お正月デート





なつ様リクエスト*デートからのお泊まりの話

⚠︎若干えろい



呪術師にも一応定休日がある。それがお正月。
三ヶ日までは余程の事が無い限り、任務はお休みらしい。何故ならば呪術師という職業柄、お家がそれなりに立派な所が多いようで、昔ながらの伝統のように家に集まるのが一般的呪術師の恒例行事のようだ。
かくいう呪術御三家である五条も、元旦朝一の新幹線で帰って行った。彼と同じく夏油も駅まで一緒に向かうと帰っていき、寮には私一人。
大晦日の疲れを癒す為ゆっくり昼まで過ごし、その後うとうと眠ってしまったら一月二日の朝になっていた。疲れがピークだったみたいで、まさか次の日になってしまうなんてと自分でも驚いている。
しかし日々の疲れは熟睡の末に取れ、正月と言えど今までと変わらず早朝ランニングを終えて朝ごはんを食べていたら、ドタドタと大きな足音がこちらに向かってくる。
おかしいな、寮の中には私一人なはずなんだけど。確か非常勤として今日は何人かの補助監督が仕事が終わってないからと出勤していたけど、何かあっただろうか。
疑問に思いながらも卵焼きを口に入れると、食堂のドアが勢いよく開き、そこには昨日帰ったはずの五条の姿があった。

「名前、初詣行くぞ!」
「ふぁ、?」
「だぁかぁら!初詣デート!」

急に何を言い出すんだ……で、でーと……?
彼の勢いにおされて食べていた卵焼きを飲み込む。

「っ…え、ちょ……家は?」
「あ?昨日全部終わらせて来た。この最強なめんなよ」

いや、なめてないけど。それにそんなにドヤ顔しなくていいから。
おじいちゃんと一緒に住んでいた時は、正月の行事といえばおせちを食べて、ミカンを頬張り、おじいちゃん作成の福笑いで遊んだ。が、五条家の正月となると色々…呆けてたりのんびり遊ぶ事なんて無いそんな大変なイメージなんだけど?
たしか……去年の正月も確か三ヶ日が終わって帰って来ていたし、絶対に何かある。この何かある、は五条悟の傍若無人な態度及び行動よって五条家がパニックになった何かだ。
五条家のおじいさんと縛りのある約束を交わし、それ以来イジメのような事は無かったけれど、ワガママ次期当主が私とのデートのせいで早めに家を出たと知れば黙っていないだろう。
はぁ、と心の中で大きなため息をつく私の向かい側に座った彼は、朝食のウィンナーを指でつまんで頬張る。最後にとってたのに、こんにゃろ。

「何だよその面、行きたくねーのかよ」
「いや……その、急でびっくりしただけ」
「ふーん、じゃあ行こーぜ」
「うん。ちょっと準備してくるから待ってて」
「おー、談話室で待ってる」

食器をまとめて台所へ行き、彼に声をかければ腑抜けた返事とともに食堂から出て行った。

ふぅ……危ない危ない。
五条家との約束は、五条にバレてしまえば大変な事になるだろう。
彼は私が呪具を未だに探しているのは理解していても、卒業までに見つからなければ彼の元から離れるという縛りは知らない。知られてしまえば、自惚れではないけど、あのワガママがはいそうですかと受け入れる可能性は低い。あのおじいさんがどうなるか分からないし……私もどうなるか分からない。それにもしかすると彼自身が任務そっちのけで血眼になって探す未来だって可能性はある。

呪具を探すのは私の使命だ。彼は、私の事に構わず、この世界の最強の術師としてこの世界を救ってほしい。



*



「終点、◯◯――◯◯―……」

冷たい風が頬を掠め、潮の匂いが冷たい空気と共に鼻を通り、思わずマフラーに顔を埋める。
彼に連れられて電車に乗り、たどり着いた先は海の見える最終駅。
いや……何処まで初詣に来てるんだ。
高専の近くにも神社はある。それに高専自体が神の領域のようなものだ。実際には初詣なんてしなくても良いのだろうが、デートのお誘いが内心とっても嬉しくて、浮かれて彼の行くままに着いてきた。
五条家が云々もろもろ問題があるのは自分の中で理解していても、やはり五条と一緒に過ごせるのはとても嬉しい。五条家の皆さん申し訳ないと思いつつも堪能したい気持ちだけは譲れないのだ。
それに、年を重ねる事に彼との時間はどんどん減っていっている。少しでも、一緒にいれるのであれば居たいというのは、我儘なのかな。

「何か今日ぼーっとしてね?体調悪い?」
「え?……ううん、昨日凄い寝ちゃってたからそのせいかも」
「ああ、正月ボケってやつ?」
「ボケじゃない!」
「んじゃあ正月バカ?」
「バカ言うなバカ!」

彼の揶揄う言葉に反論に反論すると、ククッと喉を鳴らし、目を細めて笑う。はう……やっぱりこの嬉しそうな顔、好きだなあ。
ドキッとした胸の鼓動は、更に彼がするりと私の手を指を絡ませて握られたことによって尚早くなり、身体が驚く。

「…んだよ、ダメ?」
「う、ううん……嬉、しい」

正直、まだ自分の気持ちを伝えるのは未だに苦手だ。好きな人に素直に想いを伝えるのは、こんなにも言葉が詰まるものなのかと自分自身苦悩している。今まで伝えてはいけないと我慢していたのがクセになっているみたいで、伝えるだけでも耳が熱くなるほど恥ずかしい。
でも彼はその事に対して嫌とは思っていないようで、満足そうにまた微笑む。

「で、でもさ、何でこんな遠くの所で初詣?」
「海の近くに鳥居があるのは各地に点々とあるけど、ここは他とは少し違っててさ」
「?そうなんだ?」
「人魚の棲む神社って言われてんだよね」
「……それって、」
「だからお前の憑いてる呪霊の住処が此処だったんじゃねぇかなと俺は目星をつけたわけ」
「へ」

ま、まさか五条…私の考えてる事、知って……

「ってのは一応建前なだけ。…お前と最近デートする時間無かったし、一緒に居てーなと思って」
「あ、え……」
「あ?……嫌ならいやって言えよ」

ムスッとした顔で彼は問いかける。多分、これは照れ隠しだろう。

「ええ?!い、嫌じゃないよ!私も、五条と……その、一緒に居たかったから。考えてくれてありがと」

彼が私の隠し事を知らない事にホッとしながらも、それよりも隠し事をしている自分に嫌気がさす。
やはり彼の中では呪具のことはもうどうでもいいと思うのは変わらないようだ。でも私が固執して呪具を諦めないから、純粋にデートしたいのに私の要望も考えてくれてプランを考えてくれたんだろう。嬉しさと、罪悪感が交互する。
……でも、もしかしたら五条が調べてくれたこの場所が、水神の居た場所で、呪具も此処にあるかもしれない。
結局彼に頼っている事にもモヤモヤが募るが、見つけて解決してしまえば、私の願いも叶ったりだ。その分、全部終わったら彼が叶えたい事を私なりに手伝っていければ本望である。



*




「……んなわけで、一先ずお詣りすっか」

海にある鳥居と言えど、海から少し離れた所に神を奉る用の神社が設けられているとの事。五条が言うには本殿は海の中にあるらしく、人目もあるので海の鳥居の方が封鎖される夜の時間を狙う作戦らしい。
正月二日目だが人はそれほど多くはなく、流石終点の田舎町である。石畳みの続く道を進んで拝殿まで進み、五円玉をお財布から出して二礼二拍手。
この世に神様等居るのかと、高専に来てから疑問ではあるが――……祈るのであれば、幸せな年でありますように。仲間も恋人も、大切な人達と今年もできるだけ一緒に過ごしたい。
目を閉じて願いを唱え、目を開けてチラッと横の彼を見れば手を合わせて祈るその姿は、五条家の次期当主であろう姿。いっつもお調子者で、夏油とバカばっかやってるのに、流石御三家だけあって礼儀作法はお手のものである。……うぐぐ、カッコいい。
見惚れてしまい、彼が目を開けると視線が交わる。驚いて咄嗟に目を逸らせば手を引かれ、お詣りの列から離れる。少し歩き、人気の無い建物の壁に身体を押され、彼にそのまま唇を奪われた。

「っ、ん……」
「見過ぎ」
「だからってこんな所で……」
「だめ?」
「だ、だめっ!」
「ケチ。俺の顔見惚れてたクセに」
「それはっ……!!」
「ククッ、今までなら違うって反論してたのに成長したな。ま、許してやるよ」

うう……未だに恋人の関係が慣れない。
彼から好きだと言われた時は、私から言われたから自分もそうなんじゃと思い込んでるプラシーボ的なものなんじゃと複雑だったけど……今の優しい五条は、今までよりも一層好いていると感じる程。
今、凄く、幸せ。

「…ね、出店見てもいい?」
「あー、そういや腹減ったな。……?!」

彼の手を今度は私が絡ませると、彼は驚いた顔をして、私を見てきた。
想いを伝えてくれているのであれば、私も出来る限り彼に好きを伝えたい。

「あ〜……マジお前…不意打ちすぎんだろ」
「それは五条も一緒でしょ」
「やっぱりもっかいだめ?」
「今はだめ」
「今はな」
「あ、」

ニヤリと笑った彼の企んだ顔に、しまったと自分の発言に後悔した。多分これは後で倍されるやつだ…


*




「ふぅ〜……焼きそばとたこ焼き、はしまきにりんご飴……もー入んない」
「そーか?」
「五条って胃袋おっきいよね……」
「傑の方が食うけどな」

出店を巡り、お祭り気分に食欲も駆られ結構食べてしまった。と、言っても二人で一つのパックを買って一つの箸でつつき、食べ合いっこ。
まさか五条からあーんしてもらえるとは思わず恥ずかしくて断ったのだが、こういう時は意地でもやらせろとなる。機嫌が悪くなって後々面倒になる未来が見えたので、口をあーんと開けると子供のような満面の笑みをして私の口の中に焼きそばを入れ、食べてる最中にも早くあーんさせろとスタンバイしていた。タイミングを考えろタイミングを。
その後口の中に丸ごとたこ焼きを入れられた時は流石に殺意が湧いた。食べるのに五分間かかり、必死な私を見て彼も五分間爆笑していた。このやろ。

そうこうしている内に日が暮れて、屋台もどんどん閉じていく。冬だから日が落ちるのが早いだけで、時間としてはまだ夕方五時。昔おじいちゃんとお詣りに行った時は夜中まで出店も開いてたけど、ここは違うみたい。
神社を抜けて海に続く砂の道を歩くと共に軽い砂の音が鳴る。道の先には大海原が広がっていて、夕陽が水平線の向こう側へ沈んでいく視線の中に、ぽつんと一つ、鳥居があった。

「……あそこだな」
「水神、何か感じる?」

心の中に居座る呪霊に問いかければ、応答が無い。面倒だから黙っているだけなのか、何かを感じ取っているのか……んん、謎だ。

「何か言ってんの?」
「ううん、応答なし。そういえば前に水神が五条も分かるって……あ、そうだ六眼で見えるんじゃ無いかって言ってたけど」
「まー確かにな。けど今んとこ何も感じねー。もうちょい近づかねーと分かんねーな」
「近づくってどうやって……?」
「こーやって」

そういう彼は私の手を握って、砂浜から浅瀬へ進んでいく。濡れてしまう、と言おうとしたが、水に触れる感触が無く、口が開いたまま行き場を失って閉じた。
……そっか、無下限術式。
海の中に潜るように歩いて進む私達と海の水との間に薄い膜のような隙間が出来たまま、鳥居の方へと歩いていく。海に潜る前も深そうだと思ったけど、潜ると一層深い。
鳥居をくぐると、無かったはずの本殿が姿を現す。本殿、といってもとても小さな祠と同じくらいのサイズだ。でも五条が言うには、これが目当ての場所。
彼の方をチラッとみれば面倒くさそうな顔をしてサングラスを外したと思えば、元に戻す。

「反応ねーな」
「水神は……どう?」
「ここでは無い。……だがやはり水の中は居心地が良いのう」

ひょっこり現れた水神は目を細め、夕陽が落ちた暗闇の水中を見つめる。水神と出会って色々面倒な事は増えたし、最初はあの時の帰りたいと言っていた気持ちも嘘だと思っていた。だけどこういう表情を見ると、本当に帰りたかったんだなと思う。
……早く帰してあげたいが、まだまだ道のりは遠そうだ。


あっという間に終わった呪具探しはここまで。本当にデートがメインな一日だったなあ。でも見つけなくて少しホッとしている所もある。何も出来ないままな自分が成長を一番伝えれるのは、ここだと思っているから。

岸まで歩いて戻り、駅の方へ向かうのかと思えば五条は私の手を引いて駅とは反対方向へと進んでいく。

「五条、駅あっちだよ?」 
「もう終電ねーよ」
「えっ?!?!ど、どうすんの?、」

終電がないだと……?!
東京の田舎にある高専へ戻る為の都心から乗り継ぐ電車でも23時台まであるというのに。
ど、どうすんの、タクシー?!てかタクシーってここまで来てくれるの?!
焦る私をよそに、繋がれた手はどんどん先へと進んでいく。夕陽も落ちてすっかり夜の闇の中、点々と付いている街灯だけが道標。灯りを頼りに進んでいくと海沿いの大きな建物の前で歩みは止まり、彼は古びた戸を音を立てて開いた。

「おばちゃーん、来たよ」

建物の中は昔ながらの旅館のようだ。時計の音だけが聞こえる程静かな中、足音が近づいてくると、腰を曲げた女性が玄関口までやってきた。

「あらあらまあまあ、悟ちゃんたら、本当に来たのかい。あけましておめでとうねぇ」
「おめでと。丁度この辺に用事あってさ」
「そうかい。……ああ、その子が名字の子かね」
「そーそ。オレの彼女」

彼の後ろにいる私に目線を合わせ、女性は微笑む。この人は五条家の人、なのか?私の名前、知ってるみたいだし……ってもしかして私が彼女って五条家に言いふらしてたりする…?

「ど、どうも名字名前です」
「ここ、昔から五条家の別荘地見てーなモンでさ。海沿いはここしかねーから、可能性あんじゃねーかなと思ってたわけ」
「じゃあ……この方は……?」
「五条家に仕えていた者なの。もうここも古びてね、跡取りもおらんので五条家から離れる事にしたんです。でも坊ちゃんはたまに来てくれるからねぇ、嬉しいよ」

そうなんだ……。五条家にも色々事情があるだろうし、跡取りも居ないのであれば関わりはいずれ途絶える。潔く自身から身を引くというのも凄く考えたんだろうな。
以前五条家に仕えてたとはいえ、名字家の話は耳にしているようだし、偏見の目を向けられると思っていたけれど、それもない。寧ろ、手厚く接してくれようとしている。

「何が食べるかい?」
「いや、屋台で食べてきたから良いよ」
「それならお部屋でゆっくりしなさい、いつものお部屋空いてるよ」
「ありがとおばちゃん」

そう言って五条は玄関口広間から奥に続く廊下を進むので、女性に会釈して彼の後を追う。古びてはいるけれど、趣があって旅館の良い雰囲気だ。
五条が開けた扉の先には少し広めの畳部屋に、奥にある広めの窓ガラスの先にも空間が広がっていた。

「昔、旅館も営んでたんだよここ。もう年取って経営が難しくなってさー、だけど作りだけは立派だろ?」
「なるほど……どうりで立派だと思った」
「ンな事言ってたら俺ん家は城になるだろ。……そしてここにはなんと!」
「?」
「露天風呂付き〜!!ほら、一緒はいろーぜ」
「は、はあ?!?!」

な、何を急に言い出すんだコイツは!!突拍子もない事を言われても困る!

「ていうか私、泊まるなんて考えてなかったから着替えとか持ってきてないし!」
「それは大丈夫、俺が用意しておいた」
「はあ?!」

意味の分からない事を言われて再度大声を上げれば、扉がコンコンと音を立てる。五条が扉を開けるとそこには先程の女性が立っていた。

「坊ちゃん、これ五条家から今日届いた荷物だよ」
「おお、ありがと」
「あとは若い二人でね、ふふ」

そう言って戸を閉め、ギシギシと歩みが遠ざかっていく音がする。五条は荷物の入ったバックを受け取ると、開けて中身を一つ一つ出していく。

「こっちは俺のでー……これは名前の明日着て欲しい服、と下着」
「下着?!…え、待ってなんでサイズ知って……」
「あ?お前がこの前寝てたときにタグ見た。思ったよりでっけーんだな」
「へ……へんたい!ばか!あほ!」

淡い花柄のブラジャーを持って自身の胸にあてる彼に居た堪れなくなり、敷いてあった布団へ逃げて枕を彼に向けて投げるが簡単にキャッチされ、毛布を被る。
恥ずかしすぎてキャパシティオーバーですけど?!なんか私の全部を知られているようで、今まで私に対して無関心であっただろうに。好かれていると実感しても、限度があるっ……!!しかも明日の服って……なんかめちゃめちゃ高そうなワンピースなんだけど……?!
だが彼は反応が気になるようで布団を剥ぎ取ろうとしてきた。

「なー怒ってんの?」
「怒ってるっていうか…五条はちょっとは恥じらいってもんを……!」
「だってしょーがねーだろ。………俺が選んだのきた可愛い名前、見たかったんだし」
「……っ」

なんなの、もう。嬉しすぎて死んじゃいそうなほど、ドキドキしている。可愛いとか、嬉しいとか、一緒に居たいって言ってくれる気持ちを受け止めるのに精一杯なのだ。
被った布団から手だけ出して彼の手を握る。

「分かった……お風呂、一緒入ろ?」
「……マジ?」
「じ、冗談なら入らない!!」
「マジマジマジ!冗談で言うわけねーだろ!」
「じゃ、じゃあ先行ってて……は、入るから」
「絶対だぞ」

ちょっとだけ心を落ち着かせてくれ。と、先に行かせたものの、遅いとまた彼から催促が来るだろう。深呼吸し息を整えて布団から出る。小さな更衣室には彼の服が入ったカゴの下にあるからの籠に脱いだ服を入れ、その上に彼が選んでくれた下着と備えられていた浴衣置く。
髪をお団子に結んでタオルで前を隠し扉を開ければ、露天風呂に浸かって彼が待っていた。

「はーやーく」
「わ、わかったから!」

湯気に隠れながらタオルを外し五条から離れた場所からお湯に浸かると、じわじわ足先から温かさが身体を包んでいく。
そんな私をよそに彼はジワジワとこちらに移動してきたので、私も反対側へと移動すればムッと怒った顔をして頬を膨らませた。

「んだよ、逃げんな」
「むりやだ恥ずかしい!」
「ああ?!もう裸見てんだから別にいーだろ……っこの!」
「ひゃっ」

隙あらばと手を引かれて後退りした私はいつのまにか五条の身体にすっぽりと収まってしまった。湯気があるとはいえ、お湯は透明で彼の細いながらも筋肉質な腕が背後から私のお腹に手を回す。

「硝子とだって風呂入ってんだろ?なぁに、男の俺だと恥ずかしいわけ?」
「だって……今まで男の人の裸、ちゃんと見た事無いんだもん」
「ふぅん、エッチな事してんのに?」
「それとこれとは別!」
「でも俺の方見てくれねーとさみしーんだけど?」
「……っそういうの、どえすっていうんだよ」
「よく知ってんじゃん。名前も大人になったな」

よく分からないが嬉しそうに笑う彼の声にドキドキしてしまう。
これ以上は、多分私が持たない。胸元を隠すように手で覆い、思い切って振り返り彼と相対するように向くと、普段の白い肌が赤々と染まり驚いた顔をし片手で顔を横に向けてきた。

「え……のぼせてる?」
「ちげーよっ……本気で向くとは思って無かったんだっつーの」
「こっち向けって言ったのそっちじゃん」

よく分からない、が多分照れているらしい。
……可愛い。

「今日…楽しかった。初詣誘ってくれてありがとね」

ちゃんと言葉にしなきゃ、と感謝を込めて伝えるのもこちらとしても何だか恥ずかしいんだけど。
でも、微笑んでくれるその笑顔が見れるのが嬉しい。

「俺からすれば、神なんているわけねーって思ってるんだけどさ。何なら俺が神様みてーなもんじゃん?」
「自分でいうな」
「でも、お前こういうイベント事って案外好きだろ?楽しんで欲しいなーって思ったし……俺も楽しかった」

そういうの言われると、さらに胸がきゅんきゅんするからやめてほしいけど、嬉しいからやめて欲しくない。なんだこの矛盾……!
嬉しくて彼に微笑み返せば、大層嬉しそうな顔をし胸元を隠していた手を解いて繋ぎ合わせる。

「ちょ、」
「だからさ、ヒメハジメしよっか」
「……ヒメハジメ、ってなに?」

なんかその言葉……前にも聞いたような?何処で聞いたか忘れたけれど、何だか嫌な予感がする。
ゆっくり湯の中で気づかれないように後退りし、握られた手を解きたいが、タイミングが分からない。
苦笑いで彼から一歩また一歩、と下がった瞬間、勢いよく手を引かれたので、負けじと踏ん張ったが繋がれていない手で腰まで引っ張られ再度くっつくように抱きしめ、腰に手を回された。
や、やばいやばい。
体育座りした私の脚に、どう考えても足を広げて私を包み込んだ彼の固いアレが接触している。耳元で聞こえる吐息に、思わず彼の素肌にしがみついた。

「ヒメハジメっつうのは新年明けて最初に釜で炊いた米食べる事、なんだけどさ」
「っ……でも私、今日朝ご飯……、ひゃ?!」

背中を上から下へなぞる指に吐息が漏れる。絶対揶揄われてる……これ以上聞いたらいけない。

「その年の最初にエッチする事も、ヒメハジメっつうんだよ」
「ま、待って五条っぅ、……んっ、」

美しい瞳と繋がると、そのまま塞がれた唇の隙間からねっとり舌が入って口内に触れ、舌が絡まる。入れろと言わんばかりに体育座りしていた足を軽く浮かせて開らかせられて固い胸板と共にお腹に固いものが触れる。

「昼に、お預け食らってんのに、っ、待つわけねーだろ、っ」
「ふぁ、……!っ、」
「っ、あ〜……やば、胸の感触最高だわ……」
「五条……まって、のぼせる、」
「まじ?んじゃあ一旦出よーぜ、後で風呂場でシよ」
「やるかあ!あほ!!」
「んでもお前もエッチ好きだろ?」
「っな……!」

嫌いではないし……むしろ好きだ。
でもこうも明け透けと聞かれると、肯定出来ない。いや明け透けと聞かれなくてもエッチが好きだとは恥ずかしくて結局言えないでしょ!!

「だめ?」

なのにこうやって聞いてくる彼はとんでもなくドSだ。逐一聞いてくるのはとても嬉しいんだけど、これに関しては同意する側も恥ずかしい。

「……い、一回だけだよ?」
「わーってるって」

五条は鼻歌混じりで私を抱えて風呂場から出ると、脱衣所に下ろされタオルで巻かれた私に再度キスをする。

「今夜は寝かせねーから」
「だから一回だけだってば!!」

かっこいいセリフも笑いあって、でもそれくらいがちょうど良いんだ。