ホークスと幼馴染2


罠に嵌められた気分だ、何故こうなってしまった。
先日突然ホークスに飲みに誘われ酔い潰れた私を、彼は家まで送り届けてくれた。何ともヒーローらしい行動にとても感謝していた…のだが、あれよあれよと押し倒され、その前には記憶は無いがちゅーしていたらしい。
そして私と彼が付き合っているという誤解を事務所の人達…いや全国のホークスファンに与えてしまった、このホークスが。決して私のせいではない…と主張しておきたい。

事務所の人達だけでも誤解を解こうと思えば解けるのかもしれない。しかし違うとなれば何故キスしているのだ?無理矢理なのか?それならホークスに非があるのでは無いのか?
そうだ、その通りです彼に非があります!!
……と言いたいけれど、彼は今や人気ヒーロー。老若男女から好かれるヒーローが無理矢理強姦まがいな事をしたとなれば、問題だと騒がれるだろう。いや、今だってお昼のワイドショーで騒がれてはいるんだけれど。今回の報道に関してメディアにはホークスが「温かく見守って頂けると幸いです」とコメントをしたらしく、それはもう交際報道を肯定してるわけ!事務所を通せ、私を通してコメントしろ!

……まあ今回のことは、私とホークスの子供の頃からの関係だから起きたことだろうし、疲れていて正常な判断が出来なかったのだと、何かの気の迷いだと思いたい。それに彼には今まで通りヒーローらしく、平和のために活躍してほしいと思っている。
そう思うと私は本音を言う事も出来やしない……四方八方塞がりな状況だ。
この状況を私はどう対応しろっていうんだバカホークス……!!





「いつから付き合ってたんだよぉ〜」
「……ホークスに聞いてください」

事務所に居ると暇さえあれば彼のサイドキック達から質問攻めに合う。付き合っていないので回答しようが無いし、面倒事は極力避けたいので自ら発言はしないようにしている。
しかし彼らの妄想は止まらない。

「まさか昔っから……!?」
「そういえば名前さんって事務所立ち上げ当初から居ますよね?」
「幼馴染って噂を聞いた事あったけど……」

確かにホークスと再会し、その後すぐにこの事務所に就職しキャリアとしては年長な方ではある。
元々、ヒーローの近くで仕事をするのが夢だった。けれど無個性で何の役に立つ事も出来ず、雑用でも何でもやりますと履歴書を送ったけれど面接出来たとしても事務所から採用は一通も無し。卒業したらニートか……あるいは何の関係もない仕事に就くしかないのかと諦めかけていたそんな時、ホークスに再会し雇ってもらう事になった。
年長だからといって別に仕事がすごく出来るわけでもなく、平等に他の事務員達と関係なく仕事をしている。
……そういえば何故あの時ホークスは私に会いにきたんだろう。高校も何故か知っていたし、所々疑問なところはある。
私の事ずっと探していたんだろうか?もしかしてあの時から……そう思うと、顔がどんどん熱くなっていく。好きだと言われたあの記憶も未だに鮮明に覚えていて、あの日から頭の中はホークスの事だらけだ。
……もう、何でこんな事になったんだ…!
近くで質問攻めしてきたサイドキック達は私の顔を見て「え何なに?ホークスと何かありました?!」と聞いてくるので「そ、そんな事を聞く暇があったら外回りしてきてください!!」と顔を伏せ、彼らの背中を押した。


・:*+*:・




あの一件があって昼から夜間の勤務にしたけれど大抵の人は夕方に帰るのでその後から仕事を急ピッチで終わらせる。ホークスの件を話しかけられる事も無いし遅番申請して良かったな。
隣に座ってる四日前から新しく入った後輩ちゃんも仕事に一区切りついたのか、帰り支度を始めた。

「ホークスさん、帰ってこないですね〜三日目ですか?」
「そうね。都内でデカい案件捕まえてるんじゃない?事務処理する側からすると事後報告やめてほしいから連絡の一本くらい欲しいんだけどね」
「え、彼女なのに連絡きてないんですか?」
「…………まぁ」
「恋人なら連絡してねって甘えてみても良いと思いますよ?じゃあ私、お先失礼します〜」
「お疲れ様、気をつけてね」

何なの…恋愛上級者のような発言を後輩からされるし、皆んな私がホークスの事気になってるみたいな言い方をするし。
……そ、そんなわけないじゃん。

しかし今日も事務所に最後一人残る中、こういう時間の方が集中して出来るはずなのにやっぱりホークスの事がチラついて中々集中出来ない。
あれから一週間が経とうとしているが、ホークスは事務所にやってきたかと思えばすぐに外回りに行くし、ここ数日はまた関東の方へと出張中。
彼の気持ちが本気だとしたら、気持ちをそのままにしておくのもどうなんだって自分自身思うんだけど、中々納得する答えが見つからない。
学生の頃は好きな人も居たし、恋人も出来た。あの青春の日々は少しの煌めきも多いにドキドキして、少し優しくしてもらうだけで胸はキュンとときめいて。好きだなって思った人と仲良くなって告白され、付き合ったそんな学生時代が終わってから恋人は出来ていない。
ホークスは女性から大人気だし、かっこいいっちゃカッコいいし…リードするのも上手くて優しい。
……なんだけど、なんだかキュンっていうか…あれは学生の特権というか……あの頃とは彼に対する感覚が違うんだよなあ。ホークスとは一緒に居て楽しいし安心するし…これは恋なんだろうか。
世の中の人達はこういう時、どうしているんだろう。

引き出しにしまってたスマホを取り出して[告白された 好きか分からない]と検索したみた。
なになに……えっと、分からない場合の対処法としては二つ。
まず一つ目は返事を保留してよく考える……一週間考えたけど結局分からない。で次が……とりあえず付き合ってみる……え、とりあえずで恋人って作っていいものなの?

「そうそう、とりあえず付き合ってみれば?」
「えっ……っうわ?!?」
「そんな驚かんでもよかろーもん」
「そりゃ足音しなかったらびっくりするやろ!!」
「ちゃんとただいまって言ったっちゃけど聞こえんかった?」
「……聞こえんかった」
「はは、そんなに真剣に考えてくれとったったい」

久しぶりに会った彼はラフな格好で事務所にやってきた。……てっきり仕事帰りによったと思ったのに。

「…何処行ってたの?」
「彼女みたいな事聞くね、付き合う気なった?」
「任務だったら行動記録があるし接待なら経理処理しなきゃいけないから聞いてるの!」
「相変わらずのワーカーホリックやねぇ。…今回は視察と警察との接待、全部アッチ持ちだから大丈夫だよ」
「そう……お疲れ様。でも行くなら前も言ったけど事前報告してよね」
「そりゃあ名前が彼女になってくれるなら何でも言うよ」
「なっ……本当に本気なの?」
「信じてくれんと?」
「…だって、」

そんな突然に告白されたらドッキリだと思うじゃん。しかし、嘘ではないらしいし疲れているわけでも無く、正常な判断のようだ。
心の何処かで「ウソだよ本気にした?」とか、ホークスらしくない嘘を言わないかなと思っていたけれど、やっぱり無かった。
そしてその事が私はどうやら嬉しいようで、彼のにかっと大きな口で笑って「嘘なんかつかんよ」と言う姿に少しドキドキしながらも安心している。
いつの間にか離れたのに、いつの間にかまた側にいる彼の存在は、隣にいて当然だと何処かで思っていた。もし付き合わないとなれば、ホークスは私の側からいなくなってしまうのかな…その時、私はどう思うんだろう。想像すると、自分の中にモヤモヤした感情がある事にも気づいた。
自分の中で変わる変化に驚きつつも、ホークスはさらに話を進める。

「俺は名前しか考えられんけんさ、名前も付き合いながら俺のこと少しずつ知って好きになってよ」
「もう何年一緒にいると思ってんのよ、少しずつも何も知ってるって…。でも、もし好きにならなかったら、どうすんの」
「意識させるって言ったやん」
「分かんないよ、今までホークスのことそんな風にみた事無かったもん……」
「まあ確かに、名前ってエンデヴァーさんみたいなタイプが好きだよね」
「……そう?」
「少し近寄り難そうな堅いの良い熱い男に目が行きがち」

……全然気づかなかった。というか、そういう私の目線の先まで気にしている事にも驚きだ。

「別に、エンデヴァーさんは恋愛的に好きっていうより尊敬の好き……かな」
「助けてもらったから?」
「うん、そうだね。…カッコよかった」

昔、私は誘拐された事がある。
ホークスが突然居なくなって近所だとは知っていたけど、でも彼の家なんか知らなくて毎日暇な時間があれば一緒に遊んでた公園で待っていた。
そんな時、知らないおじさんから「きみ一人?」と声をかけられて「啓悟のこと待ってるの」と答えると「会いに行こうか」と手を取られたのだ。
幼かった私は、この人が啓悟のパパなんだと、この人に着いていけば彼に会えると思い着いて行った。しかし着いて行った先は知らない家。啓悟の姿は無く、ぎゅっと知らないおじさんから抱きしめられ、気づけば監禁されていた。
恐怖だった…長い長い一生が終わるほどに感じたあの地獄の三日間は突然、明るい炎によって助けられたのだ。
それは、ホークスが持ってたぬいぐるみのモデルだったエンデヴァー。それから私もエンデヴァーさんのファンで彼の事務所への就職を目指した…ま、ダメだったんだけど。

誘拐されたなんて報道もされてなかったはずなのに、成長し、ホークスと再会した時に彼はその事件を何故か知っていて、この話をするといつも悲しそうな顔をする。

「俺が居ったら、あんな事にならずに防げたのに…」
「でもヒーローに興味を持ったのもエンデヴァーさんのおかげだし、こうやってホークスに再会出来たのも嬉しいし……あの時は怖かったけど、あれがあるから今があると思ってるよ」

そう悲観しないでほしい。私も子供で何がダメなのかも分からなかったし、啓悟に会えるって信じてしまった。
…そう思うと私も結構彼の事を気にしてるんだな。

「……もう怖い思いさせんしずっと側におるけん」
「大丈夫やって、もう大人やし」
「名前って結構抜けとる所あるやん」
「しゃあしぃ!」
「そういう所も可愛いって言いよると」

そう言葉にした彼の手は私の左手をすっぽりと覆う。大きな手のひらは、徐々に優しく私の指と指の間から絡め、彼を見れば熱い眼差しが私を見てくるので目線を逸らすと、もう片方の右手も指を絡める。

…だめ、これ以上は。
今まで何とも無かったのに、突然耳の辺りが熱くなってきて、ドキドキしてきた。
流されそう、なのか。はたまた期待してる自分がいるのか、分からない。

「ダメ?」
「……ここじゃ、いや」
「ここじゃ無ければいいと?」
「そっ……それは!」

フッと笑ったホークスは絡めた指を解いて椅子から立ち上がると、机の横に置いてあった私の小さなカバンを持つ。

「名前が行きたい所、連れてっちゃるけん」
「どういうこと?」
「夜間飛行しよ、何処でもよかばい」
「いっ……いい!歩いて帰る」
「家がいいと?ちなみに歩いて帰るのは事務所前にマスコミが待ち構えてるからナシね」

ほら、パソコン切って、戸締りして帰るよ。と話をどんどん進めるホークスは羽を自在に操りながら戸締りをしていく。あれよあれよと彼の意のままに進まされ、会社を出て外の非常階段まで出ると腰を抱きしめられてそのまま宙へ浮き、思わず彼の身体に手を回してぎゅっとしがみついた。

「お、お熱い抱擁ありがと」
「ゆっくり!ゆっくりね?!落としたら呪う!」
「落とすわけないやん」
「昔ジャングルジムから落としたの忘れとらんけんね……!!」
「うわ懐かし!…大丈夫、あの頃とは違うよ」

確かに彼の飛行はあの頃とは全然違くて、安心できる程の力がある。
しがみながらもチラチラと見える夜の街はキラキラしていて、今まで見たどの夜景よりも綺麗でドキドキして、胸が高鳴った。




*:・+・:*




「どうするコンビニ寄る?」
「いいよ冷蔵庫にあるし、それに外出たらまた撮られちゃうかもやし」
「そ?別に俺はよかよ」
「私がよくない!」

さっきマスコミ云々言ってたのはそっちじゃん。
大空を羽ばたいていた羽を休めアパートの階段に着き、鍵を開けて部屋へと入る。ホークスがこの部屋に来た事はこの前の一回だけでは無く、過去に何度もある。昔からの友達という感情しか無くて、それにホークスも今まで私に手を出す事は無かった。それなのにまさか告白され手を出される一歩手前まで発展するなんて。
誰だホークスをこんな風にしたのは!
………………私か。
私が女に対しての態度を改めろなんて余計な事を言わなければ、こんな事になってはいなかっただろう。

冷蔵庫から缶ビールを2本だして彼に一本渡しソファに腰掛け、日々の疲れを取るようにビールを飲む。疲れに沁みる感覚を味わっていると、隣にピタッとくっつきながら座るホークスは私の肩に手を回す。

「んで?決まった?」
「…そんな急かさなくても良いじゃん」
「悪いけど、欲しいと思ったらどうにも我慢できない性分なんでね」
「……正直、分かんない。でも、ホークスが隣にいるってのが当たり前になってるし。でも…離れるって考えると、嫌」

子供の頃、突然居なくなった啓悟に対して迷子になったような感情を抱いている自分が居た。ぽっかり空いた、こころの穴はずっと空いたままで何か物足りなく、ふと彼の事を思い出しては、SNSを使って名前を検索していた。
名前も下の名前しか知らないし当然見つかる事は無くて、今何処で何をしているんだろうと考えたり、今思えば心の何処かでずっと彼を探していた。
彼に会ってからその物足りなさは消えて、一つだけ思った事がある。
幼少期のあの短い期間の、あの時間は、私にとって生きてきた人生の中で一番大切な時間なんだろう、と。
けれど、これが恋なんだろうかと考えると、上手く頷けなかった。

しかしそんな気持ちが少しずつ彼に会う度、変わるのが嫌だと思っていた心が、変わっていっているのを、もう否定出来ない。
ホークスの言動を辞めさせないのも、彼をまたこの家に招き入れたのも、このまま付き合っても、キスされても良いって、なんだかいけないようなドキドキが私を変化していく。もうこの変化していく感情を、私は止める事が出来ない。

「俺も離れるの嫌だよ。だから会いに来たんだ、何も言わずに居なくなってごめんね」
「本当だよ…次居なくなったら、ぶっ叩くから。だから…付き合ってあげる」
「そんな顔赤くして言われても、可愛いとしか思えんよ」


ちゅっ、と額にキスをされてニヤッと笑う彼は笑って「どんどん赤くなるやん」と楽しそうな顔をしてもう一度私の額にキスをする。

「…酔っ払い相手に同意もなく勝手にキスしないで」
「言っとくけど、飲みの帰りに名前が帰りたくないってわがまま言い出してキスしよって言ってきたんだから、俺は乗っただけだよ」
「う……うそつけ!」
「てか、そんなんどうでもいいから、キスしていい?」
「た、タンマ」
「待てない、好き」
「〜……!!」

彼の胸元のシャツを掴めば、そのまま唇へとキスをしてそのままソファへ押し倒された。
絆されたのか、それとも本能なのか。
彼の罠から抜け出せない程に、私も心の何処かで溺れる程に求めていたようだ。


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