いたいのいたいのとんでいけ
2021/10/09 ▽変わらないもの
出会った頃から今まで、自分の感情の変化について考えたいと思った。
まずは初めて出会ったときの不思議な感覚。時間が止まったかのようなあの感覚。そのせいか妙に印象に残った。
あのときはもちろん、こんなことになるなんて思いもしなかったけど。
傍にいるようになってから。最初は良い印象じゃなかった。怒りも恐怖もたくさん感じてきた。でもそれ以上に、人間と違った価値観や思考で動く彼に安心感を抱いていた。
嫌な奴。だけど傍にいると安心する。
友達ってこういう感じなのかなって思った。人間は嫌いだから、彼がヴァンパイアでも何も気にならない。むしろ居心地がいいのは人ならざるものだからだろうとも思ってた。
ずっと、あの居心地の良さが良かったのかもしれない。私にとっても、彼にとっても。
初めて名前を呼ばれたとき、キスをしたとき、手を繋いだとき。すごく鮮明に覚えてる。私たちは順番がめちゃくちゃだった。好きでもない人とキスをしたり体の繋がりを持ったりなんてありえないことだ。恋愛に興味がなかった私でもそう思った。異性として意識するようになったのはその辺りかもしれない。でも彼に恋するなんて絶対にありえない、認めたくなかった。
彼が私に呪いをかけたのはその後だった。
「オレだけ、見てろ。」
彼の声色もあのときの感情も一切色褪せない。ずっと脳にこびりついたまま。それから私の世界はアヤトくんに支配された。
私が本当にもう戻れない、堕ちたんだ、どうしようもなく好きだと認めたときには彼と出会ってから一年経っていた。一時の感情じゃ済まされない。名前を呼ばれたとき、泣いてしまったのを覚えている。自分の名前が特別なもののように思えた。
幸せになってほしかった。そして、彼の幸せに私は必要ない。私じゃ幸せにできないと思った。だから彼を拒絶した。彼の幸せを願うだけの毎日は楽で、苦しかった。幸せになってほしい、私が幸せにしたい、彼のことが好き、出会えてよかった、出会わなければよかった。それだけを思うだけの日々。どれも本心。私は逃げていただけだった。
そんな葛藤は彼を受け入れてからも続いた。そして何より、自分は彼に愛されているのか?それが不安で泣き出すようなことが多かった。彼のことを全然信じられていなかった。でも私たちの関係は曖昧だったから、多少は(私の場合は過剰だったけど)そういうことを感じるんじゃないだろうか。
それが収まりだしたのは恋人になってからだと思う。当時の私は彼と恋人になりたくなかったけど(今も少し、そういう気持ちがある)、恋人になったことは私の精神安定的には正解だったのかもしれない。彼が少し穏やかになって落ち着いてきたのも、その頃だ。
私は更に彼に惹かれていった。でもそれだけじゃなかった。彼の兄弟に嫉妬するようになったり、彼が愛おしすぎて憎くすら思うことがあった。どうやら愛を知らない私は優しく温かい愛情を彼に捧げることはできないらしい。そこからまた苦悩の日々が続いた。本物の愛って何なんだろう?今もその答えは出ていない。
死にたい気持ちが昔より強くなってから、自分のことを、アヤトくんのものを大切にしてあげられないことがつらくて嫌で、何度も逃げようとしては捕まった。私たちはもうどうしようもないくらい依存し合っている。お互いがお互いに縋りついて生きている状態。言われなくてもこんなのはいけないってわかってる。
死なせてくれない彼のことを、前より一層憎く思う。彼という呪いがある限り私が死ぬことは許されない。彼は私を縛っている。でもそのことがたまらなく嬉しい。自分でももう、何がなんだかわからない。
アヤトくんが好きだ。幸せにしたい、幸せになってほしい。笑っていてほしい。もう苦しまないでほしい。彼が望むことなら何でもしたい。兄弟に父親に母親に複雑な感情を抱いている彼が嫌、私のことだけ考えてほしい。私をこんな気持ちにさせる彼が、私のことを死なせてくれない彼が憎い。アヤトくんのために全て捨てたっていいし、彼の幸せのためなら彼が私を捨てるのも構わない。彼が私を好きじゃなくても嫌われても好き。でも一番は、ずっと傍にいたい。
傍に置いてくれるなら、何だってよかった。
それだけは昔からずっと変わらない。
私の心はほぼアヤトくんで埋まっている。これが無くなるなんて、どうにも考えられない。この想いは単なる感情ではなくもはや私の身体の一部だ。少しずつ少しずつ私の身体を侵食して創り変えていった大切なもの。だからアヤトくんへの想いが彼の次に大切だ。これは絶対になくしたり傷つけられたりしたくない、守るべきもの。
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