BGM:アメノイロ。/懐古
ツイ マシュマロ
頂き物お題【さぁーて来週のマイク夢はぁー?「ホントに俺でいいの?」「金木犀の香る夕暮れ」「不意打ち」の3本です((タイトルお題投げていいって言うたやんなぁ?にっこり】より
ツイ マシュマロ
頂き物お題【さぁーて来週のマイク夢はぁー?「ホントに俺でいいの?」「金木犀の香る夕暮れ」「不意打ち」の3本です((タイトルお題投げていいって言うたやんなぁ?にっこり】より
金木犀の香る夕暮れ
休日明けの冷え込みは、
悪い予感なんだか、悪寒なんだか。
あやふやなまま向かった職場で熱を出して早々に帰らされ、無駄になった往復分の疲労で動く気にもなれなくて、空っぽの冷蔵庫をお腹いっぱいにしてやる元気も出ない。
仕方なくあり物で簡単な自炊を試みれば、
猫の手を切ってしまった。
外出を躊躇って窓の外を見れば、
雨模様は憂いに上乗せて、
まざまざとオレンジの絨毯を見せつけた。
私に、
金木犀が似合ってて可愛いなんて言うから。
そうやって密かな恋心に花束を渡しておいて、
貴方が微笑みかけていたのは違う子で、そこが運悪くオレンジを敷き詰めた可愛いをくれたあの場所で。うっかり幸せな気持ちで買ってしまったコロンを捨てる事も大切にする事もできなくなってしまった。
散るならさっさと持っていけばいいのに。
絆創膏なんて久しく使っていなくて、もう仕方がないやと諦めた私は、どうせ雨が流してくれるわよと自分を励まして、指に間に合わせのハンカチを結び、家を出た。
金木犀は雨が降ったら潔く散ってしまうから、
気高い人って意味があるんだって。
上品で高貴な、品格が高いだって。
ただあの人を好きなだけ。
柔らかく吹く風みたいに現れては笑わせてくれて
小さな動揺には安心を、
先の見えない不安に大丈夫を、
前にも後ろにも進めない迷いには、
OKOK。オールコレクト、と。
全て正しいと言ってくれたその中に"どうあってもいいよ"と、ガラスのハートの弱虫が強虫になって、たとえ一瞬でも、蝶にでもなって飛んだ気にさせてくれたから。
維持を選んだなりに命懸けで抱き締めてるんだ。
ずっと好きでいれば輝いたまんまなんだって。
私が揺らがなきゃ終わらないよだなんて自分に言い聞かせておいて、本当は、贈り物の様にくれる甘さがひとり遊びだったらと、直ぐにグラグラになってしまう。
貴方がくれた可愛いなんて、
到底、追いつきもしないんだ。
傷付くのが怖いなんて保身が高貴なわけは無く、
ずっと喚く姿が上品なわけ無くて。
少しも気高くいられないんだ。
好きでいる以前に自分を好きになれなくて、
貴方は言ってくれるのに、
どんな私でもOKだなんて自分には思えない。
だから時々疲れてしまって、
いっその事散ってしまえと思ってしまう。
そうすれば少しでも可愛いに近ずけるのかな。
「オイオイユメ…そんなカッコで何してんだよ?…そりゃ流石に冷えんだろ」
歩道に寄せて止まった車と、
降りてきた姿と、声と。
不意打ちの甘い風が吹き抜けて、
濡れた足もとを瞬く間に巻き上げた。
突然冷えて、だって、
何の準備も整っていないのに。
なんで、どうして。
そう言葉にする気力も持てなくて、
ただ会いたくないと会いたかったが五月蝿くて、
マイクさんが滲んでしまった。
「……どした?」
「風邪、うつります、離れて」
「は?!」
一歩引いた身体は簡単に捕まってしまって、
背がしなる急速な動きで少し呼吸が詰まる。
額に触れた瞬間バレてしまって、
彼はすぐ眉をしかめた。
「…熱あんのになんでウロついてんだ!送るから帰んぞ」
「食べるものと…絆創膏と…」
精一杯口を開けば、
彼は指元に巻いた赤が滲むハンカチを摘んで、
ああとひとつ、ため息が零れる。
「……悪ィ、本当ゴメンな」
彼が差していた傘と、
何の話か理解しない私を置き去りにして、
突然抱き上げたマイクさんは車のドアを開けた。
「連れて帰るわ」
雨が体温を浮き立たせるから、
ゴツゴツした腕や胸元の熱で苦しくなる。
花の上で浮つく、置いていかれた青い傘がサイドミラーに吸い込まれる光景を見送って、街を駆ける音を閉じ込めた車内ではずっと、鼻から抜ける荒い呼吸と心拍だけが跳ねて響く。
次に車を降りる頃には頭からジャケットを掛けられて、忙しい歩調を庇う様に胸へ押し付ける手のひらに頬を預ければ、跳ね返る熱い呼吸が服を暖める。襟の中から見上げた首筋は、容赦なく雨に打たれていた。
「マイクさんが、風邪、」
「ひかねぇよ」
鍛えてる上に馬鹿なんでと大袈裟に心配をあやす手は、ソファへ座らせて脚を取り、一足ずつ靴を脱がせ、冷たくなった足首を丁寧にタオルで拭っていく。後の所作を嵐にでも巻き込まれている様だと他人事のように感じたのは、もう見ていられなかったからだった。
目を覚ました時、
組まれた足が目に入り、少し先にある机に肘を着いた真顔のマイクさんがこちらを見ていて目が合った。
そこに言葉はなくて、気まずさから逃げたくて見つけた違和感は左手の中指で、ハンカチに代わって、皮肉にもあの花を思わせる落書き付きの絆創膏が引っ付いているものだから、喚く様に嗚咽が溢れてしまった。
「もう、嫌だ」
「辛いか?」
「辛い、なんて、それ所じゃない、酷い」
「……ひど、い??」
見当違いである事に気が付いた目は、
もう心を覗こうとしているのがよく分かる。
そんな気に掛ける瞳を見てしまっても、
小汚い気持ちが止められなかった。
「もう優しく、しないで下さい、マイクさんが可愛いなんて言うから私、お花、嫌い」
支離滅裂な言葉を放つ間、マイクさんは心配そうな顔を歪ませて、同じベッドに腰を下ろしたのに言いつけを守る手が宙で漂う。
その手が届けばよかったのに。
突き放したのは今の自分なんだ、大嫌いだ。
「待って、どういう…」
「私だけじゃないなら、可愛いもお花も欲しくない。マイクさんは…マイクさんは。
貴方は貴方でOKで、どうあってもよくて、
だから沢山の人に愛されて沢山愛を返せばよくて、
そのままでいて欲しくて、
だから他の人に向けた優しそうな笑った顔に
弱虫を重ねてしまった私が我儘なんだ。
覆ってしまった手のひらを剥がされて、
荒い呼吸で吐くつむぎつむぎの醜さを捲られて重なった唇は、掠るほどであったのに簡単に熱を上げた。
「…ゴメン、…病人食っちまう」
「や、うつる、」
「うつんねぇから…全部言え」
掠るだけだった唇が、次は隙間なく埋められる。
毒を抜かれたように言葉が流れて、
想いも、焦燥も、嫉妬も、
ゴメンと謝る度に触れる唇の相槌に飲まれていく。
そしてそうするうちに、
彼の中にも居た弱虫に気がついてしまった。
私にばかり吐かせるこの人は、
追い詰めて、跪かせて、
私に乞わせるくらいに全部を吸い出そうとする。
きっとそうまでしないと認められない、酷く臆病な気持ちを隠しているんだ。大好きだから、こんなにも、だからと言われて、思いの丈に安心したい。そこまで言われて初めて愛されているのかもと、やっと少しの可能性が見いだせる程度に弱虫なんだ。私とよく似ていているからよく分かるし、だからこそ少し痛そうに見えた。
俺にだけそんな顔、してくれんの?
私にだけそんな顔、向けてくれるの?
ホントに俺でいいのかよ?
ねえ、ホントに私でいいの?
他人とどれだけ微笑み合おうが、
二人で贈りあって重ねてきた甘さが、
それぞれが思って感じた通りにきっと真実だって、
お互いどこかで感じた事があっただろうに。
それは疑り深いのではなく、信じていないのでもなく、
ただ一瞬一瞬が夢の様で、
いつまでも実感が持てなかっただけなんだろうと思うと、甘さ故の病に溺れあったんだなと、羽根を広げた弱虫が胸をいっぱいに煌めかせた。
「ごめんなさい、大好きだっただけだった」
「ダッセェなぁ…俺…知ってた癖に言わせてよ」
「なあ…、まだ間に合う?」
構うこと無く毛布をめくり上げた彼と絡めあった足は、
曲線を埋めあって熱を奪ったり与え合ったりする。
「…ユメ、」
引き抜かれた枕が腕に変わる頃、
耳元に重ねられた言葉を聞く度に二人で歩いた並木道のオレンジが吹き上げて浮かび、甘い香りを振りまいた。
【金木犀の香る夕暮れ】
キンモクセイ:謙虚 気高い人 陶酔 誘惑 真実