顔が、
幸せで胸を一杯に満たしていくのに、世界は氷のように冷たいな。

だから今だけは、
夢のような、
貴方の唇に溺れていようね。



凹面鏡の虚像

シャボン玉が幾つも浮かぶ島。
ベガは島の天辺で揺れる紙切れを照らし、アルタイルの輝きは女の家の円卓に射し込み、置かれた紙を照らす。

それを握り締めて走る男女の早い再開を、橋の下を流れる満点の星が照らしていた。



【凹面鏡】
凹面鏡(おうめんきょう)は、湾曲した曲面の内側を鏡面とした鏡である。鏡像が拡大されるので拡大鏡として使われる。
反射面が凹面になっている反射鏡。光源の集光用や,反射望遠鏡・投光器などに利用する。

ベガ:織姫
アルタイル:彦星


 


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