BGM:JagwarTwin / LOSER
Twitterイベント フォロワーさんのお題をくじ引き
お題
仕事失敗・上司に怒られたのを慰めてくれる
+
マイクの一面と山田ひざしの一面への変化
Twitterイベント フォロワーさんのお題をくじ引き
お題
仕事失敗・上司に怒られたのを慰めてくれる
+
マイクの一面と山田ひざしの一面への変化
硝子の英雄たち
出来る限り被害は最小に。この道路先のため池にでも投げ落とせば何とか。そう思った私は、狙いを定めて追い込んでいた敵を捨てた。
「皆さん今のうちに早くここから離れて下さい!他のヒーローの指示に従って避難を!」
大人しく避難してくれる人もいる。でも中には野次として残る人もいる。早めに他のヒーローが駆けつけてくれなければ、この先の未知には対応出来ない。それまで何とか間を持たせるか、一人で終わらせるかだ。
「おお!ありゃテレビの子だよ!新人ヒーローの!来てくれたのかー!!」
「早く逃げて下さい!離れて!!」
案の定、野次馬に呼ばれてチラチラ人が残る、増える。私の焦りを置いて楽しげな興奮を見せるから胸がやるせなさで圧迫されていく。こんな場合ではないのに。
「水浴びくらいで死なねぇよ、お子ちゃまヒーローがぁ。他の呼んだらどうだ」
「…っ待て!!」
ビルへ逃げ込む背を見て冷や汗がでる。
あそこの避難は、非常ベルを鳴らして走ったから済んでいる筈。それでももしまだ人が居たらと思うと、屋内へ逃げ込まれる光景は嫌なものがある。短く息を整え、拳を握りしめた私はゲートに向かって駆け出した。
階段から上がり、1フロアずつ顔を出して物音を探る。中にはやはり人が居るようには思えなかった。これなら街の人の被害は無いかもしれない。
探り続けた階段は、螺旋の最後を立ち入り禁止の錠が飾る。最上階の通路へ顔を出せば、砂埃が夕日に揺らされて吹き出る、内開き扉が一つ。これなら私がやれば最小中の最小被害だ。
「お子ちゃまの意味が分かるか」
注意深く足を踏み入れた私は、もぬけの殻だった事に疑問符を掲げ、窓際から夕日を見た。その瞬間聞こえた閉まる音。ドアの内側に身を潜めていた敵に首元を攫われていた。
「なんもなっちゃいねぇ」
絞りあげられて足は地から離れた。
肺へ空気を少しでも。食いしばった歯の隙間から、飲み込めない酸素を取り込めと無理くり吸い込む。
「過信に単騎特攻、未熟。あまりに」
剥がそうともがく両腕は、
余裕気な片腕で簡単に纏め上げられ、
背中にめり込む勢いで押し付けられる。
あまりに馬鹿だ。
そんな事は解ってるからどうでもいい。
どうしようもない自分だ、仕方ないんだ。
周りは尊敬に値する優秀なヒーローばかりだ。技術もセンスも判断能力も全てが輝いて見える。私はどうだ。我武者羅に頑張ればやっとどうにかなるかもしれない程度の光が射すだけ。協力してやれ?居たらするさ。運の悪さは人一倍持っていることに自分でも嘆いてる。今日だって、避難も敵の対応も手に負えない筈だったんだ。それでも我武者羅はここまで連れて来た。最小じゃないか。私の精一杯だ。心置き無く頑張れよ。もう少しなのに。
滲む涙の端に見えたのは、
瞬きの最後に見た夕日と屋上から垂れたロープ、それに下がる様にしてガラスに脚を突き立てたマイクだった。
「交渉する気はねェんで」
派手な音を立てて飛び散るガラスが反射し、不敵な顔の英雄をひたすらに際立たせる。滑り込んだまま敵の懐で上半身を低く沈めたマイクは、振り上げた靴底で敵の顎を砕く勢いで蹴り上げた。
ヘリの音で何も聞こえない。
ただ、非力を嘆く程には、鮮やか過ぎる素早い攻防と鈍い衝撃だけは響くように思う。むせ返りながら呼吸を整えるタイルの上で、置いていかれそうな気持ちをかき集め、握り締めた。
「お疲れサン。よくもたせてくれた!」
「どこが」
「お陰で被害者ゼロ。ここも避難終わってんじゃねぇか」
「褒められたもんじゃない。判断が遅いんだ」
「んな局面アリアリの有りネタすぎるだろ」
「誰も聞いてくれなかった、護りたいのに」
「ユメと一緒だなァ。まぁ合格だと思うぜェ?」
屋上の立ち入り禁止が貼られた階段から降りてきた警察へ捉えた敵を引き渡す姿を見て、抗議と疑問符は掛けるタイミングを無くした。
ご苦労さまですの敬礼をゆらりと返し、数テンポ遅れた腕を引き上げられて、さっきより伸びた夕日が道を作る廊下を、気だるい気持ちで着いて歩く。マイクは口笛を吹いているものだから、半円の左から右の数字へ振り動く針が最上階を示す間、ポケットから挿しこぼれた親指が楽しげに揺れるのを、晴らしどころの無い気持ちで眺めていた。
「なあ、ユメに何かあったら」
あんなにも飄々と楽しげだったから、状況が全く飲み込めなかった。ボタンも押さずに内側へ向き合う三角だけを押して私を抱きすくめるから、晴らしどころを探した筈が困惑の嵐が見えてきた。
「…最小なんて言えねぇよ俺」
両手で頭を抱え込むみたいに撫でて、困った顔でしつこく無事を確かめている気がして益々言葉が見つからない。
「置いてくなよ…少しは待ってくれよな」
満足したのか、顔の側面をペタペタ確認し終えた手は頬に微音を残して、また背にまわる。次は彼がその高い身長を曲げられる程の余裕を持たせた緩さだった。肩に顔を埋めた弱々しい溜め息が首に跳ね返って顔の輪郭に吹き上がる。
ぞわりとする感触と、気にも止めず肌の窪みで休まる熱い男の制止した時間を受け流すように天井を見上げた時間はしばし、ガラスの破片と埃を巻き上げて光った夕陽の苦さと甘さで、意を決した一呼吸で彼が1を押すまでの間ずっと私達を閉じ込めた。
両開きの扉からフラッシュライトを浴びる頃、
握られたままの手はわざとらしく凱旋のポーズを見せ付けた。歓声に沸く拍手達へ返す巧みなパフォーマンスと、猫被りな陽気さに欺かれていたのは群衆だけでは無いと知ってしまった私は、わざとらしく目配せをする男の目をみつめながら、いつまでも役目をなさないエレベーターの幻影で最上階から戻ってこられずにいた。