[※R18※ このお話は、
性的接触・性行為描写があるため
18歳以下の方は閲覧できません。]

Under The Skin







催事コーナーの前を、まだあどけない靴が走り回る。何度注意されても止まらなかった彼女は、縦長のアソートボックスを見た途端に足を止めた。

「絶対これあげる」

疲弊した様子の母親は、言われた通りの箱を掴んだ。しかし子供は、あれもこれもとそこへラッピングを上乗せする。もう箱に入ってるでしょと言った母親に対する彼女の言い分は、「自分でする」だった。

彼女の背はどれも叶って嬉しそうに見える。
去っていったその空白に立てば、手が小さな彼女につられてイメージカラーを求め、埋もれた次の色を勝手に捲る。

ゴールドのラッピングペーパーを見つけた私は、
胸にそっとそれを抱きしめていた。


シーズンを迎える前から自室にある黒塗りの箱は、今思えばその価値も含めてあまりにも重すぎると思う。写真映えするリカーショップの特等席で一際目を引いたボトルを彼のように感じて一目惚れをし、絶対に欲しいとカードを切った。

衝動で買うものでは無いとは思うけど、持ち帰り方を迷った挙句、配送ではなく抱きかかえてタクシーを捕まえる辺りの駆け出せば止まらない気持ちと、得意でも無いのに誰が飲むのかという宛のなさ、本当は彼に送りたいと思った本心に無自覚。そんな自分の馬鹿なところが嫌ではなかった。
この時ばかりは、ピコピコと走り抜けて行くチョコ売り場の彼女と同じときめきを抱いていた。

それでも、大人になれば軽快な足取りも鈍ってしまうのかもしれない。あんなにも高鳴った胸はゆっくりと速度を落として、次は葛藤が目まぐるしく走り出す。

何でもない日にこんな物を贈っていいものか、そもそも適正では無いのでは。恋人という呼び名が馴染まないほどよそよそしいお試し期間では逆に迷惑では。

そうこうする内に葛藤は年を跨いでしまって、
今バレンタインを試されている。

誰かが誰かを思う恋心。それが行き交う催事コーナーの前でそんな小さな彼女に夢を見せられて、励まされた分だけ、どうにでもなれと遂に迷いも迷子になった。
絶対にこれをあげたいという彼女のくれた素直さは、住む世界の違う彼と、身分違いの恋をしている鬱屈さをほんの少しだけ照らして、導いてくれたのかもしれない。

部屋に帰って早々、私はラメを散りばめたゴールドの包装紙を正方形に切り抜いた。
ラッピングは自分ですると言った彼女は、これが誰かが創ったものであると幼いながらに解るのかもしれない。だから、どこかに自分を残そうとしたんだろうか。もしそうなら、私もそうなんだと思う。

初めて開けた箱の中には黒の艶、銀の英字。
その括れにサングラスの折り紙を掛けた私は、何度も彼女の言葉を胸に掛け流し、震える指でメッセージを綴った。

―今夜のデートなんですが、

途中で送信した画面はすぐに止まってしまった。代わりにとび出た彼のアイコンに次は胸が震えて、危うく息が止まりそうになる。

「何かなァ?Honey」

「あの、今日……その、渡したい物があるんですけど、大きくて……ひざしさんなんでも頼れって言ってくれたから相談しようと思って……素敵すぎるお店だと、その……邪魔になってしまうかなって……ああいう素敵なお店の人は手荷物なんて持っていないし……その、スマートさに欠けたら恥をかかせるかなって思……ちょっと、!ひざしさん、聞いてますか」

「や、悪ィ……あんまり可愛いもんで」

「解ってますよ、あんなラグジュアリーな所……私には背伸びにも程があります」

「そうじゃねえって。……まあ……車に置いておけるならそれでもいいんだけどよ。……だったら、今日は俺ん家にしねぇ?」

飲み込んだ一息が、煩い心音にとどめを指した。
きっと、押し返した「待って」をまた繰り返す事になるかもしれない。

黙って見下ろした自分の身体のラインも、それを包む服も、クローゼットに詰め込まれた肥やしの憂鬱さも終わる事は無く、託す以前に拭って欲しいとは思わないこの問答も私だけが答えを握っている。だからそれに終わりがないことを知っている分だけ、励まされた分だけ、折れるのも早くなった。

「ご迷惑じゃなければ」
「じゃ、そのつもりでいて」

―また後でな
そう告げられた最後、耳元に残されたノイジーなリップ音がこめかみにキスを貰った錯覚を起こす。

慰めを輝かせる余韻の中で、そのつもりとはどんな心積りの事を示しているのか、会うまでに残された時間は全部彼の事ばかり考えて、準備なんて永遠に整わないだろうなとため息を着く。

シャワーを捻れば萎れていく髪、
流れ落ちる水が描く、理想に届かない曲線。
どれだけ泡を立てても納得のいかない手触りの皮膚、
鏡の中の、普通の人。……もしくは。

彼が持つ輝きの分だけ不相応に、見慣れないノンパテッドのブラはずっと肌の上で浮ついている。見ていられなくて袖を通した服がせめてもの慰めであれば良かったのに、それさえ星を掴むために背伸びをしたようなリトルブラックドレスで意味を成さない。

どうしてこうなってるんだろうと冷静さを取り戻してみても後の祭りで苦しさだけが残る。だから、結ばれるとは二人ごとのように思えてそうでないのかもしれないと思った。
あの人が必死に結ぼうとしても私が結ぶ事を許さないのだから。形だけ結ばれていたってこれでは恋人とは言い難いのかもしれない。

動機ならオードリーを模すべきだった。
ショーウィンドウを見つめる純粋な輝きであれば、少しは近ずけたかもしれないのに。
恋を輝かせると噂のシャドウが隠したのはただの赤みがかった薄皮で、鏡に映った自分はやはり、理想へは遠く映っていた。


「着いたぜ。重いならソッチまで上がろうか?」
「大丈夫です……それにその、贈り主に持たせるのは、ちょっと」
「フ……あーダメだ」
「……また笑ってるでしょ」
「あーバレちまう?」
「隠す気あるんですか」
「HAHA!いや、嬉しいもんで」
「……もう……恥ずかしいから…やめてください」
「……」
「…もしもし?聞こえてます?」

「今すぐ上がりてぇ……俺が見てねぇ所でンな顔すんなよ」

見えていない癖に。
受話器越しに覗いた彼に返す言葉を失なって、図星を続ける熱に俯いて。もう少し立てこもっていたかったけれど、呼吸の残響が震えたように思えてハッとし、大切に置いていた箱をやっと紙袋に入れた。

「今から降ります」

羽織った上着とヒールのぎこちなさ、操作盤の前で抱き締めた違和感の中にそれでも確かに存在する想い。エレベーターが惑いに関係なく彼の元へ運ぶ事に、もう後がないだけ報われる。

行っておいでと開いた両扉、
ずらりと並ぶ銀ポストの道の先。

ガラスの向こうは既に街を映さないでいる。
一筋のヘッドライトがその中から昼間の舗装を照らし、電柱の陰りから伸びる組まれた脚が、揺らりと崩れて駆け出すのが見えた。

「My fair」

自動ドアの点滅が呼び込んだ風と彼に肩を抱かれ、唇を寄せられた側頭に、消えた言葉の続きが瞬く間に溶けていく。

「ごめんなさい、寒いのに待たせて」

止まったままの彼の腕の中で釣り合わない自分をいつまでも連れて、感嘆の息が髪の隙間から思考を暖めるのを甘んじて浴びる。受け止めきれなくて流すしかない思いを、私なんかに勿体ないという言葉がどうしても拭えない。
二人を引き剥がした小指から人差し指は腕を柔らかく押しこんで脱力し、次に紙袋の紐を絡め取っていった。

「……どっちが贈り物か解んねぇよ」
「どれも背伸びしすぎて……こんな」

そんなふうに触ったら指の腹に口紅がついてしまう。少しだけ仰け反った背はもう片方の腕に退路を断たれ、彼の歯の隙間から抜ける言い付けにこれ以上を飲み込む。鎖骨を流れる風の冷たさが胸元のもう一つの秘密を暴きそうで熱を上げた。

「ありがとな……綺麗だ、ユメ」
「早くどこかに行きたい…誰にも見られたくない」
「見せてたまるかよ」

差し出された腕を頼りに僅かな距離を靴が鳴らす。
エスコートされた先で、車のルーフ端を掴む気遣いの手は、頭をぶつけてしまわないためだと何度目かで知った。開けられたドアと、見下ろす彼の腕の隙間から見上げた瞳は細められている。こちらが申し訳なくなるほどの扱いは日に日に増しているから、直ぐに目を逸らせた彼を見てやり過ぎたと後悔した。
現に、ここを越えれば熱視線にぶつかってしまうと思うと、信号が止まる度にハンドルの手元が気になる。紛らわせたくて吸い込んだ空気が彼の匂いで、運転席からの溜息は溜息に在らずで、甘くて困る。こんなにも期待を隠しておいてバレてしまったら、もう彼を止められる術がないのに。

順調に運ばれたエレベーターで授けられた額へのキス、その感触をなぞった手首を捕らわれて、ゆっくりと下ろされる間に指同士の隙間が埋められていく。それは舌先の動きによく似た摩擦で、ほんの少し白い息が溢れる。それを寒いのだと勘違いした指先は直ぐに絡む事をやめて、最上階の扉が開くまでの間、いつまでも四つ指をぬくぬくと纏めた。



「お邪魔します」
「グラス出すから寛いでて」

夜景を散りばめたリビングはいつもどこを歩けばいいのか解らなかった。黒革張りのソファーで一度立ちどまり、躊躇いごと捨てた足取りでベランダのガラスに触れてみれば、夜景を背負った反射の先でバケツ型のワインクーラーに氷を入れる彼が微笑んでいた。

「俺ってこんな風に見えてンの」
「何がですか」
「これ、上流階級で愛された酒」

思わず振り返りはしたけど、
言葉は思いのほか素直に口をついた。

「初めて見た時、マイクさんだと思った」
「へぇ。……俺を連れて帰ったワケ?」

開けずとも正体を見抜いた彼には、
きっとそのボトルのデザインが浮かんでいる。

黒いボトルに刻まれた銀の“MCIII”
入れ替えれば名になりうる所も、
その艶も、出で立ちも。

どうしても欲しかった。
そう浮かんだ言葉を隠すためにはこれ以上何も話さない方がよい気がした。

「こっち来てくれよ……手が離せねぇんだ。開けて見せてくれ」

怪しげなまじない言葉に頼み事をのせる狡さを察したのに、脚が勝手に引き寄せられていく。
隣に置かれた紙袋を寝かせ、おずおずと箱を取り出す間に、彼は手のひらに溶けだした氷の雫を拭っている。手が離せないだなんて見え透いているのに気にも止めず、続きの羞恥を試す口の端と眉が不揃いに笑った。

蓋を開ければやはり、添えたサングラスが彼らしさに花を添えている。
ハッと短く笑った彼は直ぐに腕を腰に絡めた。呼吸を狂わせる事をいとわない唇と舌も早急に後を追ってくるから、舌先の解き目を探して身をよじった私は、隙間から妙な息をこぼした。

「俺を……選んでくれたんだろ?」

どうしても欲しいという気持ちは擬態した何かであったから思えた事で、貴方をなんてきっと言えはしなかった。言ってはいけなかったのかもしれない。でも今、それを掘りだすための尋問が始まっている。
表面を押し付け合うだけの唇が開いて、上を、下を食まれる。隙間の一筋を舌先でなぞられたのをきっかけに、ぬるりと滑り始めた互い違いの唇が舌を迎えて、あれだけ気を付けた口紅を濡らしていく。首を傾けてまで奥を探る柔らかな咀嚼が、塗り広がった粘液ごと簡単に崩した。

「どうして、」

やっと隙をついたのは兼ねてからの疑問。
陶酔から覚めた瞳は名残惜しそうに離れても尚眠たげにこちらを見て、口の周りにだらしなく広がった滲みを親指で拭い、氷の雫を吸い込ませた布地へと赤みを移していく。

「どうしてお試し期間までつけて、付き合ってみるかなんて言ったんですか」

言葉の端を捕まえた親指は、言い終えて開いたままの口の輪郭を、唇だけを残してゆったりと拭っていた。

「そうでもしねぇと認めてくれねェだろ」
「……認めるって、」
「俺をなんだと思ってる?」
「…プレゼント……マイク」
「どんな」
「……たくさんの人を救うヒーローで、ラジオDJで、たくさんのファンが居て、ステージが似合う人で……」

光を浴びる雲の上の人で、
笑顔が素敵で、心動かす声を持っていて、
格好良くて、憧れの人で、夜景を一望できるタワーマンションに住んでいて、私は普通のマンションに住んでる普通の女で、素敵だった覚えも面白そうな肩書きも何一つ無くて、何もかも普通で。

浮かんだ肖像に、勝手に自分の絵が並ぶ。
でもこの全てが覆っていたとしても多分、隣に並んだ時に相応しくない、圧倒的に違うものばかりを持っている。


「それだよ。……なぁ、好きだぜ、ユメ」
「あっ」

あばらから腰を撫でさすっていた手に力がこもり、調理カウンターに乗せられて、突然抱き上げられた心許こころもとなさで頼りにした胸板との間で反発が生まれていく。腰に当たる腕に寄せられて、胴に割られた太腿から裾がするりとずれる。一度揃った目線は首筋へ落ちた。

「待って、」
「好きなんだよ。何度も伝えてんだぜ?……でもよ、好きだっつうことも、目が離せねぇって事も……信じやしねぇだろ」

仰け反った首に落ちたキスは彼にしては軽く、舌先を刺して啄むだけの温さを残して離れていく。


「そんな顔見せる癖によ」


顎に添えられた指の節が顔の角度を上げて逃げた先、初めて見る歪んだ表情に息が止まり、それでも微笑みを保とうとする優しさに、心臓を半分失った思いがした。

「飽きたらいつでも捨ててくれるって思えば安心したか?」
「そんな事は!」
「悪ぃけどハナからそんな気はねぇよ」

乱れた髪を掻き上げる仕草には、まだ弱々しさが残る。自信家に思えるたたずまい、その水面下にあった想いを覗く度に自責の念が込み上げてどうしようもなく視界がぼやけていく。その涙を啄んだ唇から溢れる呼吸熱に、ひとときだけ目を瞑り、その間、被さった大きな手は裾を握りしめる指同士を解こうとした。


「俺、ユメん中にいるプレゼントマイクはいけ好かねェかもしんねぇ……なぁ、どう教えればいい?どうすれば伝わる」


「示せば伝わんのか?」


寄せられた衝撃でカウンターが音を立て、腿の裏に台の表面と擦れ合った鈍い痛みが走る。指をすり抜けた裾は更に上へひだを増やし、優しげだった手のひらが、剥き出しになった太腿から付け根を押し込みながら這い登った。

「あっ!…待っ」

言葉の端くれに舌が重なり、へその辺りでたゆむドレスを巻き込んで辿った熱は何の配慮もなく胸の麓へ触れ、その滑らかさに暫し動きを止める。

反発のある硬いパッドではなく、簡単に形を変える異変を察知した指は、ありのままを包む一枚レースの足場を確かめるゆったりとした速度へ変わり、目指していた頂の手前で触れることをやめ、身体ごと離れていく。
だから、まとわりついた口紅の残りを拳で拭いながら伏せられていく睫毛を見て、殺人がバレたと思った。

「見な、いで」
「無理があんだろ」

既に恋人という位置付けにありながら、動機は同じ視界に届きたかっただけ。でも背伸びする癖にその姿は誰にも見られたくない。梯子を蹴落とされて完全に行き場が無くなった。
胸の前で閉じた腕を撫でて開いていく力は優しいのに、びくともしない。
倒れないように支えていたもう片方の手は抜け、次は反対に台へと押し付けられる。連れて行かれた両腕は自身の背と調理台の間で生き埋めにされ、勝手に弓形になる身体にそんなだってと主張を強くした。

「どれも俺のためなんだろ?」
「違います、これは!」
「嘘なら全力で嫌がってくれよ」

「止めらんねぇ」

腸骨から恥骨を包む役に立たないセットアップの明け透け、筋から山を辿った視線は舐めるようで、噛み合うことなく行ったり来たりを繰り返す。
口紅の名残が滲む下唇を舐めて口内に巻き込んだ彼からは、助手席で聞いた溜息とは比にならないほど甘い吐息が溢れた。

見ていられないと思ったのと同時に、地を失った首の力が限界を迎えて、世界が裏返った。頭がカウンターの端から溢れて、怪しげな顔に代わってシーリングライトが視界をいっぱいにする。

「う、あ……」
「綺麗だ」

筋束の緩みと自由が効かない苦しさで、可愛げのない声が喉元から込み上げる。
隠すように覆い被さった温もりに安堵するのに、粘り合いを開く音と共に刺激が胸の一点に集まって、遂に半壊した口から声を張り上げた。

「……ああっ!!」

口に含んで吸われる圧、丁寧に搾り取るすぼめられた唇、舌の腹を擦り付ける濡れた感触。疑惑を突き止めた舌先が螺旋を描き、硬さを楽しむようにレースの奥へ押し込んでは、名残惜しげに引いていく。

「は、っあ…!んん!」

見られたくはない癖に、繊維の隙間から空気を織り交ぜた覚束無い感覚をもう足りないと感じてしまい、もしこれが無ければと思うと一際下着を濡らしてく。
順番を期待するもう片方に伸びた手のひらは、激しくなる口内の動きに反して、立てた爪先を滑らせ始めた。
規則正しく並んだメッシュ地にはサテンのような手触りがある。花の刺繍からずれた繊細な織り込みはトップを隠そうとはせず、その下で膨れ上がる突起を滑らかに覆う。
その上を往復する爪先が糸を引く余韻をいつまでも残し、震える呼吸の合間に、口内に吸い込まれたもう一方が歯と舌で揉まれる刺激を受けて、自分ではない声が幾つも上がった。

「あん……っあっ、あん!や、……は、…ああっ」
「可愛いぜ、ユメ……もっと聞かせてくれ」
「っかわいく、なんか!……んん!」

人差し指から順に山を撫でた手のひらはその隙間でわざと弾くようにやわやわと波打ち、徐々に力を込めるせいで、鷲掴まれた生地との間が擦れあいを起こす。真っ白な天井から酸素を取り込んだ肺の膨らみに合わせた手のひらの緩急が摩擦を押し込んでは手放し、それを繰り返す度に大きな波へと変わっていった。

全体に圧がかけられる度に彼からもハアハアと呼吸が響き、息が荒立つ度に興奮しているという事実を突きつけられて、その対象が私である事に信じ難いという気持ちが浮かび、ただの生理的な現象ではと疑いが生まれる。

だから、彼の話す信じてはくれないという言い分を全くにその通りだと自覚して、見透かした上でこれまでの甘さがあったのかと思うと、葛藤のどうしようもなさを抱き締められたように感じ。
だから、私を愛したというのなら、いっその事もっと愛して解らせて欲しいと思った。

揉みしだかれた双方のバルコネットから裸の胸が飛び出した事が温度差で解り、濡れた布を脱いだ肌に熱い息がかかる。掻き抱かれた素肌の、親指と人差し指の間から張り出した乳房の頂きに、初めてぬるりと舌が触れた。

「あああっ!……んん!…あっ!!」

唇の肉厚に押し揉まれ、リップ音を立てた狭められた入口へ、泡のような滑りで取り込まれていく。
自由に口内の圧を変える舌先は、動く度に先端をくすぐりながら根元を締め上げ、隣では唾液を分け合った指がヌルヌルと滑り、摘んでは擦り込まれ、取り替えるように交互に口へ含まれる。もう留まりはしないだろう欲を見せられて、思わず腰を捩った。

彼の胴体を挟み込んだ脚は刺激の度に空を蹴っていたが、今はだらりと落ちている。腰を捩った事で角度を変えた脚が抵抗を示して身体を押したが、その行為は更に興奮を加速させたようだった。

「こんなに欲しがってくれんだな」

つかの間の休息に夢中で浅い呼吸を繰り返していたが、一瞬離れた彼の言葉に、意識が足元の状況を振り返っていく。
ひたりと両方の太ももに手が乗り、小さく圧がかけられて、すうという呼吸音に内腿の肌が震える。

髪の感触と指、じゃあ頭は、彼の眼は。

「だめ!!いやっ!!……見ないでっ…!」

濡れたレースの下で痛むほど収縮を繰り返していた秘部を眺めていると知って、容易く想像できる有様に身体中が強ばる。

「なんでだよ」
「いや!!恥ずかし…い!」
「へぇ……俺の事が嫌なワケじゃねぇんだ」
「そ、んな……ことっ!!好きじゃなかったらこんな服なんて着ない!こんな下着だって……このお酒だって!」

思わず荒らげて訪れた妙な間に、臍の下から付け根までショーツを避けて舐めていた動きが止まり、折り畳まれていた腕が抜かれて腰がヒヤリと台に触れる。
反り返っていた背が平に戻った苦しさで長く息を吐き、腕を撫でた手が、直ぐに動くことができないぎこちなさを包んでいく。

「……やっと言ってくれたな」

迎えに来た手はゆっくりと髪をまさぐった。
抱き起こされ、あっという間に天井だけの世界に彼が戻る。その瞳を見て涙が溢れた。

「無理してんなよ」
「だって、……少しもっ…!」
「なァ、誰見てんだ?……ユメが見て苦しいならそりゃ俺じゃねぇよ」
「こんなに……いつも考えてるのに」
「もっとこっち見てくれよ。俺はただのひざしだっつってんだろ」

うなじを掴んだ手に寄せられて唇が重なる。余韻を残したままの少し熱い、優しいキスだった。

「俺も好きだぜ?どんなでも。……お試しなんてテキトーな事言った狡さは許してくれよ……どうしても欲しかったんだ」

背伸びの梯子はしごはもう蹴落とされてしまったのに、同じ我儘を持ち合わせていた事を聞かされて、行き場を失った思いに手が差し伸べられる。
互いに弱さを隠していたんだと思うと、今ならかたくなだった手を重ねられそうな気がした。

「私だって、ちゃんと好きです……私も、本当は」
「……ン」
「……どうしても、欲しかった」

「全部くれ」

きつく抱く両手は背を泳ぎ、
一度下りたドレスの幕は再び上がった。

脱げかけの半端な猥雑と真相に触れて、荒らげた唇は半端な裸を口から順に啄み、頬張り、留まらずに滑り始める。唇が重なる度に押される頭を逃がさないように両頬を包まれ、より貪られる角度へ連れていかれる。
応える間に滑った片手は首を撫で付けて、抜かれた舌はそれを追いかけて肌を這っていった。

「っは……、ん、」

閉じた口から声を短く吹きこぼす度に、頬に添えたままの指が下唇のぬめりをなぞって歯列に触れる。歯にひっかけた指は悪戯をしない代わりに、耳から首筋をねぶり遊ぶ舌を置いて、もう片方の手が胸へと落ちていった。

「あっ!ああっ!!う、はぁ……んう、」

震えで噛みそうになるのを甘噛みし、堪える度に情けない声を乗せた息が溢れる。
肌の奥の弾力を掴む熱い手は時々、頂きを擦り合わせる指先へと変わり、弾かれる度に身体が跳ねて、零れた声を短く刻む。

「……可愛いな」
「はぁっ…あっ!…あぁっ…あ、あっ!」

耳の穴に滑り込んでは抜けていく舌先の水音に脳は、近しく来る先の、攻め立てられている錯覚を起こす。
穴の周りで舌がぬたつき、ぞくりと震えたところを構わず突き、細められた舌先は狭まる中でいっぱいに広がって、くねりながら抜き差しを繰り返す。
ひたひたになったレースの編み目からは、またぬるりと期待を零していた。

ふと口から指が抜け、腕に支えられて息をする。
唇の端から頬、首筋から耳までを濡らして、いくつかの髪がそこへ張りついていた。
熱を上げて、言い逃れのできない証拠を作るどうしようもない内腿の間も、あられも無い嬌声を聞く度、身体が跳ねる度に執拗になる舌と手も、彼の襟元から見える上気する首から鎖骨も、二人して掛け合った熱い息に包まれてのぼせているように思う。

「ぐちゃぐちゃになっちまうな」

頬にあたる髪を払って耳にかけてくれる仕草を追えば、太い首には同じように金色がしっとりとまとわり付いている。自身を気にかけない彼に代わり、首元へ手を伸ばして濡れた刺繍糸をそれぞれの指の隙間に絡め、背中へと落とすと、ギラつきながらに揺れた瞳がひととき穏やかになり、眉をくいと上げて、目尻を下げた。

「おいで」

微笑みながらに手を掛けてくれと言っている気がして、せり出した首元へ腕を回すと、裏ももに回った手がぐいと身体を持ち上げる。
しかし、平らな面から柔らかく暖かい感触に抱かれて安堵した身体はその力強さに甘えようとしたが、直ぐに抱く高さが変わっていく。腰はまた、台にちょんと乗せられてしまった。

「俺がどれだけ興奮してっか解る?」

その甘い笑みに意図が解らずにいたが、
背中に絡めた足先、その付け根の間に挟んだ胴からスルスルと下ろされ、留まった高さで腰を寄せられて息を飲んだ。
布越しでも解る芯を持った膨らみが丸みを寄せ合う湿った隙間に当てがわれて、ぐにゃりとレース越しに埋まっていく。

「やっ…あああっ!…ンっ!…は、……ああ!」
「俺もだよ」
「んっ!……ぁんっ……あっ、ん!」

右に左に、芯を弾き合う揺らぎが探り当てた敏感さは待ち侘びた分だけ期待をするのに、思わせぶりに押し付けられるだけで入る事はなくて、熱が伝わりそうな硬さに入り口がじくりと疼く。

「行こうか」

微笑む口元に不敵さをにやりと宿し、抱き上げる手つきの途中で、引っかかるワンピースの輪を首と腕から抜き取っていく。
呼吸を整える間に背を支えられ、部屋の明暗を運ばれていく中で、ソファーの肘置きに掛けられた抜け殻を見送った。

リビングの明かりが淡く広がる廊下から背中で押したドアの先、真っ暗な部屋は淡さを曲がった事でベッドの影が見えるだけになっている。

ベッドの隅へそっと逃がされ、さっきまでとは違うふかふかとした弾力に吸い込まれそうなほど力が抜ける。

「悪ぃ、ヘッドボードのランプ付けて貰えるか」

なんも見えねぇと呟いた彼を眩んだ目で見ても、音を立てたバックルの金属音にしても、服を脱ごうとしていることが解る。
言われるがままシーツの海に膝を立てて上まで這い上がり、手探りで見つけたスイッチを押した。
壁だけをぼんやり橙色に染める優しい明かりが灯り、振り返れば、隆々とした筋を隠しきれずに曲線を描くなめらかな肌が、橙に照らされて陰影を纏っていた。

晒された非日常に目が眩むのに、触れたい欲情を連れた自身の視線は、その先を追い掛けるのをやめない。

まるで違った胸の筋や小さな突起、幾つかに分かれた腹の隆起。当たり前の生物学的事実を対にしただけであるのに、それが彼というだけでこんなにも見ていられないという焦りと羞恥が混じり、矛盾して、まだもう少し眺めさせて欲しいという思い。いつもあの胸の中にいたなどにわか信じがたく、それがじわじわと感動的に嬉しくもあった。

思い出される温もりの下にはこんな肌が隠されていたのかと、鎖骨を流れて肩から腕へ。あんなにも逞しいのでは逃げられなくて当然だなんて、自らの姿勢も忘れて、襟をぬけた顎のラインと流れ落ちる髪を見つめる。
細身に見えてゴツゴツとした腕の先、骨ばった輪郭の先端は、今しがた脱いだハイブランドをその指先で摘み落とす所だった。

「なァ……見とれてんのはお互い様って知ってるか」

首をゆったり傾けていく仕草と微笑みに、
初めて、夢中で囚われ合っていた事を知らされる。

「好きだぜ、その誘い方……堪んねぇ」

臀を突き出した事で晒した背の筋を、
散々な濡れ跡を、湿ったままの唇を。

次から次へ視線を移す度、
名残惜しそうに瞳を揺らしている。

「違、!……だって、」
「あぁ。俺がさせたんだよ」

慌てて向き直り、悪足掻きの手を腿に挟めば、
背は大きな枕へと吸い込まれる。

ベッドの隅に足を掛け、膝で乗り上げた彼から裾が落ちて、スプリングでまだ揺れる身体を爪先から取り込むように擦り上がってくる。膝に触れた手のひらは熱く、胴は太腿を割った。

腹と腹が、胸と胸がじわりと重なり合って、
彼の熱と自分の熱に鳥肌が立つ。
曲線を埋めあう人肌に、
一つ、また一つと満たされていく感覚。

続きがあったことを神聖に思うその首筋から髪が垂れ、毛先が頬を掠め、唇がまたぬらりと押し揉まれる。
耳に当たる重を逃がすための腕は心地よくて、無意識に頬を滑らせてしまう。
浮いた背の隙間に差し込まれた手は、胸の拘束を解いてから優しく肌をなぞった。

「あっ……待っ」
「……自分で脱いで見せてくれんのか?」
「……それは、んっ、!!」
「今日は俺にさせてくれよ…楽しみにしてたんだ」
「んん!…んっ…!」

仰け反った首筋を這う舌先は絶えず唾液を零しながらゆるりと肌に線を引いていく。自由になった胸の頂へ、腹をくすぐり、ひくついた臍の周りへ。

ズルズルと降りていった体はそこで止まり、両手の指先の隙間に優しく指の節が絡んでいく。口を塞ごうとした両手は腰の辺りで彼と共にシーツに沈んでいた。

「いい子で口開けててくれ」
「や……あっ……ぁああん!あっ!は、あっ!」

レース越しに押し付けられた舌先が、
ぬめり合う割れ目を押しのけて沈んでいく。

繊維を通しても感じられる熱量が、吐息が、隙間の全体を覆っていき、唇に食まれ、あられもなく濡れた湿度ごと舐め取り、舌の腹が押し付けられるのと同時に吸われた口内で揉まれ合う秘部が、圧で歪に形を変える。

「ああああっ……んん!ふ、…んんっ!」
「……声……聞かせてくれよ」

身をよじろうにもその肩幅には適わず、思わず力の篭もる指先は、よりきつく指の節々に抱き締められていく。
必死で口を噤もうとしたが、一度離れた舌は鼠径部にかかるレースの縁をなぞって、ひくつく襞へと、より耐え難く滑り込んだ。

「やっ…あっ…あっ!…んっっ!!!」

もっともっとと突き上げる衝動を他所に、届くか届かないかの距離を弄ぶ舌先は楽しげに往復し、時々押し上がる下顎がじゅくりと混ざりあった体液を飲み込もうとする。

「可愛いぜ、ユメ……堪んねぇ」
「んんんっ!」

突然絡んでいた指先が離れ、自由になった手の甲を口に押し当てる間に、リボンを解いた指先は邪魔をしていた一枚を早急に剥ぎ取っていく。
これ以上に進んでしまう事に息を取り込み、せめて呼吸を止められたらと力んだ背は、代わりに次の衝撃で大きく跳ねた。

「っんんっ!!……ふ、…あああっ、!!」

舌先で遊ぶような素振りとは違う大きな咀嚼が全体を覆い、顔ごと押し付けるような圧をかけて、吸い付く度にぐじゅぐじゅと舌の肉厚が届かなかった割目を辿り、隙間の底をなぞり、這い上がる。
じわじわと位置を変えて上り詰めた舌先は、むず痒ささえ感じる痺れたその頂きの麓で弾くように舐め上げた。

「あああああぁ!……んっ、あっ……んっ!」

時折螺旋を描き捏ねる舌つきのせいで収縮を繰り返し、欲するあまり痛む入口に同時に指が触れ、ぬめりを絡めながらするすると中へ入ってくる。
なんの抵抗もなく飲み込んでしまうのに、それは待ちわびた快楽に似ていて、隠れたいと思うのにベッドへ背を張り付けたまま痺れるような硬直で跳ね上がるだけになってしまう。よりその質感を感じたいと勝手に締め上げるせいで内壁が鈍く痛んだ。

「んっ!……ふ、……っあ、あっ…あぁ!」

執拗な舌遊びの下で人差し指から中指へ、擦り合わせる様に交互に抜き差しするゆったりとした動きがそれをほぐしていく。
もどかしく上ずる小刻みな声に相槌を打つ卑猥な咀嚼音、空間に響く重ね合った欲情で、彼の指は更によがる場所を探そうとする。
高まる声に、指は一層じっとりした動きで追い詰めようとする。擦り合わせるだけだった指はやっと揃えられ、質量を増した二本の指が関節で曲げられて内壁をなぞり、トンと突き上げて拳でとまる。

想像に容易い擬似的な衝撃で声が張り、彼の衝動をまたひとつ壊してしまったのだと解る程、昇りつめる律動へと変わっていく。

「んん!、んっ、あっ!!ああ、や、だめ、!もう」

行き場のない焦燥を抱きしめて欲しくて手を伸ばした先、唇を押し付けて吸い、舐りながら圧をかける事に夢中な頭をまさぐれば、突起をつついた舌先が次は舌の腹で摩りあげる動きに変わり、指はゆるゆると早まった。

「ああん!!んん…ん!あっ!あぁぁっ!」

律動が声を出させるのか、喘ぎが律動をさせているのか、ただ同速で溢れる嬌声を張り上げて、より濡れていくことを感じながらむず痒い快楽の中で足先が伸び、背が反り返った。

「優しくはねぇかも、ゴメン」

果てた身体を眺める彼は腕で口元を拭い、
サイドボードへと手を伸ばしていた。

呼吸に必死な私のそばで封を切った彼は、余裕の欠片も無さそうに目を細めて苦しげな息を吐き、熱を孕んで頭をもたげた先端を両手で包んでいく。

覆いかぶさった体温に抱かれて安堵するのに、余韻のひくつきにあてがわれた先端が取り込みたがるすぼみに押し当てられて揺れ、粘液を絡めながら浅く浮き沈みする。
これより先は質量が増してしまうぎりぎりの所を、押し揉むように、推し量るように、押し切るように。
余韻に浸る間もなく快楽を与えられそうであるのに、もう欲しいと収縮するそこにヌルヌルとした圧迫感が埋まりかけては逸れていく。

添えていた手を横に付き、腹から胸に胸板を密着させ、汗や唾液で濡れた肌の感触を滑らせて楽しむ惚けた色めき顔が、腰の動きだけで狭まったすぼみを推し量りながら首を傾け、こちらを見下ろした。

「……あ……あ、……あっ……」
「………すっげぇ欲しそ……なァ」

柔い快感で滲む世界に手を伸ばし、溶けそうに甘い瞳をした彼の背に手を回せば、どうしようもなく見つめあった余韻で唇が近づく。
ゆったりした瞬きの中で降りてくる表情が、伏せられていく睫毛が綺麗で、開かれていく口につられて自分まで開いた口から舌を覗かせてしまう。

「俺もだよ」

深く舌を絡め、期待と覚悟の短い呼吸ごと嗜むような柔らかい咀嚼は、あれだけ聞かせて欲しいと開かせた口を塞いで、思わせぶりだった腰使いに角度をつけた。

「んん……っ、んんん!!!、」

舌の混ざり合いに夢中な隙をついた熱い塊が、中へ取り込もうとひくつく内壁を押し退けて、たちまちにくわりと飲み込まれていく。
疑似の皮膚を通してもありありと形がわかる程の熱量が奥を探してじわりと進んでは止まり、その度に鼻から抜ける苦しげな息が貪りあったままの唇を掠める。
行き場のない嬌声もくぐもって加わり、時々止まりあう舌に喉を鳴らして唾液を飲み、必死な息遣いが互いの頬を暖めた。

「力、抜いて」
「はぁ……は…、……あ……んんっ!」

唇が離れた隙に大きく酸素を吸い込んだが、口内を侵される朦朧が無い代わりに、意識が中へと移ってしまう。

熱い圧迫感、こんなにも欲しかった熱量がもう少しで届いてしまうと思うと、より取り込もうと膣が収縮を始めて、まとわりついていく感覚がする。
その度に彼は苦しげに詰まった息を零し、中でびくりと震えては硬さも質量も増している気がするから、ゾクゾクと体が震えた。

「あ……だめっ、……だ、め……あ…っ!」
「ッハ……動いてねぇのに、いっちまうの」
「……あ、はぁ、だって、びくって、」
「……すっげ、もってかれそ」
「…あっ……ああっ……あ」
「待って……俺で勝手に良くなっちゃってんの、すげぇ可愛いんだけど」
「……あ……いや、んんっ、!あ、……あああっ!!」

構う余裕もなく善がり、ひとりでに果て、
ぎゅっと瞑った瞼を開ければ、まばたきの度に甘い顔が世界へ戻る。

「…目ぇ、トロトロ」

尖った息をハァハァと平たい間延びに変えて浸る間、同じ呼吸の彼は頬を撫でた手のひらを返し、指の背で二度摩った。
意識が定まらず、動物を可愛がるような指先に頬をつつかれて、枕の傾斜で転がった頭を傾ける。

「堪んねェ顔……焦らしてごめんな。……いっぱい良くしてやっから」

痙攣に近い震えはもう、中に留まる熱を抱えきれず脱力している。時々びくりとするだけの、摩擦の緩まったそこを突然に貫かれて、力強い腰使いで身体が縦に揺れた。

「あああっ!!」

無防備でいた分だけ快楽は倍になり、ただでさえ達した余韻で中は緊張感を持って狭まったように感じるのに、かたく絡みついていた力は抜けてしまって、彼が与える欲にのって自分もうまく受け止めていたかったのに力が入らない。
悦楽はコントロールできそうになく、構わず震える最奥を突かれて一際大きく、驚きとは違った声が出る。
こんなに好き放題突かれたら壊れてしまうと思うのに、まだこれからな彼はずるずると引き抜いては、腰が止まる最後までぐいと押し込んだ。

「ア゛……やべぇな……」
「ああっ、……ああっん!」
「こんなの止まれる気がしねぇ」
「はぁ、……ああんっ!!あああ!」

打ち付けられる反動で身体は揺れ、沈んでいく奥はさらに大きく次の衝撃を受ける。突き上げてはシーツを滑り降りる身体を待ち侘びたように腰を打ち、堪らず|捩《よじ》れば追い掛けて、それすら嬉々と喰らっていく。

「はぁ……ぁああっ!、あぁんっ」
「腰、……エロすぎ」
「っあ!……やっ、ああぁっ!!」

角度が変わった快楽を突き止められ、
粘液を溢れさせて通りが良くなった膣をずるずる滑る鈍い衝撃が、右に左に揺れる腰を追い掛ける。
首を振り、開いた口から嬌声が溢れる度、奥を突いて擦り寄る顔が目を細めて荒い息を吐いていた。

「ココ……好きか……ン?」
「ッあ!!んんっ!んんん!!」

よじれた身体の輪郭を筋肉質な体が擦り上げて奥で留まり、腰をくねらせて小刻みに刺激を始めて、絶頂がまた近付いた予感に思わず肩が跳ねる。
ふいに太腿を撫でた手に片脚を折り曲げられ、その刺激はより明確になって疼きを追い詰めた。
捻られていびつになったせいで、入口から彼を包む膣の中までが道を変え、新たな刺激を受け止め慣れなくて、小刻みな声が高さを上げた。

「っは、……あンっ……アッ、んっ!」
「んな声、聞かされたら、」
「……や!、いっちゃ、う!」
「虐めたくなっちまう」
「あああっ!」

引き抜かれる波に期待したのに次はなく、遠ざかる快楽にこれまでの快感が恋しくなる。するとそれは急速に飢えに代わり、いたたまれない程の枯渇で涙が溢れて、自分が発したとは思えない本音が包み隠さずこぼれた。

「いや、!いやぁ、……もっ…と」
「ン。……もっと?」
「ほしいの、!……もっと入れ、て……ずっとじゃないと、や」
「ハァ……くそ可愛いな……」

頬を包み、手のひらに涙を滲ませて唇を啄む彼の口内へ思わず舌を入れ、離れないで欲しいと首に手を回す。もう、早くといた思いでいっぱいだった。

「ゴメンな」

驚いてひととき止まった舌が離れ、目元にキスをひとつ。改めて重なった唇は、詫びるような深い舌使いで口内を貪り、少し苦しく感じるほどの重が緩くなる頃に、首元に回した手が解かれた。

両の脚を揃えて曲げられ、濡れそぼった入口を探す丸みがゆっくりと内壁を擦って挿し込まれていく。
折り重なった膝と彼の胸板が、丸まった腰のラインに圧をかけて緩く弾み、すぼまった穴から押し入られる度、質量に引き換えてずぶずぶと雫が溢れる。
待ちわびたように高い声をあげるのを見た彼は、圧迫感を掻い潜る懸命な呼吸を一通り微笑んで、何度も何度も、内壁の感触をゆっくりと、もどかしいほど低速でじわじわと擦りあげる。

「いや、いや、もっと、」
「あァ……もっとしような」
「あっ!!あぁ!!んっ、ああっん!」

堪らず強請れば突然に激しい律動が始まり、潰れていく感覚に溺れる。
しかし絶頂を感じとれば、彼は体を起こして離れていき、足首を掴んだまま、またわざと速度を落とした。

「繋がってンな」
「あ、……は、はぁ、んっ、やぁ……」
「こんなになっちまって」

ねじ込まれる度ひくつき、嬉しそうにすする入口と、最奥を突いても引き返しても穴の隙間から溢れ伝う雫を愛おしそうに眺めて、ゆるゆると揺すっていた腰の動きを止めてしまった。

「舐めたくなるな……勿体ねぇ」

突然ずるりと引き抜いて内腿を撫で付け、開いたまま押し付けた彼は、中での絶頂を待ち侘びるそこへ顔を寄せ、舌を覗かせてむしゃぶりついた。

「いやっ、あああっ!!ああっ!!あっ、ああ!」

潰れた果実のように散々なそこをじゅ、と吸い上げ、再び指を差していく。じわりと溢れればまたねっとりと舐め取り、関節で曲げた指で内壁を揺する。舌先で転がしたクリトリスは意地悪に潰し、しゃぶり付き、リップ音を立てて唇の内側へ吸われれば、電流が走ったように硬直した身体が跳ねた。

もはや嬌声は悲鳴に近く、欲しがった快楽を寸前で取り上げられ、また別の快楽を際限なく与えられて訳が解らなくなっていて、恥ずかしいだとか、はしたない声は出さないように気をつけたいだとかいう理性の糸が切れて、されるがまま甘やかに溺れ、壊れてしまった自覚だけがあった。

「おいで」

ふうふうと息を上げる身体を起こされ、胡座をかいた中へ脱力すれば、背中を撫でる手と胸板の奥から聞こえる心音が呼吸を落ち着けていく。視界の端に移ったゴミ箱にはもう幾つもの萎びれた抜け殻と包装が入っていた。
それでも、呼吸が落ち着いても、どれだけよがり狂っても、奥に残した痺れが、まだ足りないと疼き続けている気がする。

その瞬間、身体を抱き上げて浮かせた彼に腰を下ろされ、何度もいかされた身体に一番欲しかった快楽が走り、あまりの快感で腰が引けて、閉じられない両の内腿が激しく震えた。

「あっ!はぁ、……やあああぁっ!」
「あ゛あ゛……」

喉を鳴らして唸った彼の手がやわやわと臀を掴み、意味ありげな掌が肌を押し揉む。ゆらゆらと押す動きになり変われば、繋がりがぬちぬちと粘り合いを始めた。

「んんんん!っあっ!……あっ、ん、はああ、ん!」
「は、……際限ねぇよなァ……」
「ああ!!あああっ、やあぁ!」

緩やかに腰を揺すられるのに、滑らかな波の揺らぎの最後にあるのは最奥を押し付けるグリグリとした抵抗感で、声を張り上げるほどの快楽であるのに緩やかに引いていく。しかしその波が止まることはなく、臀を鷲掴んだ掌にまた滑らされ、粘液で滑り落ちては打ち寄せる。

「はあんっ!あぁぁっ!……あぁん!、」
「っは、また声……エロくなってんな」

首を傾げて伺われても喘ぐことしか出来ず、可愛いと目を細めた彼は荒い息を吐きながらもその手を緩めることはなく、徐々に速度をあげて腰を波打たせた。

「っあ!!!あっ!!!んん!!や、だめ、!!でちゃ、う!!い、やぁぁぁ!!」

甘い痺れが奥を締め上げて、止まって欲しい衝動が走るのに、それでも物のように腰を揺らされて、ぐりぐりと無理矢理に奥を擦りつけられる。
痙攣する身体がかくかくと揺らぎを歪にして、その間も容赦なく続くトントンとした抱擁に強く抱かれたまま頭が真っ白になった。
水音を立てて透明の液が二人を濡らし、ただ胸の中でぴくぴくと震える。しかし余韻に浸る間もなくすぐさま脇の下に両手を差し込まれて、ベッドに身体を伏せられた。

膝を立て、腰を突き上げて、されるがまま枕に髪を散らし、ぼやけた視界に映る彼が、怪しく目を光らせるのを見る。

「ずっと、欲しいんだろ」
「っっっっはぁ、!も、やぁ、!!あぁあん!!」

晒した秘部から滴る水滴に舌を這わせ、太腿から痙攣する入口へ、ねぶりやすいように背を押されてより高く腰を逸らせば、ぬちゃぬちゃと舌が割れ目を這い回る。
咥え続けた膣は形を憶え、物足りなく開いたままで、それを察したような指がひとつふたつとまた中の悦ぶ場所を摩り始める。

「っは!やっ!!あっ!!ああん!あっ!!」

疼く場所を声が早まるまで刺激した指はあっさりと抜かれ、触れられると思っていなかった上へと伸び、くっと押された瞬間に嬌声が枕で潰れ、飛び出た水を滴らせたまま膝を崩した。

「ずっと、してような」

何も整わないまま腰を引き上げられれば始まる唐突な挿入と激しい腰つきに、意識が遠のいていく。
痙攣する膣へ、まだ足りないと中で反り返るほど突き上げ、硬く届いた奥へ何度も打ち付けられ、一層膨れ上がっていく質量と熱に彼の荒い吐息が掠れて聞こえ、同時に沸き起こった爆ぜる感覚に連れられて、ゆっくりと瞼を閉じた。

【Under The Skin】


 


MAIN