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お勉強企画-45min.より

故事成語辞典
お題【蜀犬日に吠ゆ】









如何に愛しき人か、それが君に伝わっていないのだとすれば、私はもう少し言葉を学ばねばならない。



「このお花どうしたの」

「ユメが好きと言っていただろう?」



白いテーブルに飾られた花は揺れ、
君は向かいで瞳を揺らす。


「トキが、一人で、お花買うの?」

「気恥しくはあったな」



頬杖を付き、そんな素直に受け取れない君を見て、頬は益々緩んでいく。


「可愛いお姉さんが居たとか。」

「君以上に可愛い人は見た事が無い」


揺れていた瞳は風に吹かれ、視線はそのまま居心地悪そうに下へ落ちた。


「嘘がお上手デス」


女性の名前を次々に並べ、
その全てに劣るのだという君が世界で何より可愛らしく愛しいのだという事は、やはり今日も伝わらない。

言葉とは難しいものだ。
先人たちの時代より現世に至るまでのありとあらゆる言葉をもってしても、君は決して正面から受け止めはしない。


しかし、
有り余る愛を持ってしても
揺れる瞳を、俯く君を、私は。


「ユメ」



手を伸ばし、頬に触れるだけで目を閉じた君を見て酷く苦しくなる。そしてふと、ああ、愛しすぎて伝わらないのかと。

続きを紡げなくなった唇を重ねれば、今日もまた愛しさだけが募っていく。一刻も早く伝える術を学ばねば、私はいつか獣にでもなってしまうかもしれないと、ただ穏やかに過ぎる時を笑った。


【日に吠ゆ君を】





―――
故事成語辞典より
【蜀犬日に吠ゆ】
中国の高山に在る“蜀”地方は霧が深く、時間も短いために、そこで飼われている犬は、たまに太陽が照り出すと驚いてほえるという話から、(無知なために当たり前のことにも驚き、恐れ怪しむこと。)また、見識の狭い者が、他人の言動を怪しんだり批判したりすることのたとえ。

 


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