プレマイ祭り!

体育祭 借り物競走
マイク実況

:オッフェンバック/天国と地獄
:地獄のギャロップ(カンカン)








「次の競技はぁぁ!!!借りもの暮らしのナシエッティは崖の上からベシャ!!だぁぁあYeaaaaah!!!!借り物競争をしながら障害物競争をするこの競技ィィ!!鬼畜なお題に加えてェェ…いくつもの壁が立ちはだかるゥ!……油断してっとベシャァァっと潰れるゼェェ!心してかかれぇ!!!!
…Ready, set, …gooo!」





派手な山田君の実況に煽られながらスタートを切った私は、パン食い競走のように、封筒が吊るされているポイントだけを見ていた。


風でなびいてるのが見える。
その中で何故か一つだけ、黄色い蛍光ペンの線が着いていて、無意識的にそれを齧りとっていた。



「実況者に投げキス」


封はされていなくて簡単に開けられた。そしてメモを一枚取り出して、とても困惑した。だってこれは"借りもの"じゃない。

なんと言うか、
ただのお題…じゃないのかな。

相手が山田君な事も気にかかったけど、そんな事よりこの惨事の方が気になる。



「おおおっとどうしたァァァ?!!!全員………止まったぁぁぁ!!!!」




一通目のメモを読んで崩れ落ちた女子の手元を覗けば「柔道体育館の畳」と書いてあった。どう考えたって運べる訳が無い。


「は、終わった、始まったばっかなのに…」


ブツクサと何かを唱えだした隣の男子は、何やら式が書かれた計算を解いているようだ。よく見えなくて、遠慮なく覗くと、最後の一文に「解答と同数の黒板消しを持って走る」とあった。何周遅れになるんだ、この子は。


他にも、体格がマッチョマンで有名な生活指導の先生を肩車しようとする男子、校長先生の前で百人一首を思い出そうとして欠片も出てこない女子。


「コイツはAmaaaazing…誰だぁ難問ばっかり入れたなぁ?…この競技…終わんのかぁアアア???!」



コースを走り出す者なんて誰一人いない。そう考えたら、私のお題はとても軽くてラッキーだ。こんなにライトならいける。かなり勇気を貰った。


最初にお題を取ったこの隣には丁度放送席がある。それぞれの絶望アクションを取る生徒たちを横目に、私は山田君をとらえて静かに向き直った。


ごめんね、
訳わかんないよね、
許して山田君。


「おっと…最初に動くのは我らがぁ?クラスのぉ?ユメかァァ?!!!一体なにを引いたんだァァァ!HEY GUYS !よーチェケラァァァァ………?こっちに向かってるぞ?…YOYO、俺?」



不思議そうに、少し顔を傾ける山田君に、モンローキスを投げた。


「Faaaa!!…我らがぁァァァ!!ユメ!!!優勝ダァァァ行けえええユメー!!!」

「おい山田、私情やめんか」



これなら温存できるなと思ったのに、山田君がわざわざ実況したせいで大恥をかいた。
でも唯一の救いだったのは、観客の笑いのツボが沢山あった事だった。山田君の声は大きかったけど、思ったより注目度としては私に向ける事はできていないみたいで、皆が指を指しているのは私では無いあっちこっちだった。


未知の周回遅れたちを通り過ぎて障害物へ向かう。最初は、最前列オーディエンスとタッチしながらグランドを一周だった。


「すいません、お願いします」


反動が少なくなる様に、指先を軽く触れるだけだったつもりが、思ったより皆応援してくれているみたいで激しいタッチをしてくる。

衝撃が重くて少し息が切れた。
一周の後半に差し掛かった頃、ライバルなんて居ないと思っていたのに、視界に入った周回遅れたちが"お題"を持ってグランドに帰ってきたのが見えて、私は次の封筒目掛けてラストスパートをかけた。


「おっとここで一人!校舎から戻ってきたぞおおお!!!黒板消しィイィ!!!そんなに持ってどーsooooon!!!?しかし未だブッチギリは変わらず!…お、もう一人キタァァァ!!!畳ぃぃ!!引き摺ってんぞ!???なんの拷問だァァァ!!!」


網コーナーと、ずた袋でぴょんぴょんコーナーを誰も居ないうちに抜けて、お題の前に立つ。

太陽の反射のせいかもしれない。

それでも、がむしゃらにむしり取った封筒の隅には黄色い切れた線が写っていた気がした。もう開封する反動でちぎれて飛んだせいで、確認はできなかったけれど。



「猫派とペアを組んで二人三脚………相澤君!相澤君しかいない!お願い!!!相澤君!私と来て!!!」

「よし。行くぞ」

「トップバッターが次に選んだのはァァァ?!!…相澤???ハァ?なんで消太ァァァ????」

「おい山田!!実況!」

「チィィス……相澤ァ行けェガンバレェ」

「山田ァァァ!!」



相澤君は早かった。
それはそれは馬鹿みたいに。

ライバルが増えてヒヤッとしたけど、それを拭い去るくらいに、私が疲労せず後半にセーブ出来るように、腰に回した手で…いや全身で、私の体重を持っていってる気がする。


こんなに安心できる、
面倒見の良いリードするなんて。


これなら余裕だなと、
高みの見物気分でいた"借りもの暮しのナシエッティ"は、その直後、言われの通り崖の上からベシャァと潰れる事になった。



「早く、今の、内に、開けろ!」



慌てて次の封筒を選ぶ私は、
定番の線に釣られるようにジャンプして咥え取り、破きそうな勢いで開いた。






最後のー借り物は

ー「 好きな人 」ー
「…に背負われてゴールせよ 」



「おっとどうしたァァァァ?トップバッター…様子が…おかしいゾオオオ?!!!大丈夫かー!!!後ろからは猛追ィィィィ!!体操服で黒板消しを包むナイス戦略ゥゥゥ!!このまま巻き返せるかァァァ!」



「へっ…いやっ…!…すっすっ」

おかしいおかしい定番じゃない!最後!最後!変!待って

「すっ、す」

真っ白な沈黙のとなりで、盛大に吹き出してむせる声が聞こえる。相澤君は座り込んで二人三脚の縄を解きながら、手元がおぼつかないくらい震えていた。

見られた

見られた


相澤君に見られた


到底、声には言い表し難い、珍しく高音の女の子みたいな悲鳴を聞いて、相澤君は息切れに加え、遂に転がって笑い始めた。笑いすぎて、発声がままならないようだった。


「す、」

「俺はす、じゃねぇ、ユメ、おれを、笑い、殺す気、…か」


真っ白の私は、ヨタつきながら応援席に、振り絞った声を掛ける。


「あ、あ、あ、い、稲井さんとか…井内さんとか、いらっしゃいま…せんか…」


静まり返るオーディエンス。解ってる解ってるいないことなんて。


グランドの砂を握り締めるだけの相澤君の変容を目の当たりにした皆は、ついに不穏な声を上げ始めていた。
周回リーチを沢山持ってしても、追い上げてくるのが解る。勝利を確信していたクラスメイトは、どよめき始めていた。



もう、心臓の爆音で冷静とかいい作戦とか、なんにも分からない。


「相澤くん…墓まで持ってってよ」


私は相澤くんの耳元でそう呟いた。相澤君は変わらず、声も出せないほど笑ってて返事はなかった。


「チッ…イチャついてんじゃねぇぞ消太ァァァ早く起きロォボケェェェ!」

「山田ァ舌打ちはやめろ!!!!!!実況しろ!」


「ユメ、アイツうるせぇ早く黙らしてこい」

「…!ありがとう相澤君!…お陰でいい嘘!わかったよ」



そうだ。見せなきゃいい。
私は全速力で放送席に向かった。


「山田くん!!」

「何来てんだよォ!早く戻れ!」

「山田くん!!!だから山田くん!!世界一うるさいヤツ!!!」

「!?hahahaha違ぇねぇわ!」



意気揚々と放送席から飛び降りた山田君は、マイクを先生に託して、呑気に腕を伸ばしてストレッチを挟んだ。


「早く座って!!!」
「はあ?!!!」
「おんぶして!」
「whaaaaaaaat?!!!」
「うるさいヤツにおんぶして貰ってゴール!!なの!!!」
「Faaaaaaaaa!!!」


小さくごめんねと呟き、
意を決して、首筋に手を伸ばして山田君を抱きしめた。山田君の背中の熱さが私の胴体に染み込んでくるみたいで、もう、力の入れ方が全く分からない。



「オア゙ア゙………糞ォ……選曲誰だ……天国と地獄なんてかけた奴はよぉ……もう…ヤケだわ……ユメちゃん、ごめん…気に掛けられね!落とされないように死ぬ気で掴まって!!!」



山田君の爆走こそAmazingだった。振動と一緒に、砂を蹴る音が爆音で聞こえる。私の足は走っていないのに心臓のギャロップ音が酷くて、山田君がゴールテープを掴んだ時にはデロデロに疲労していた。


「オラァ!!!!!取ったぞユメ!!!いえぇあァァァ!!!この借りはァァァ、焼きそばパンで宜しくゥゥゥ!」


背負われてた癖に息切れする私、
走った癖に飄々とする山田君。
この妙な違和感が、
伝わって無ければいいけど。


「う、ん、ありがと山田君」
「ヒュー」


山田君が振りかざしたご機嫌なハイタッチに条件反射で手を貼り付ければ、握ったままのお題の紙が、一緒に山田の手にくっついていってしまった。


「そ」
「…え?」
「やま」
「…お」


山田君は、紙と交互に私の顔を見てどんどん威勢を無くしていく。違う違う、元気なうるさい山田君でいてお願い。これ以上理解しないで欲しい


「そ!れは!ち、違」
「俺、は!うるさい、」
「その!あ、」
「うるさ、、っすゥ、!?」


地球に慣れていない宇宙人の様なコミュニケーションで、混乱をひっきりなしに重ね合う背後で、相澤君の、肺活量を全て使った様な吹き出した音と、息切れが私達をつつんだ。


「ァァァァァァァ」
「EEEEEEEEEEE」
「コラ山田ァァァァァァァ」



突然激しい息切れを始めた山田は次の瞬間、実況を遥かに上回る絶叫シャウトで正面にある朝礼台と、隣のクラスの「君のハートにstrike」とグラビア風で描かれた最低の応援看板を遥か彼方にぶっ飛ばしてしまった。

静かに転がったままの相澤は、自分が仕組んだ計略がこんなにも華麗に決まった上に、オマケまで着いてくるとは、と、余韻に浸りながら、痙攣するように笑い続けていて、抹消する気なんて毛頭ないようだった。


「お前ら、、うる、せ」


【オッフェンバックは性格が悪い】



山田君の絶叫が空を貫く中、
私はギャロップの如く
全速力で校舎に逃げた。







 


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