たとえどんな投稿がこようとも…
書いてやろうじゃねえか…!
どんな無茶ぶりも応えて見せるっ…!

そんなスタンスで、
無茶ぶりリクエストに対し、
1000文字前後の全力で
3人の管理人が挑みます。
−企画 panic room!−

第二弾 採用お題
【風邪で寝込む主、皆が
持ってくるお見舞いは?】

オムニバス形式
:ロー→シャンクス+ベン




熱を出したりすると突然寂しくなる。普段は心の隅っこに置いてある小さな事が、放っておけないくらい大きくなって、なんで今一人ぼっちで居るのかと、くだらない事を考え。
しんと静まる部屋で、この世界に自分だけと思ったり、どうしてこうなったと後悔したり。

しかし、
一見くだらないそれだけは、
薬などでは治せない。

弱った身体に漬け込む、
ひっそりとした心の病。

短いけれど
出口の見えないトンネルで、
ひとりぼっちの自分を抱きしめて。
必死で孤独に耐えている。



喧騒恋し


なんで電話に出ないの?
どれだけ待ったと思ってるの?

本当は自分で、その質問に正しい答えをつけられる。でもトゲトゲの感情は正解を答えたところで、丸くはならない。

デートをすっぽかされて、店にでも入ればいいのにわざわざ雨に打たれて熱を出し。この無意味な行動に「もう絶対許さない」とお門違いな怒りを上乗せして、一人で大きくなりすぎた想いに苦しむ。

熱に浮かされながら携帯を握り締め、「ローなんかに惚れたのが間違いだった」と、ことごとく不正解を送信してしまう、小さな自分に嫌気と憂鬱がのしかかる。


しかしこの重い戦いを、
深夜のインターホンは
軽々しくかき消そうとした。


「帰って」


すると無言を貫く外側から、
ドアポストに落とされるひとつの薬袋。



「風邪くらいじゃ絶対薬飲まないって知ってるでしょ」


そう答えても去っていく気配はない。気だるい体を壁に預けて、仕方なく開けてみれば、中には錠剤と、3日後が期限の遊園地のチケットが2枚入っていた。

こんな事では許してやらない。
そうは言いながら、そろそろ揺らぎそうな困らせてやりたい気持ち。しかし目に入った薬袋のラベルが、最後のトゲを完全に払い落としていった。



【惚れ薬】

一日 二回 朝夕
成分 悪かった100%




「ちょっと!馬っ鹿じゃないの?」


笑い過ぎて力が抜ける前に鍵を開ければ、倒れそうな体を支えてくれる、優しくて力強い腕。抱き上げて勝手にベッドへ運んでくれるその顔は、笑っているけども、真剣そうにも、困ったようにも見えた。


私ばかりが
大きい訳ではないのかも。

簡単にそう思える私は、きっと単純すぎるだろう。思う壺かもしれない。それでも「馬鹿には効きが悪い」と、唇を過剰摂取させるそれこそバカな闇医者が、孤独に泣いた時だけはタイミングを外さないあたり、いつも光に見えるのだ。


「ごめんね。嘘ついちゃったし。それも効きそうにないや」

「解ったから早く寝ろ」


遠回しな大好きは華麗にスルー。
まんまと寝かし付けられて、
不安と一緒に意識もとんで。

でも知ってるんだ。
瞼を閉じた少しあと、
必ず君が、囁く言葉。

ありがとね。助けに来てくれて。
元気になったらもう少し、
怒りっぽいとこ治さなくちゃ。





「調子はどうだ?」

「ちょっとましになった」

言ったそばから咳が出るから、眉を少しだけ下げて、シャンクスが心配そうに顔をのぞき込んだ。

「熱は下がってるな」

「心配しすぎ。ただの風邪だから」

追加の毛布を重ねがけ。
足元はじわりと温まり、体は抱き締められた体温で上昇する。


「いつまでも、そう言っていてくれればいいがな」


できるならもう少しだけ、健康な身体を持って産まれたかった。でも運命にばかりは逆らえない。

このままゆっくりと穏やかに、この人の胸でフェードアウトしたいと願うけど。きっと残される方は、たまったもんじゃないだろうなと、巻き付いて離れない頭を撫でる。


「ユメ」

「なによ」

「愛してる」


気弱そうな顔を笑い、情けないわよと喝を入れ。溜め込んだ仕事に小言を言って、駄々を捏ねる背中をひたすら押してやる。

人より明確に期限がある私が、残された時間で何をしてあげられるのか。それは消えゆく時のこの人の衝撃を、できる限り最小に留める事だと思う。だから愛をあからさまに囁くのはもうしない。


「お頭がまた拗ねてたぞ」

「情けなくてもう!男らしさの欠片も無くって笑えてくるわ」

「あまり笑うな。体に障る」

「はいはい」


本当に仕方ない人だわと言えば、
そうだな、と返される共感。

同じ人を頭に浮かべて、穏やかなひとときが流れていく。そして微笑みはそのままに、持っていた瓶の栓を開けた副船長は、サイドテーブルのグラスにそれを注ぎ始めた。


「風邪の見舞いをやろうか」

「…そのオレンジジュース?」


笑いを狙ってるとも思えなくて、ただ、からかう様に突き出されたグラスを笑うけれど。「永遠に生きられる薬だ」と、解りきった大嘘を自信満々に言い放つ笑顔に、副作用が止まらなくなる。

ありがとう
強がりを知っていてくれて。

どうしようもないけれど、
その一言に、
限りなく救われてるよ。




弱気な心に、元気になれと。

たったそれだけで、
出口の見えないトンネルに
光が差し込む。

暗闇を走り抜ける勇気を、
いつもありがとう。


 


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