45min.
お題
【セカンドラン】【ポートレート】
現パロ





スタジオを出る直前、
よく見知った男と鉢合わせてぶつかり、足元に何枚もモデルの写真が散らばる。

拾ってやる気など毛頭無かったが、なんだ、ユダじゃないかと溜息を零しながら拾いにかかるその手が掻き集めた中にユメがあって、自然と手が伸びる。



「ユメ…お前はこんなもの好きじゃないだろう」


「いや、そうは見えなかったぞ?撮影を見たが楽しそうにしていた。頑張りますと新人並に意気込んでいた」



敬愛するタマラのオートポートレートを模したのだろう、緑のブガッディに乗った小洒落た一枚の衝撃が時を止め、あの日々を呼び起こす。

洒落た事など大嫌いだと言っていた醜い女が、扉をノックした、あの日。


「ウォーキング教えて。モデルになる」

「なんのためだ?素質もない、こちらに得もないのに引き受けるとでも思ったか」

「ユダ好きだから追っかけるの。だから私モデルになる」


しばらくの間あしらっていたが、
偉そうに息巻くものだから、ついてこられるのならやってみろと鼻で笑った。

嫌々始まった日々の中、
スパルタだ、酷いとユメは何度も泣き、その度に帰れと締め出した。笑いあった瞬間も僅かながらある。穏やかな瞬間もあったか。あまりにも憧れるから抱いてやった事もあった。
しかし、それを愛だと、早とちりされた時は激しく口論になった。

"美しくないものなど愛する訳がない"


泣き言をいう普段の顔とは違う表情で涙を一筋流したユメは、その数日後、飛びたいからと書き置きを残して手元を去った。






「大丈夫か?まぁ、お前も見ておけ」


友人は、彼女の売り込み用の宣材写真が幾つも挟まれたポートフォリオを置いて立ち去った。


あの日々を過ごした部屋に篭もり、そのファイルを開く。 面倒臭がりで洒落た物など嫌いだと言ったユメとは思えない数々が、次も、その次も続く。ページは段々薄くなり、軽くなった右側を捲ればこれが最後の一枚だった。


モノクロの、立ち姿。
背後から撮影されたアングルは、初めて見た涙の日を思わせる憂いた横顔を写す。タイトルは...セカンドラン。艶やかすぎる一枚に笑った。

そして片手のワイングラスをテーブルに起き、ファイルを閉じて、ノックが呼ぶ玄関へと足を向ける。




「ただいま。…レイからきいたよ。ねえユダ、今度こそ愛してくれるよね?」




私、こんなに、綺麗に。
彼女がそう言い終える前に堰は外れ、今度こそ情けない程の弱みを晒して抱き締めた。








【セカンドラン】
一流映画館で封切りのすんだ映画を上映する事。再上映。


・ポートレート
肖像(画); 肖像[人物]写真,

・ポートフォリオ
真家・デザイナーなどが自分の作品を整理してまとめたもの」「モデルなどが売り込み用の自分の写真を入れるもの」もポートフォリオという。

・画家 タマラ・ド・レンピッカ
オートポートレート (緑色のブガッティに乗るタマラ)




 


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