シーザーにとって彼女は母親代わりのような人だったという。

ほんの僅かにしか語られなかった彼女について、もう多くは知ることができない。記憶の中での会話と、遺されたこの一枚の写真が二人を結ぶ一片となってしまった。

「いつか恩返しができれば」

摩りきれるほど思い返した記憶の中で彼は哀愁をのせて笑う。こいつが女の話でそんな顔をすることもあるのかと俺は少しだけ驚いて、悟らせないようにいつもの調子で何度も何度も返すのだ。

「近い内にできるぜ、その時は俺にも紹介してちょーだい」


二人が思い描いた“いつか”は手折られた。
俺の手元に残るのは写真一枚と、幾度繰り返しても増えない記憶しかない。もしもシーザーのいう彼女に会えたら。彼の代わりにできることなんて些細なこともないだろうが、それでも何かしなければあの時から一歩も進めないだろう。

『それは俺の役目だスカタン』

瞼を閉じれば聞こえるその声を、今も探している。
ALICE+