たとえどんな投稿がこようとも…
書いてやろうじゃねえか…!
どんな無茶ぶりも応えて見せるっ…!

そんなスタンスで、
無茶ぶりリクエストに対し、
1000文字前後の全力で
3人の管理人が挑みます。
−企画 panic room!−

第三弾 開幕 キッカケ合作


合作になった「先生」の経緯

オムニバス形式
:クザン先生→おむれつめぃかぁ/春卵
:コラソン先生→21.In trutina/オル
:トラファルガー先生→恋わずらい/海原美波





先生


足で扉をガラリと開けて、
眠たげなクザン先生が入ってくる。


「おはようお前ら。あー…自習」



くあ、と大きな欠伸を一つ落とした先生は、片手を上げて挨拶を済ませ椅子に腰掛けた後、額にあるアイマスクをずらしながら、そう一言呟いた。
クラスの誰もが、あぁ、またか、と呆れにも似た笑みを浮かべる中、わたしだけは苛立ちを隠せない。

本当に、この人はいつもこうなんだ。
やる気があるんだか、ないんだか。



「クザン先生…!」
「…なによ」



ツカツカと先生の元へ歩み寄り、机に手を叩き付けて声を荒らげる。若干不機嫌そうにアイマスクを少しずりあげ、わたしの目を見据える。



「ちゃ、ちゃんと、授業を…」
「あらら…ユメチャン、ご立腹なわけ?」



その表情に怯みながらも、どうにか言葉を繋げるのだが、如何せん相手はクザン先生だ。そう上手くは行かない。でも、わたしだってクラス委員なのだ。負けるわけにはいかないのだ。


けれど、やっぱり。




「ねえ、ひょっとしてさびしいの?」
「…な、にを…っ」
「おれの顔が見れないから」




机に置いていた手をグイッと引かれ、思いの外近付いた顔に胸がチクリと小さく痛んだ。ずるい、クザン先生は。反則だ、そんなの。



「あらら…図星?それなら、さ…」
「…っ」





ー放課後、準備室へおいで




耳元でそう囁くクザン先生に、わたしはもう、顔に集まる熱を隠す事が出来なかった。
全く、この人はいつもこうなんだ。

放課後の誰もいない準備室で、
一体何をするつもりなの。







なに食わぬ顔で私の腕を開放したクザン先生は、しゃあねぇと一言、やっと気だるそうに立ち上がった。


「あー、あれだ。ほら、とりあえず静まれ」


冷やかしたり、ヒソヒソ話すクラスメイトの白い目を掻い潜り、任務を終えて席に戻る。

ああ、余計な汗をかいた。
さて次は、今日はクザン先生の授業がどう脱線していくのか、それをどう戻すのか誘導法を考えなければ。

下敷きでパタパタ風を送りながら、半ば睨む様にクザン先生を見る。しかし本人はやはりシレっと、今日もとんでもない事を言った。


「あー、言うの忘れてたんだけど、特別講師が来てる。今日の授業は音楽。新人先生だ、困らせんなよ」



「え、あ......は?」

周りを見れば皆似たような間抜けな声を出していた。あんぐりと口を開け、手を止め、ぽかんと去り行くクザン先生の背中を見つめて。
そして、その沈黙を裂く様に、ご機嫌なステップで入って来た、どぎつい先生に皆、困惑を隠せないでいた。



「音楽担当コラソンだ。ヨロシク」


コラ先生でいいぞ、とはにかむ先生は前列の男子の頭をポスポスしているが、完全に温度差がある事を本人はものともしない。 そしてこの人が先生らしく見えたのは、百歩譲ってもここまでだった。


偉大な音楽家たちの額縁を後ろへ並べ、代表曲の授業かと思えば、間もなく前列から後ろ手に配られてきたタンバリン。もう嫌な予感しかしなかった。


「今日はリズムについて、だ」


ついてこいと一言、
真似をするように言われたが、高速タンタンについていけるものなんて一人もいない。


「タンタン、タターン、スタタン、ッンッン、タンタン…ハイ、ここは消えるの術!」


足でリズミカルに4カウントを刻む先生は悦に入り、未だ置いてけぼりの私達はついに叩くのをやめ、だらりと腕を垂らした。

まばらに聴こえるのは諦めを含んだ、揺らすだけの間抜けな音。一人、タンバリンと踊り尽くすコラソン先生の後ろで、バッハは睨みをきかし、シュトラウスが哀れむ様に俯く。 見放した様に上を向くシューマンは「ほっとけよ」と言っている気がした。




「あのー……先生チャイム、鳴りました」


「あ?ああ、待て待て!最後はピアノでジャーン、ジャーン、ジャーンだろうが!!いいか、いくぞ!起立!」


勿論礼をしたのは、
勢い良く指を挟んだ先生だけだった。







「何なの今日の授業…」

というよりも、この学校はこんな先生ばかりでよくやっていけるなとつくづく思う。
クラス委員という立場上、他の生徒よりもそんな変わり者の先生と関わる場面がどうしても増える。

「おい、待て」

そしてそういう関わりは、休み時間だとしても変わらない。
聞こえた声に条件反射で止まってしまった自分の体を恨みながら、ギギギとぎこちなく動く首をそちらに向けた。

「ト、トラファルガー先生…」
「ちょうどいいとこにいたな」

クイッと眼鏡を押し上げてにやりと笑う先生に、周りにいた生徒が黄色い声を上げた。
アイドルか何かか。
呆れ半分、嫌々半分でそのまま数学準備室に入る。

「このノートを持って行け」
「…はいはい」

私以外の女の子だったなら、きっと喜んで引き受けて媚を売りまくるんだろう。
だってそれぐらい、カッコイイ。
低いテノールの声だって、眼鏡の奥に潜められた濃紺の瞳だって、骨張った手は大きくて、その手で撫でられた頭は温かくなって。
だけども、勝手で横暴で、噂によれば女の人だって取っ替え引っ替えだそうだ。
そりゃ、これだけカッコよければしょうがないのだろう。

「失礼しまし…」
「ちょっと待て」

ズッシリと重たいノートを抱えたまま呼び止められ、少しの苛立ちを感じながら振り返る。
すると思いの外近い距離に、反射的に後ずさった。

「…髪についてる」

スッと触れた指先にビクッと肩が震えた。

「…取れたぜ」
「あ、ああありがとうございまし、た、?」

そのまま指先が離れたかと思いきや、掴まれた顎に疑問符を浮かべる。

「フフ、このままサボってもいいんだぜ?」
「な、にを…」

ガラガラ

「失礼しまーす」

突然、ノックも無しに開いた戸に私達は固まるしかない。
いやむしろ固まったのは私だけで、トラファルガー先生は小さく舌打ちをして私から離れた。
私は依然、固まったままだ。

「ノックも無しに、何の用だ?」
「同じクラス委員として、手伝いに来ただけですよ、セーンセ」

固まる私の手から半分以上をひょいっと持ち上げ、それを片手で持つと、もう片方の手で私の肩を引き寄せた。

「んじゃ、先に教室に行ってるんで」
「あ…」

先生の方を振り返る間も無く、閉められた戸。
今の一瞬で何が起こったのか、未だ頭の整理が追い付かない私を置いて、彼は先を歩く。

「ま、待って…」
「あのさァ」

ピタリと立ち止まって振り返った彼は不機嫌で、ふわりと金髪が揺れた。

「朝から無防備過ぎ」
「む、無防備って、だって」
「そんなんだから」

スッと一冊手に持ったノートが振りかぶられ、頭に来るであろう衝撃に思わず肩を竦めて目を閉じた。
だけど衝撃なんてものは来なくて、目を開けて顔を上げてみれば、ふわりと唇に触れた何か。
近すぎて、よく見えないのは彼の顔?
唇に触れているのは、じゃあ…。

壁になっていたノートをトンと肩に当て、イタズラが成功したかのようにペロリと舌を出す彼を呆然と見上げる。

「そんなんだから、おれみたいのにファーストキス奪われんだよ」

遅れてやって来た理解に、一瞬で全身が真っ赤に染まった。

「ちょ、ちょっとサボ君!!ファ、ファーストって、ちょ、もう!」
「あ、あながち嫌じゃなかったんだ」

もう今日の出来事全て吹っ飛んでしまった。


 


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