今度こそは貴方を幸せに。



「悟が飲みに誘うなんて珍しいね。どうした、いつもは名前に会う為に店舗に来てたじゃないか」
「別に…店舗に来てたのは名前だけの為じゃねーよ」

わいわいと盛り上がる声が周りから聞こえてくる居酒屋のとある個室に、五条と夏油は向かい合って座っていた。暖簾が開き、頼んでいたビールとメロンジュースそして前菜と串焼きがテーブルに並べられて、飲みの合図のようにグラスを打ち合って鳴らす、

「私の視察もかねて、かな?もしかしてその事を言う為に今日誘ったのかい?大丈夫だよ、もう過去と同じ事をしようとは思っていないさ」
「…何かあったら、ちゃんと言えよ」
「分かってるよ。…それに、ちゃんと言わなきゃならないのは悟だって同じだろう?」

鋭く、人の思考を読むように夏油は五条の目を見て言った。他人に聞かれてはならない事を言う為に、こんな個室を選んだはずだ。しかしもっと他に言いたい事があるような顔をしている。
問いかければ当たりと言わんばかりに目を見開いては感傷に浸る顔をして、先程届いた前菜に目を向けた。

「名前が、俺の事好きって、告白してきた」
「そうかい。おめでとう」
「あ?!もっと驚くとかねーのかよ」
「名前が悟の事を思っているのは、彼女本人から聞かなくても分かるさ。君達は運命だしね」
「運命って、」
「私が悟と再び出会った事も、運命だろう?」

納得したいがそれを受け入れることが出来ないような何とも悟った顔を向ける。
…誰が信じるだろうか。私達には過去の記憶があって、しかも生死を分ける闘いをしていたなんて。五条と夏油は出会ったときに記憶が蘇り、過去を取り戻すかのように一緒に行動していたのだが、名前と出会った時、運命を感じなかったかと言えば噓になる。しかし彼女は昔の記憶はさっぱり消えていた。

「…アイツが死んだのは俺のせいだ。運命なら、また名前が俺の近くに居ると不幸になる」
「名前は死なないよ」
「だからって、心配でずっと上に行くの拒んでたのは傑だって同じだろ」
「…でも、その心配も無くなったのは本当だ。もうあんな事は起きない」
「そんな確証無いだろ。…今世こそは名前には幸せになって欲しいんだ。…だから、断った」
「悟らしく無いね」

君なら、出来ない事はないと自信満々に言う人間だろう?
五条悟は前世も今世も最強には変わりなかった。しかし、その最強が守れなかった事に変わりはない。
企みのあるような笑顔をする夏油の一方、五条は苦悶の表情を浮かべていた。

「俺は、傑の事も救えなかった。…だから、後悔したくない」
「そばに居ても救ってあげる事は出来る。今も昔も、名前は悟の側に居たいと思ってる…素敵な運命を捨てるのは勿体ないよ。後悔しないようにそばで幸せにしてあげればいい」
「…そうだな」

悲しそうな顔をしていた五条は、何かを掴んだように気概を示すように拳を握り締めた。
今度こそは、幸せにしてみせる。
…だから、待ってて。
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