45min.
南斗 学パロ 7/7七夕

お題
【ハッピーエンド】










『七夕の夜、少しでも雨が降れば二人は会えないと言われている所もあれば、雨でも二人は出会える、あれは織姫の嬉し涙で、雨の水で汚れが洗われると伝わるところもあります。』



図書室の棚と棚に挟まれて、各地の言い伝えなんかが書かれた本を見ていた。とても興味があるって訳でもないんだけど、貸し出しカウンターの近くにある、子供達の作った煌びやかな笹を見て少しだけ気になったから。



そして本を開けば冒頭のあれだ。

今日は朝からじめじめと雨が降ったりやんだりで、山の手からは霧が出ていた。涼しくてラッキーだと思っていたけれども、子供達からしてみればやっぱり残念なのだろうか。

この本によれば今夜は織姫と彦星は会えない事になる。嬉し涙説に関しては全く意味が解らない。実は会えたという設定で、思わず織姫が流した涙で我々は心が洗われると言うんだから。

だったら洗ってくださいよ。
世界の全てだってくらい大好きだった人が、卒業を控えた三年目にして留学してしまって、笑って見送る事もできず、応援する事もできず、だからといって諦める事もできない荒んだ私の心を洗ってください。


本に向かって不満を言ったって無意味なんだけども、一年通して情緒不安定気味だった私はやっぱり涙ぐんでいた。そしてトドメの一文を読んで、まさかの号泣。


『一方、二人が会えば病がはやるとして、会わないように雨を願うところもありました』


ああ、なんてことだ。
とんだバッドエンドじゃないか。

二度と彼と再開できないように誰かが祈った雨だというのか。ライバルに近い人を思い出し、お前かー!と脳内で元気にツッコミを入れてみるけど、やっぱり切なさは抜けやしなかった。


「久しぶりだな、ユメ」


「はい?」


誰だか解らず取り敢えず振り返れば、懐かしい身長差でとんでもない人が笑っていて。思わず落とした「子供のための七夕伝説」はサンダルから覗くつま先を直撃した。


「痛っ!…あ、あ、あ。なんで帰って?卒業まであっちにいるらしいって!!」


「相変わらずそそっかしいな」



毎日見てた写真より更にカッコ良くなった彼は、綺麗に笑って本を拾い。私が見ていたページをさも真剣に読む振りをしながら、困った様に喋り出す。



「報われぬ恋をしてるそうだな」


なんで?!と叫びそうになるくらい驚いた。確かに口癖は報われないわ。だ。でも本人が何故それを知って口にしているかと。望みのない私に、この確信を突く話はタブーだ。終わっちゃうじゃないか。

そう思ったら、さっきまで泣いていた分、簡単に涙が溢れてくる。一年分の恋しさと寂しさでネガティブになった頭に所詮バッドエンドの文字が浮かんで、自然とさっきの一文が溢れた。


「最悪。病が流行っちゃう」



本を閉じたパタンという音が少し大きく聞こえて隣を見上げれば、棚に手をかけたレイさんが本を戻し、その手で私の頬に触れた。


「それは干ばつに苦しんでいた人々の作り話だ」


不思議な距離感に窓の雨粒が光って見える。何故彼はこんなに優しく笑うんだ。察しのいい彼に気付かれるには充分すぎる言葉を漏らした事に、私はまだ気が付かず。


「誰かがね、二人が会わないように呪ってるんですよ」

「願う、だ。それに今言ったろう?昔の人の作り話だ」


にこにこ、ずっと微笑んで。
いつの間にか頭まで撫でてるこの人は。全く人の気も知らないで。私ばかり思いを重ねてめそめそ泣いているのが嫌になる。


「もうね、報われないんですって。今日は雨だし二人は会えないんです!!」


胸板を両手で押し返せば、
私の手はそのまま彼に捕まって。


「目の前に居るのにか。困ったな」


ぐっと結んだ下唇にほんの一瞬だけ彼の唇が重なって。頭が空っぽになった私は隠し通したかった筈なのに、自ら確信に歩み寄る。



「これはどういう事ですか」


「鈍いな。織姫はずっと昔から報われていると言ってる」


「言ってない…!そんなにはっきり聞いてないです!!!」




そう抗議する唇にもう一度、
次は少しだけ深く、長く。

うるさいと注意しに来た人が驚くまで、バッドエンドを説き続ける唇に彼はいつまでも愛を囁いた。





ハッピーエンド主義





―――
【ハッピーエンド】
物語などの、めでたい結末


 


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