心中
「なぁ…なんでいつもサンて付けてんの?」
「え?」
「ひざしでよくねぇ?」
ヒーロー名で呼ぶのは今更で、
山田くんと言うほどよそよそしい関係でもなく。
やっぱりひざしさんなんだよなぁと考える。
ひざしは…さぁ、…だってなんか。
「…呼びづらいって言うか…なんて言うか」
「…ハァァァン?」
思考する間の沈黙を分かつ様に聞いていたひざしさんだったが、直ぐに片眉を釣りあげて口元が不敵に歪む。
この人の悪巧みの顔の裏にはいつも爆弾が潜んでいるから、嫌な予感がして私の目線は捕まってしまった左手を無視して壁の辺りを見た。
「恥ずかしい、とかァ?」
「…そうじゃないと思うんですけど…しっくりこない…っていうか」
「しっくりくること、ばっかなのにィ?」
言葉を失って益々戻れなくなった視線は顔ごと捕まってしまった。思わず跳ねた肩なんて知らん振り、両頬を手で挟まれて無理やりおでこを付けられてしまって息遣いが浅くなる。
サングラスは用意周到に外されていて、
いつの間に胸元で邪魔そうに揺れていた。
「練習…しよっか。言ってみ」
「、ひざしさん!」
「…やり直し…」
反論も何も、
後の台詞は思い付かなかったけれど。
ただ追い付かない気持ちを伝えようとした私の言葉は、もう彼のペースに巻き込まれて轢かれてしまった。とんだ大事故だ、胸が潰れてしまって大きな音が自分の鼓膜に嫌に響く。逃がす気のない悪戯な顔が口を重くして、これは時間をかけるほど大怪我をしそうだと観念した私は兎に角、言葉にする事に専念した。
「…ひざし」
「…ンー、不合格」
頑張った割に評価が厳しくて抗議するようにひざしさんの目を見た私は合わさった視線に理由を理解してしまって、抗議したい相手であるのに、頑張るには心もとない気持ちで、それでもいいと、しがみつきたがる行き場のない手でひざしさんの服を掴んだ。
「…ひざし」
「…もっかい」
「…ひざし」
「あと五回」
不合格を貰わない様に、目を逸らさないように。
どちらが視線を外すのが先か、キリキリとした戦いに敗北したのは私の方で、瞬きに隠れてまじないをかける不思議な唇へ目線が落ちてしまい、ひざしさんの試す様な瞳は、名前を呟く度に重たくなる口元の動きへと緩やかに移り、色を変えた真摯な眼差しが伏せられる頃には唇へと落ちた。
上に、下にと順に柔らかく啄み、最後に呼んだ名前の隙間を食まれる頃には両頬を包んでいた手は髪をまさぐりながら指先が疎らな動きで頭を撫でた。
「堪んね…ずっと呼んでてくれよ」
「…わ、ちょ、何するの」
「しっくり、くること」
脇の辺りを掬われて足が床から離れ、抱き上げられて思わず首元に手を回せば胸元にひざしさんの顔が沈んで、腕に乗せたまま歩いた彼は私の背中で隙間の開いた寝室のドアを押した。
【心中】男女が互いの愛情の変わらないことを示すため、
いっしょに死ぬこと。