国語辞典・本のページ数を
指定してもらい、
出た単語をテーマにして
「45分以内を目標」に
指名されたキャラで書き合う
お勉強企画-45min.より

辞典お題【怪火】





うふふ。…うふふ。


たかが新聞の切り抜き一枚
あの人が通った道の砂利
ただの麦わら帽子。

多少に関わらず、それらを前にするだけで、こんなにも手が震える。青い火の様に心の底からゆらゆら燃え上がる悦びはとどまる所を知らず、こうして戦慄きをヨダレに変える。


「ふふふ………ハハ、……アハハハ…!」


脳内に浮かべた予想という妄想は、余りにも鮮明で眩暈すらする。更に褒めてやりたいという自画自賛が加わり、胸は熱く鼓動を速めた。


「気持ち悪いっすユメさん」

「幸せの絶頂なの。放っておきなさい」


こいつらは仲間だがどうでもいい。目もくれず片手でひらひらとあしらい、卓上に広げたアイテムを大事に大事に、神聖なる専用箱へ入れ、ゆっくりと定例会の船長室へ向かった。




「…っせせっせ!」


ああくそ、まただクソ。
ここへ来るといつも緊張でおかしくなる。


「せっせせ、船長」


やっと出た言葉に安堵。
そして間を置かず響く足音に、また脳内でせせっせを唱え始める。


「ユメ!!!…あのお方を語る趣味共有の時間だけは!名前で呼べって言ったべ?!!」


ばーんと。
そこに立つ船長は、既に頬があか、赤らんでおられる。

深呼吸を何度も繰り返しすぎて、過呼吸を起こしそうな体を支えられ、更には泡を吹きそうだったが、抱えた箱は何がなんでも死守した。


「ばば。ばばっば、ばとるっ…あ」

「長いならロメオでいいって言ったべな」

「……………ロッ!」

「よし始めるっぺ」


船長は既に、すー、はー、と鼻で深い息を繰り返し、心の準備を整えに入っている。私もこれを見習い、しっかりせねばと、同じ様に鼻深呼吸を繰り返す。


「さあ…今回のお宝はなんだ」

[先ずは某国の地域新聞です]

「あっ!!!、…ふぁっ!あ、こ、これはっ…あああ!!」

「はい、滞在情報は確かでした。間違いなくこの写真は…通りすがるあのお方の、お腕でしょう」


震える船長は大粒の涙を溢す。

お肉を握ってらっしゃる
この筋肉の筋の付き方は
このお召しものは紛れもなく

そう呟き、小さな切り抜きを大きな両手で摘み、紅潮した顔で子供のように喜んで。



そしてその姿を目の前に、
私は「あああ解りますそのお気持ち解りますよ」と相槌を打つ。そして次なる物を取り出した。


「そしてこれがその時通った…この写真の道の……………砂利なのです」


掌に収まる小さな麻袋から、白い皿へその砂利を静かに注ぎ入れていく。すると徐々に傾き始めた船長は、愛しき人との再開を果たした様に、その瞳を揺らした。


「あああこれが!!!!…あのお方のっ!…勇敢でいて鮮やかなる歴史…軌跡なんだべなっ!………ああ前が見えねぇべ…目に入れたいが俺が至らねぇばかりに、見る事も……かなわねぇ!!!」


悦びに満ちた瞳から、
滝のような涙を流す船長に酷く共感。「ええ解ります。解りますよ」と声にならない声で呟く私も止まらず、遂に涙で船長は見えなくなった。

しかしまだ終わりでない。
とっておきのものがまだ、
ここに、あるのだ。


「落ちついて下さいばっばばバル」


「おっ、こっここ、これが落ち着いていられる訳がねぇべ!!!…っっユメっあ…かんじまったクソ!てて、て、てめぇも落ちつきやがれ!!」



向かい合って互いに鼻から息を繰り返し、箱に残った最後の大物から目隠し布をバッと取り去れば、人食い残忍無比と呼ばれる船長は、遂に足元に崩れて膝をついた。



「……………っっっハァァァァ!……声も…でねぇ…でねぇべ…!」



そして下唇を噛み締め、
悶え震えるお姿に、また共感。「ハァァァァ!そうですそうなんです」と掠れた声で、懸命に口を開き、息だけが抜けていく。

その国の民が、去っていく彼らを思い、あやかって立てたグッズ屋の売れ筋商品。赤いリボンの麦わら帽子。


船長はもう、
喜怒哀楽の喜楽に悦を加え、
半崩壊で微笑んでいる。
そして私も緊張で半崩壊。




「失礼しやっす、船長」


「てええめえええ!!取り込み中だ!!!毎週この日は入るなと言ったべなぁぁ!ああん?!!」


「すいま!すいませぇぇぇ…いでえええ!!!」



そんな中、邪魔をした仲間をバリアで吹き飛ばした船長は、更に私達の四方を透明の壁で囲ってしまわれた。



「こ、こっこここれで邪魔者はっ居ねえべ。………っ…ユメ…来週も2人きりで、定例会だ…わわっか、解ったな!!」


「はい船!いや、ばっばば」


「テメェ名前で呼べと!」


「はい。…ばっ…………ロメオ…さん」



泡を吹いて気を失った私は、
いつもこうして
定例会の最後を覚えていない。



しかしきっと。

私はまた来週の定例会へ向けて、あの方を敬愛して涙する船長のため、不可解な緊張と悦楽を抱えながら、必死で関連するものを掻き集めるのだろう。


【怪火(かいか)】
怪しい火
原因不明の火事



 


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