彼女でござる 花のJKでござる [1/7] 春の気配に胸踊る四月。 散りぎわ盛んな桜並木の道を薄いピンクの花びらを浴びながら、晴臣を追い掛けて早足で行く。 建物の中は比較的安全だけど、屋外はいつ何時(なんどき)、何があるかわからない。 それを護衛するのが私の役割で、晴臣がプライベートで外出する時は、必ず私がそばにつくことになる。 同性だったら親友とのスタンスでそばにいられるけど、異性だとなかなかそうはいかない。 だから、恋人だと偽装したほうが不自然じゃないわけで、私たちが思春期に差し掛かった中学生の頃に、私は晴臣の偽物の彼女になった。 実際には晴臣には生まれる前から決まっていた許婚がいて、私は学校でだけの隠れみのに過ぎない。 実際の晴臣の彼女は全国でも随一の女子校に通っているご令嬢で、非の打ち所はどこにもない。 まあ、ね。 私も一般的にはそこそこのお嬢様といったスタンスにいる。 そもそも望月家は徳川家お抱えのそれなりの家柄で、家屋は徳川家の広大な敷地内の一画にあり、その屋敷と言っても過言じゃない佇まいはセレブと言っても支障はないだろう。 容姿で言えば、動きやすいようにショートカットにしてはいるけど、癖が全くない黒髪は我ながらサラサラで、ぱっちりとした黒目がちの二重にしゅっとした小顔。 自分で言うのもなんだけど、一応は美人の部類に入ると思う。 ただ、身長は152センチしかないし、胸のボリュームも少々足りない。 言い訳をさせて貰うと鍛えすぎた筋肉が邪魔をしていたりするんだけど、この二つは私のコンプレックスになっている。 そう。 私は容姿的には一応は及第点で、晴臣と歩いていると美男美女でお似合いのカップルに見えるらしかった。 一方の晴臣は180センチ近くの長身で、まだ成長してるらしいから卒業までには180センチは軽く越えているだろう。 王子様と言うよりは純和風のイケメンで、表向きにはクールな性格が頂点に立つ者としての風格を醸し出しているようだった。 本当の晴臣は……と言うか。 私だけに見せる晴臣は、俺様で、ちょっぴり意地悪で。 なのに、ちょっとした時に見せる優しさとのギャップが堪らなくて、私を惹き付けてやまない。 「わ、見て。あの二人。美男美女。すっごくお似合いじゃない?」 講堂に入った途端、そうひそひそ話す声が聞こえて来て、ちょっとだけ嬉しくなる。 私たちのことを知らないということは、彼女らは外部入学組なんだろう。 「徳川君、望月さん、おはよう」 「おはようございます。お二方」 その時、よく見知った顔の生徒に声を掛けられて、 「おはよう、万里小路(までのこうじ)さん。御田(みた)さん」 私は満面の作り笑顔を彼女たちに向けたのだった。 [*前へ][次へ#] 2/8ページ [戻る] [TOPへ戻る] |