BGM:Jonn Hart/Good Girls

ご都合個性でキバタンになってしまったマイクが片思いしてる相手に求愛行動をとる話+ツナ様イラスト 「お手をどうぞ、マイレディ」より


色なき風のリマインド










窓を開けて風を入れれば、暖まった部屋を塗り替える様に冷気が洗っていくから目が冴えていく。鳥を飼い始めたのはお隣だろうか、はたまた上か下か。高く張るような囀りと共に可愛らしい子供の声で「わあおっきいこえ」と聞こえるものだから、拭い切れなかった最後の眠気が飛んでいく。恋心を閉じ込めたままの醒めない夢から帰らない私を覚醒させたのは、一際強く吹き込んだ十月の、色なき風だった。




「わあ…大きい声!」

校舎の敷地へ自転車を止めてすぐ鞄を引き抜き、遠目に見つけた友人の背を目指す。校舎へ続く木に囲まれた道のセンターを追いかけるデジャブは昨日と同じ。しかしどこからともなく飛んで来た大きな鳥と、それを追ってきた存在が普段と違っていた。

ぎゃあと大きな声に引き止められた私は、驚いて自分の周りを旋回する鳥を目で追い、くるりと回る。友人の背は駆けてきた相澤君の肩越しに校舎の中へと小さく吸い込まれていった。

「おはよ相澤君、すごい鳥…綺麗、びっくりした」

相澤君からは驚きの共感も、
おはようさえ返ってこない。
代わりに出てきたのは「それ山田」だった。

朝日を手で遮光し、こちらを見降ろしたまま旋回する姿を捉えながら、切り取り続けた大好きな人のシーンが何枚も青空に貼られていくように思えて、遮っても遮っても胸がいっぱいに光を浴びる。近くにいるなんてと思うと、話し掛ける勇気もなかった私は、たとえ鳥であろうが人であろうが言葉が上手に出てこない。山田君らしい鳥は陽射しを遮る腕を掴んで止まり、気を抜けば落としてしまうような気がして、出来る限りゆっくりと胸元へ下ろした。

すると小刻みに頭が揺れ始めて、
顔色を伺うように傾いていく首。

簡単に記憶の彼を重ねてしまい、あいた手でわなつく口元を隠せば、次は広げた翼の向こうから香山先輩と白雲君の姿が見えた。

「ああ、だから私早く言えって言ったのよ」
「まさか鳥の姿で求愛するとはな!」
「……きゅ…求…愛?」
「この鳥ちゃん、求愛する時踊るのよ」
「え、そ、…え?」
「ギャアアアア」
「ハァ…鳥になってもうるせぇな」

意味をなさない言葉ばかり吐く惑いに合いの手を入れるご機嫌で踊りを続けて、ふさふさが頬に触れる頃、抱き合う様にしていつもの姿に戻った山田君のトレードマークの髪が想像より柔らかい事を知ってしまった。


「やだああ、青ハルゥ」


少しも青くないよ。黄色と、赤だ。


鞄を落とした私。
腕を離せず止まった山田君。


スニーカーの先をくっつけ合った二人を、
一陣の風は道いっぱいの紅葉を掬いあげて。
包みこみ、吹き荒れた。

横目で盗み見たごくりと動いた喉元と。
二人の下手くそな息遣いと移し合う鼓動を。
想いを迎えて貰えたような錯覚を。


この人の口から聞きたいと欲張り、紅葉色に染まったまま思わせ振りに言葉を詰まらせる君に見とれるうちに、私のスニーカーはヒールに変わり、君の知らないところで幾つも大人を重ねた。

だから私はあの頃のあの場所に、
子供のまま置いてきたんだと思う。
鞄と一緒に恋心を落としてしまったんだ。


開け放った窓から吹く風が冷たかったから、
童心があの頃を叫ぶから、
高鳴る程には思い出してしまった。

窓とカーテンを締めてドレスに着替え、出掛けるまでの一連を普段と違いご機嫌で居られなかったのは、上手く繕う化粧が童心を隠す様に思えて罪悪感がしたからだ。

でもごめんね。もう過ぎてしまったんだよ。だから、大切に置いておこうよ。ずっと忘れないから。そうやって自分を宥めながら招待状を握りしめ、式典の会場へ向かうタクシーの中からずっと、早送りの街路樹を眺めていた。


白の円卓が水玉模様に正しく並ぶ会場で、私は直ぐに退屈を弄ぶ事になった。久しい顔ぶれが数人見えるせいで、今朝方のせいで、目が期待を探してしまうからグラスの気泡を追い掛けるしかできなくなって。気まぐれな癖にしつこく声を掛けてくるからヒールが痛む。


「ごめんなさい…少し気分が悪いので少し風を」


すると床ばかり見た視界にもう一人分の爪先が揃う。振り切れずにもたつく私の腕を掴んだのは、あの日と同じ熱を持った彼だった。


「失礼。彼女は私がお連れしますので」


有無を言わさず振り切る声は大人びて、追いやるために光らせた瞳は懐かしい緑。黒地の肩を流れる一束と、頬に沿う一筋が柔らかそうに揺れる。


「綺麗だな…ユメ…そりゃ見つけらんねェわ」


不思議と周囲から人がはけて行くせいで、あっという間に二人だけの世界になる。それなのに発する言葉がどれも思い出からはみ出していて心がついてこない。

「や、…やま…山」
「mm…ヤマヤマ」

にこにこと動揺を嗜む大人びた姿に、口が開いたり閉じたりを繰り返す。山田君はそんな私の手からゆっくりとグラスを奪って、近くの円卓に預けてしまった。

「気分、悪ィの」
「…あの人から、逃げたかっただけ」
「All right」

軽やかに手を引かれ、バルコニーを目指すまでの道のりは短そうに見えていつまでも続きそうなストップモーションを見せる。腕を絡ませる緩やかなエスコートであれば良かったのに、背中で揺れる金色にほんの少し昔の彼が見えてあの日の鼓動が蘇って仕方がない。

「なあ…一緒に踊ってくんね?」
「おど、踊る…?」

甘い困惑を笑って手を離し、
両手で開け放ったバルコニーの扉からは一陣の風。

ジャケットを羽織らされる手つきを振り返れば、
歩んで来た赤絨毯が、
一面に広がる紅葉を思わせた。


「求愛だよ。求愛」
「…っきゅ」

「もう逃がせるほど子供じゃねェよ」


まだ間に合うな、そんなに赤いなら。
そう一言付け加えて、
確信を持った瞳は片方だけ閉じられた。


「お手をどうぞ、マイレディ」




色なき風:秋の風。花やかな色や艶の無いこと。
リマインド:思い出させる 再確認

 


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