いたいのいたいのとんでいけ
2023/09/24 ▽私の堕ちた神様
「オマエが縋っていいのはカミサマじゃねぇ。このアヤト様だけだ。」
この言葉が、私の信仰の始まりだった。
アヤトくんにとってはお気に入りの玩具を独り占めしたいだけの言葉だったと思うけど……縋ることを許されて私は救われてしまった。
私にとっての神様は、試練を与えるだけ与えて何もしてくれない、救ってなんかくれない存在だった。だから無神論者ではなかったけど、別に心の拠り所でも何でもない。ただただ私に酷い運命を与えるだけの存在。
でも、違った。本当の、本物の神様はちゃんと私のことを救ってくださる。このひとだ。このひとが私の神様。
孤独を救うことは難しいことだと思っている。孤独を救うにはその人が求めている言葉を行動を与えることが必要だ。それを察することは難しい。実際に私にも親、教師、医者や看護師が言葉をかけてきた行動してくれたけど、私の心には何一つとして響かなかった。届かなかった。ずっとずっと孤独で、世界を諦めていた。そんなところに現れたのがアヤトくんだ。いつの間にか私の世界に入ってきて、的確に私の心を突いて上手に攫っていく。誰でもよかったわけじゃない。誰にでも救えたわけじゃない。私の唯一の神様であるアヤトくんだからできたこと。
救われて充分満足し、拠り所を得たのでそれ以降は救いを求めているつもりはなかった。でもあのひとは私のことを何度も何度も救ってくれた。やがて私は彼を狂信するようになる。恐らく恋のきっかけが『救い』だったせいで私の恋心は信仰と区別が付かなくなり、恋が宗教になってしまった。空っぽだった私にアヤトくんが隙間もなく入ってきて満たしてくれて、彼でいっぱいになった。そして理解した。私の空洞はこのために、アヤトくんのためにあったんだ。
これを書きながら空洞の意味を再確認しようと検索していろいろ見ていたら「人の心の中には、神が作った空洞がある。その空洞は創造者である神以外のものによっては埋められることができない。」という哲学者パスカルの言葉に辿り着いて震えてしまった。つまり空洞を埋められる人こそが神様なのだ。またひとつ、アヤトくんが私の神様であるということが証明されてしまった。
でもあのひとと結ばれてから、私は自分の信仰で彼を孤独にしてしまうことがあるような気がしていた。何しろ、あのひとは私にとって何よりも純粋で綺麗な、穢してはいけない神様だ。彼に捧げる愛は、彼が受け取るに相応しい綺麗な愛でなくてはいけない。でも見返りを求めない愛とか、醜い嫉妬心や執着や依存を捨てるとか、彼の幸せだけをひたすら願う気持ちだとか、そんなものは私にとって全部難しかった。無理だった。だって、私以外の誰のものにもなってほしくない。私だけ見ていてほしい。愛してほしい。私にはアヤトくんだけ……綺麗な愛にするためには私の愛の大部分を否定し殺さなければいけなかった。アヤトくんに相応しい愛を捧げられなくて、捧げたくて、ずっとずっと苦しかった。自分の想いを彼に思うように伝えられなかった。時には偽った。この悩みを抱えている期間は大好きなアヤトくんに本当の気持ちを言えなくなっていた。アヤトくんが望んでいたわけじゃないのに、私は彼には相応しくないと嘆いていた。それを弾みでアヤトくんに暴露したとき、独りよがりだと言われた。本当にその通りだ。でも私は狂信しすぎて自分一人ではもう、そんなことすら気づけないところまできていた。
そしてトドメを刺される。私と過ごすうちに私の神様は、私がいないと生きていけなくなってしまった。残虐で孤高で強くて残酷なまでに美しかったあのひとは、もうどこにもいないのだ。私を救ってくれた神様は堕ちてしまった。こんな穢れた醜い世界に。どうして?あなたは私を救ってくれた神様なのに。ヴァンパイアだから、私の血に執着し依存するのはまだいい。でもあのひとは、私自身がいないともう生きていくことができないのだ。こんなに悲しいことがあるか。あの強く強く放ってた光を儚い光に変えてしまったのは私だなんて。私はアヤトくんに失望なんてしないとあの頃言い張っていたけど、正直に言えば失望したんだろう。アヤトくんは神様じゃない。ヴァンパイアの一人の男の人。誰かを神様にしてはいけなかった、と何度も何度も言っていた。自分に言い聞かせるように。受け入れられなかった。私の神様が堕ちてしまったこと。
そんな神様とどう向き合えばいいのか。時間がかかったけど、やっと分かった。アヤトくんはどんなに成り下がったって、落ちぶれたって、私の神様であることに変わりなかった。その輝きが失われたわけではないのだ。いいよ、どんなに堕ちてしまったって。それでも私はあなたのことを愛してる。それに堕ちてしまったのなら私が連れて行ってあげればいい、天上まで。今度は私もそっちに行ってあげるから。そしたらもう堕ちる心配ないでしょ?そもそも私はアヤトくんの救いだ。それくらい分かってる。これからも私が救いを、安らぎを与えてあげる。全部全部受け入れてあげる。だから縋り合って祈り合って生きていこうね。
でも、アヤトくんが堕ちてくれたからこそ私は少し楽になった。彼を穢してはいけないという気持ちがいつも邪魔していたけど、その邪魔な気持ちが今はないのだ。アヤトくんは神様だけど、こちらに堕ちてしまったのだ。それならもう、いくらでも穢していい。この神様は、私だけのものだ。穢れた私が触れようと穢れた想いをぶつけようと、もう何も悪いことではない。だって、おなじだから。この意識が一番私を楽にした。依存しても執着しても嫉妬しても憎んでも壊れるくらいに愛しても、もういいんだ。私の全部をぶつけても。
やっぱり、私には神様がいないとダメだ。これは自分で選び歩んできたものだと認めたくない受け入れたくないのだろうけど、今までの苦しみや痛みだらけの人生がアヤトくんがつくってくれたものだと、私が空っぽなのはアヤトくんを理解するためにアヤトくんでいっぱいになるようにそうさせられたのだと思うだけでもうどうしようもなく救われてしまう。アヤトくんのために生まれてきた女の子はアヤトくんがつくったんだ。私は運命を強く強く信じているけど、それをつくったのがアヤトくんじゃないなんて嫌だ。私の運命だってアヤトくんだけのものだ。そう思うと自分の人生ごと忌々しく、愛おしく思う。アヤトくんのせいで滅茶苦茶なんだ、私の人生は、私は。これだけが私の拠り所、彼だけが私の居場所。
私の神様は死なせない。これがどれほど身勝手か、残酷なことをしているかは分かっているけど、だって神様は一人しかいない。代わりなんていない。普通の愛を知らない私だから、救済により信仰とほぼ同時に始まった恋だから、これしか分からない。正しい恋が愛が分からない。いや、きっとこれは正しくはない。アヤトくんの求めてるものはこんなものじゃない……。それでも、アヤトくんを神にして縋ってしまう罪は背負う、罰は受けるから、だからずっと私の神様でいてほしい。ずっとずっとその眩しすぎる強い強い魂の光で私のことを導いてほしい。そうしてくれないと私はもう生きられない。元々救ってもらわなければ終わってた命で、ならばこれはアヤトくんだけのものだ。だからアヤトくんの手でさっさと終わらせるか、私に生きていてほしいなら私だけの神様をやって。私もアヤトくんが望むものを愛を一番を特別を永遠を、何だって捧げるから。だからどんなに堕ちても生きて、私だけの神様。
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