事の始まりは、ある日の千秋楽の打ち上げ宴会だった。普段なら無視する着信画面を見て、その場のゴキゲンを切り換えられず、何でもない風で、その電話を取ってしまった。



「俺、本人役でショートムービー出演すんだけど、キーパーソンが降りちゃったんだよね。…ユメ、代役やってくんね?」


「…エキストラじゃなくて…代役?」


「あぁ。稽古なんてねぇよ、来なくていい。撮影本番だけ。ほとんどロードムービーみたいなもんだし。セリフは名前呼んで返事するだけの四つしかねぇから!頼む」


「…後で詳細送っといて」



連絡を無視している間に連絡はパッタリ来なくなっていたから、本当に久しぶりだった。


なんで電話取ったんだろうか。
千秋楽の不思議な空気に当てられていたのかもしれない。
芝居の最終日、最後の幕引きはいつも、そんな夢のようなマジックがかかるんだ。


台本は敢えて渡さず臨場感を出すために当日の説明になる事、動きだけナレーションが掛かるからその通り動け、お前側の音は全部なしで、セリフまでナレーションが入るから安心しろ。車出して指定位置に迎え、着いたらをディスク聞いて現場へ、そんなモーション撮影の指示だった



別の場所でカメラを積んで貰って出発して私は、指示通り目的地のスキー場へ向かった。
道はガラガラに空いていて、思ったより早く着く。

機材がいくつかと目印で立ってる人が数人いて、指示された通りに車を停めた。多分、この目の前の坂を、フロントいっぱいに映したいんだろう。

ひざしがこの件に私を呼び出した事、それにこの場所、もう既に疑問を持っていた私は、ディスクを入れるのが少し嫌になってきていたが、やけに綺麗な景色に励まされて、持たされたディスクを入れた。




―――
…よし、シーン説明な。

これは俺本人役のムービーだ。
病人で寝てる。
危篤で死ぬ設定で、
待ち人を待って
奇跡的に生きてるとこ。
これ聞いたら病院直行な。

そっから俺見て四つセリフ、
おけ?
呼ぶ回数はアドリブでも

今から本編に入る予定のナレ、大ラスまで入るから、セリフ合わせと思って。じゃ病院で。


―――…
-
-
-
行き先がある様で無い。
どこかふらっと行こうかと思いつつも、信号で引っかかる度に帰ろうかと迷う投げ槍で軽薄な意思のまま、疲れたからこそ帰りたいんだ、それならより美しく空を見たいなと、行き先が決まった。
―――…





心情を置いてけぼりにして、
勝手にストーリーは進んだ。

奇跡的に生きているが危篤で死ぬと無神経に言われ、冒頭から浮かんだハテナと怒りと涙。

今、私が聞いてるひざしは生きているのに、なんの準備も整わないまま、綺麗な想い出と景色を見せられながら、突然死生観を問われて泣かないでいる方が無理があった。


まずストーリーが酷い。

なんの企みか私の役名は「ユメ」で、過去を折混ぜられて、私のひねくれた感情を見栄えよく整形し直して、捏ね直し、更に盛ったようなナレーションが、こうした方が良かったよなんて後悔を突き付けてくる

勝手に私を語り上げて、
そしてひざしは勝手に、
風になって死んだ。




前に集中するには涙が邪魔で、こんなものを打ち合わせも無しで聞かせて、よく私がハンドルを握れると思ったな、と。

勿論聞かされていたら断っていた。
構っていられない涙が、
自分で可哀想に思う。


荒ぶる気持ちと感傷を抑えていたのは、今も車内カメラは回っているんだという、ひと握り残った、代役の雑草魂だけだった。



木ばかりだったエリアをぬけて街が見えてくる。見晴らしが良くて目的地が小さいブロックの様に思える。
あのブロックの中にはひざしがいて、今から聞かされた通りに展開しろという。

もう帰りたいと思うのに、一度でも死を思い描いてしまった事を打ち消すためには、撮影後の生きた姿をこの目で見て確認しなければならなくて、怒りと悲しみに矛盾した会いたいが苦しかった。



私の舞台魂なんて、ゴミみたいなもんだ。握りしめた小さな"役者である私"は、病室の扉を開けて、コードにまみれたひざしを見て消失した。
暗記していたのか、勝手に出た言葉がセリフになったのかは覚えていない。現場人からの一見して卒ない演技は、紛れもなく取り乱した私の混乱から零れた本心だった。



重ね取りのナレーションは、無くても大丈夫だから安心してねと、本人より先に勝手な意味付けをする


台本を読んでどんな心持ちで挑むのかも必要無いと言うし、車内の音も使わないから声も必要ないという。見映え上、涙も、目から出る水であるなら意味は何でもいいという。

私は、
やっとこの指示が持つ意と味を、
自分にもたらすダメージを知った。


―――…


ひざしが居なくなったら、
私の声は亡くなってしまうよ。
お喋りな心が亡くなってしまうよ。
私は、君に言えなかった分まで、
心くらい君みたいにお喋りでいたいよ。
―――…



「ひざし、愛してる」


「…オマジナイ、かけてやる。風が吹いたら、それ、俺が、隣で、愛してるって…言ってる」

「解った」

「ユメ、愛してる」





なんでお前も泣いてんだよ




「お疲れ様」と上手な真っ白を労われ
「良かったですよ」と無い事を褒められて

完全に行き場を無くした。
用無しだったんだ。

そんなの、
逃げるように去るしかなかった。





Keep the beat going
&
The show must go on







………

Keep the beat going
ビートを響かせ続けろ

The show must go on
古くから使われてきた、舞台.ショービジネス.などエンターテイメントにおける有名な慣用句で、一度幕を開ければ中断ができない事から、「どんなトラブルに見舞われてもショウは続ける。止めてはならない」というもの



 


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