ねむらない夜


大人五条×補助監督夢主


 「ねむれない」

 蒸し蒸しのした日が続く真夏。年々気温が上昇し続ける夏の熱帯夜を耐えるには冷房が必要不可欠だ。冷房のおかげで部屋は涼しいけど、日中の外の暑さと室内の涼しさに身体が適応出来なくて頭は覚醒していた。
 暗闇の寝室でスマホの灯りを最小限に抑えつつ、ぽちぽちスマホを触っていたが流石に見飽きた。独り言を呟いただけなのに、隣で背を向けて眠っていたはずの彼はもぞもぞと動いて私の方に体を向ける。

「そりゃスマホばっか使ってたら眠れないでしょ」
「だって眠れないんだもん……いつか眠くなって寝落ちするはず」
「そんな事しても余計に眠れなくなるだけだよ、はいスマホ置いて」
「はぁい」

 寝起きの低い声で子供をあやすように私のスマホをベットサイドに置く。早く寝なさいと言われているようで彼と一緒に仰向けになり、目を瞑った。
 ショートスリーパーな彼こそ寝れない体質なのに、珍しく今日は帰ってくるなりお風呂入って出てくるやいなや、寝室へ連行されて横になった。相当疲れてる彼と比べ、今日はずっと高専の事務室で簡単作業の繰り返しだった私はそれほど疲れていない。
 天井を見上げて目を瞑っても、なんだかムズムズしてしまい、やはり眠気が訪れる気配は無し。
 状況を察した彼は再度こちらに身体を向けて横向きになり、手のひらを私のお腹に添えた。

「こっち向いて一緒に寝よ」
「無理。私、人の息遣いが気になって眠れないタイプなの」
「何そのめんどくさいクセ。僕そんな息荒い?」
「荒くは無いけど……気にしちゃうんだよね」

 ゔ。ここで昔の男が鼻息荒くてそれから気になり始めた、とか言ったら凄く怒るだろうな。
 確かに悟くんの寝息はとても静かで、死んだように眠るからたまに不安になってしまうけど、私の方が先に寝て、私より起きるのが早いから彼の眠っている所は中々お目にかかれないのだ。

「あ…もしかして私のせいで起こした?ごめん、せっかく寝てたのに」
「いや?自然と起きただけだよ、すんごいスッキリしてる」
「まだ寝て三時間も経ってないよ?」
「大体いつもそんな感じだし。だけどオマエが寝てるの見ると僕までぐっすり眠っちゃうんだよねぇ」

 だから、一緒に寝ようよ。と目を細める彼の可愛いおねだりに心が折れてしまう。

「じゃあ……いつもみたいに後ろからハグして?」
「もちろん」

 眠る時は後から帰ってきた悟くんが後ろからぎゅっと抱きしめてくれる。優しい包容力のおかげでいつもならこれで眠りのスイッチが入るんだけど、でも今日は違う。体力は満ち溢れているし、ブルーライトで目は覚醒。
 明日は朝から会議なのに、寝不足のまま臨みたくはない……そんな明日の事で頭の中が不安でいっぱいになり、足をモゾモゾさせた私のお腹を優しく筋肉質な腕が包み込む。トントン、と覚醒した頭を落ち着かせるリズムで徐々に眠りの世界へ誘われていく。あ、なんだか少しぼーっとしてきたかも……。

「眠れそう?」
「うん……悟くんの声聞くと落ち着く」

 彼が眠る時にいつも耳元で囁くようにおやすみ、と声をかけてくれる。毎回ほぼ眠っている状態だけど、その声が心地よくてぐっすり眠れるし眠るお薬みたいだ。

「じゃあ数え歌でも聞かせてあげるよ」

 このまま眠れないまま朝を迎えるんじゃって不安でいっぱいだった頭は、悟くんの声で消え去っていく。
 数え歌だなんてこれは夢の中まっしぐら。これなら眠れる、と彼の声に耳を澄ませて目を閉じた。

「悟くんが一人、悟くんが二人、悟くんが三人」
 
 悟くんが一人……

 ――名前、大好きだよ。今日はずっとイチャイチャしようね……っと、ちょっと待ってね……はあ?今から任務?おい伊地知、空気読めよ。

 悟くんが二人……

 ――ねー名前ー、僕お腹すいちゃった。なんか甘いもの食べたいね。あ、あそこのスイーツ屋寄っていこうよ。え、大事な会議?学長との待ち合わせに間に合わない?だぁいじょうぶ、少し遅れても問題ないって!

 悟くんが三人……

 ――名前なら分かるよね、僕、上の連中に任務入れられすぎて、ピーク超えちゃってんの。よし、今からボコボコしに行こうか。
 
「ちょ……ちょちょちょっと待って、ストップ」

 頭の中の悟くんが、どんどん増えていっては自由気ままに私を道連れに暴れ出す。悟くん一人でも扱いが大変なのに、複数人なんて身体が裂けてしまう。ていうかなんで羊じゃなくて悟くんなの。

「え、何?どうしたの」
「えっと、数を数えるの大変だろうし……普通の喋りで大丈夫だよ」
「そう?百人数えてもいいのに」
「悟くんが百人いたら私潰れちゃうよ!」
「大丈夫、百人で奉仕するよ」

 私を思ってくれている事に対して、愛されているなぁって嬉しい気持ちでいっぱいだけど、もしそんな状況になってしまったら混乱で失神してしまうかもしれない。眠れないから数え歌は丁度良いのかもしれないけど……出来れば安眠を求めたい。ここはどうにか穏便に諦めてくれるように話を逸らさないと。

「か、数え歌っていうより、語り言葉の方が眠りやすいかなーー?」
「語り言葉……僕の独り言でいいの?」
「う、うん!悟くんの声で落ち着くし」
「じゃあ怖い話でもしようかな」
「ええ〜?そんなの眠れなくなるかもぉ」
「だぁめ。僕がそばにいるからちゃんと眠って。ね?」

 甘えた感じの方が意地悪な悟くんだからこそ諦めてくれるかなと思ってちょっとぶりっこしてみたけれど、よし……なんとか悟くん千人大集合は免れた。
 ちなみに怖い話は苦手じゃない。こっちだって補助監督という仕事でも呪霊と敵対する時は何度もある。話だけなら全然大丈夫、これで私の安眠がゲットできる。悟くんには申し訳ないけど、寝させてもらおう。

「これは丁度今日の任務が終わった後の話なんだけどね。今日僕はすんごく疲れてたんだ、何せ連勤だったからね。名前と会うのも一週間ぶりじゃん?そんでその前はキミが生理だったからつまり二週間もエッチしてないわけ。でもこんな状況でヤっちゃったら絶対やり過ぎちゃうからさ、とっても優しい僕はキミが眠った後に一人でヌこうと思ってたんだよ。なのに眠れない眠れないって我儘言うお前に一つ提案があるんだ」

 私を抱きしめていた手が体のラインを確かめるように動き始める。お腹のところから服を捲って肌にゴツゴツした手が入ってきて、思わず身体が反応した。

「僕と一緒に運動すれば眠れると思うよ」
「っ、待って、明日会議で、!」
「それは僕もいっしょ!」

 一生懸命に思いつく言い訳を作り出すが、耳元で囁く彼の声はどこか楽しそうでボトムに手を入れようとする彼の腕を掴む。

「で、でも私悟くんと違って体力ないし……」
「大丈夫大丈夫、トんだ方が眠れるでしょ?」

そういう事を申しているわけじゃない。まさかまさかの本気のホラー話じゃないか。
 別に悟くんとエッチするのが嫌なわけじゃない。でも彼の手に入ってしまうとどろどろに解かされてしまうのだ。気を失う事は多々あるし、それだけ彼の体力は有り余っている。そんな状況で明日の仕事なんて出来るわけがない。どうにか止められないか言い訳を探すしかない。

「ねえ悟くん、今週末休みだから、その日じゃだめかな……その日にいっぱいしよ?」
「素敵なお誘いだけど、今日は他の男の事思い出さないくらい僕でいっぱいにしてあげたいんだよね」
「き、気づいてたの……?!」
「気づいてないわけねーだろ」

 私に馬乗りになる彼に冷や汗が出てくる。ニコニコしている顔が更に怪しさをましている。

「もしかして……怒ってる?」
「ぜーんぜん!でも僕もキミの我儘に付き合ったんだから、僕の我儘にも付き合ってよね。大丈夫、朝は起こしてあげるから」

 私を見つめる青い瞳はキラキラしていて星空が降って一瞬で虜になってしまう。触れる唇の隙間から絡み合う舌に、さらに睡魔は何処かへ消えてしまった。甘々な彼に甘えて我儘を言ってしまった私は、やっぱり眠れない夜を過ごすことになってしまうようだ。
だとしても、明日寝不足だったら悟くんのせいなんだからね!
 
 

 
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