好きだと言われた。告白された事なんて人生初めてだし、正直自分のどこを場地さんは好きになったのか分からない。それでも、嫌じゃなかったし、嬉しかった気持ちの方が大きかったけど、これからどう接した方がいいのか分からなかった。
だって色恋が分からない私でも少女漫画で得た知識で理解出来る。好き同士の延長戦にはカップル――所謂恋人という関係になる事を。でも場地さんの事を好きなのか、恋人という関係になりたいのかなんて意識して考えた事もなかったわけで。…もし恋人になるのかもしれないと思ったら、どうしたらいいか分からないし、気まずい気持ちが湧き出てきた。明日からどう接しよう…。
でもそんな心配は無用だった。
あの日から、場地さんはうちに来ていない。お兄ちゃんとは以前と仲良しのようで、一緒に学校に行く姿を遠目から見た事があったし、家で電話してるのを聞こえたりしていた。
でも、お兄ちゃんが私に場地さんの事を話す機会も少なくなったし、もしかすると場地さんは私を避けていて、それをお兄ちゃんも理解してるんだろうと察した。
今思い返せば、盗み聞きしてしまった時にお兄ちゃんが言ってた私が馬鹿ってのは、鈍感って言いたかったんだろう。知らないよ!恋愛なんて無縁な生き方してきたし、小学生で恋なんて難しいよ…。
でも……避けてるって事は、やっぱり私の事好きじゃなかったんだろうか。いや、私が答えを出さないまま、あやふやにしているからだからだろうか。場地さんに出会ってからどんどん私の頭の中を彼が占領していくのに、どうしたらいいか分からない。私は、場地さんの事、どう思ってるんだろう。
▽▲
「うん、エマちゃんごめんなさい……ファミレスね、分かった」
場地さんの事についてお兄ちゃんに相談はし辛いし、エマちゃんに聞いてもらう事にした。私のために時間を割いてしまって申し訳ないんだけど、頼れるのはエマちゃんしか居ない。
待ち合わせのファミレスに向かおうとする足はどんどん駆け足になっていく。一刻も早く解決しないと、なんだか場地さんが遠くに行っちゃう気がした。そんなの、やだ。
もやもやする気持ちを抱えながら夢中で走ると、曲がり角の所で人にぶつかってしまった。
……やば。いつもなら安全確認して歩くのに、全然見てなかった。
「ごめんなさい」とぶつかった人の方を見れば、一目で分かるような不良が二人。変な髪型で、ダルダルな服装をしている不良は、ダルそうにしながら一人はぶつかった肩を手で抑えている。
急がなきゃいけないのに、めちゃくちゃ面倒な事になっちゃったな…。
「痛ぇなぁ」
「あ、あのごめんなさい……」
「あーこりゃあ医者に見せねーと治んねぇかもなぁ〜」
「すみません……」
「すみませんで謝るんなら医者はいらねーんだよぉ」
「ハッ昨日東卍の場地にやられて災難だってぇのに災難だなぁお前」
「え……場地さんに?」
面倒なクレームをつけられて対処に困っていたのに、相手から出た場地さんの名前に思わず戸惑った。
昨日、喧嘩してたんだ……。
全然会っていないから彼が今どんな状態なのか分からないし、もしかしたらまた怪我をしているのかもと思ったらモヤモヤが溢れ出てくる。いつもの心配症の癖が出ていっぱいになってると、私の肩を、肩を押さえていた不良が急に強い力で握ってきた。
「いっ……!」
「お前、場地圭介と知り合いかー?」
「え……あ……いや」
「場地の知り合いならコイツ人質にして呼び出してボコボコに返り討ちにしよーぜ」
「そんな……」
反応してしまった事が仇になった。違うと言ってしまえば良かったのに怖気付いて言葉が上手く出てこない。どうしたらいいんだろうと迷ってる最中に話はどんどん進んでいく。人質なんて……そんな場地さんに迷惑かかる事したくないのに……。
もう一人の不良が私の手首を強く握って引っ張る。怖いし不安でいっぱいで涙が出そうになるけど、連れて行かれないようにその場に踏ん張る……がしかし男女の力の差は歴然で、力はどんどん抜けていった。……最悪。
「あれ、名前ちゃん?」
我慢してた涙が一粒、瞳からでて滴り落ちた時、聞いたことのある声が聞こえた。助けを求めるようにその声の方を見ると、前に場地さんが紹介してくれた小さなリーダーがそこにいた。
「マイキーさん……」
「……何してんのお前ら、泣いてんじゃん」
「マイキー……まさか東卍のトップに会えるたぁ……昨日の仕打ち返してやる!」
私を掴んでいた手を離した不良二人は、マイキーさんに向かって勢いよく拳を上げた。怖くて両手で顔を覆うと、バキバキっという打撃音と苦しそうな声が聞こえる。え、え、え?
怖くて前を見ることができない。でもどうなったのか気になっていると、今度は優しく肩をポンっと触られた。
「大丈夫?」
マイキーさんの声が聞こえて覆っていた両手を外すと、ちょっと不安そうな顔をするマイキーさんが私の顔を覗いている。
マイキーさん怪我、してない。不安だった気持ちは何処かへ消えてほっと息を吐いた。
「大丈夫です……あの、助けてくれてありがとうございます」
「別にいーよ。エマと約束してんだろ?ファミレスまで送るよ」
ニッコリ笑ったマイキーさんの後ろで延びている不良の姿がチラチラ目に入ったが、何事も気にせず目的地の方へ歩くマイキーさんについていく事にした。
▽
「えっ本当に?!」
予定してた時間より遅れてファミレスに着き、兄であるマイキーさんと現れた私に対して驚いていたエマちゃんに、一通りの事情を話せばとても心配そうに話しかけてきてくれた。
強く握られたりはしたけれど、別に打撲にもなってないし……本当マイキーさんには感謝しかない。
「良かった、無事で」
「うん、本当マイキーさんのおかげです……」
「タイミングよくて良かった。また場地がどっかで喧嘩吹っかけられたから買ってたんだろな」
「すみません。咄嗟に場地さんの名前を聞いて反応しちゃって……」
「名前ちゃんは悪くないよ。喧嘩は正々堂々するもんだし、人質取るなんて不良のやる事じゃねぇ」
……物凄いかっこいい事をマイキーさんは言ってるけど、彼の目の前に置かれたお子様ランチを目の前にすると、なんとも複雑な気持ちになる。すごく強いのにお子様ランチって、ギャップがありすぎでしょ。
「それで、場地についてエマに相談しに来たんだ?」
「はい……ちょっと色々あって」
「ふうん」
軽い返事で流されたけど、これって居座られる感じでは?でも同じ仲間である人に知られたりしたら、場地さん嫌だよなあ。どうしようと迷って言葉を濁せばエマちゃんがコラっとマイキーさんの頭を軽く叩く。
「ごめん名前、実はマイキーも場地が名前ちゃんの事好きなの知ってるし、別に言いふらしたりしないから安心して」
「ウン」
「ええっ、なんで知ってるんですか?!」
「初めて会った時に言ったじゃん、可愛いって言ってたって。アイツ何考えてんのか分かんないけどさ、名前ちゃんと出会った後から変に可笑しかったんだよ。で、問い詰めたら、一目惚れしたって」
「ヒトメボレ……」
「なんかお米みたいだね」
お子様ランチのオムライスを食べながらいうマイキーさんだけど、言葉の意味を理解したいが、一目惚れなんて自分に似合ってなさすぎて本当にお米の名前みたいに思える。
でも、場地さんの気持ちは中途半端な気持ちではない事くらい分かるわけで、ろくに恋という恋をした事もないし、少女漫画を読んでも何だか他人の気持ちだという解釈をしてしまって理解が出来なかった。
「私……場地さんの事、好きか嫌いかって言われたら好きだけど……分かんない」
「ねぇ、場地のかけた魔法の正体分かった?」
そういえば、動物園に行く時に魔法が何なのか聞かれたけど、まだ答えが出ていない。食べられてみれば分かるってのは、実は私に対して好意を持って欲しいと伝えるため……だった様だし、告白されても結局正体は分からない。
「場地の近くに居たらドキドキするんだよね?じゃあマイキーの近くに居ても同じようにドキドキする?」
「……しない」
「場地とデートして楽しかった?その後会えなくてどう思った?」
「楽しかったし……寂しかったし、もやもやする」
「そんな感情今まで他の人に持った事ある?……もう答え、出てるんじゃないかな」
四六時中頭の中で溢れる場地さんへの気持ち。……もしかして、これが、そうなのかな。
「エマちゃん、マイキーさん……ありがとうございます。私、場地さんに会ってきます」
母親からお小遣いでもらった千円を置いて立ち上がる。一刻も早く、会って伝えたい。私が、馬鹿でちゃんと気持ちを伝えなかったから場地さんを傷つけてしまった。どうしようも出来ないけど、もう傷つけたりしないから。
「会いに行くってどこに居るか知ってんの?」
「……分かんない、です」
「マイキー電話して確認したげなよ」
エマちゃんの言葉にふふんと笑みをこぼしたマイキーさんはポケットから携帯を取り出して慣れた手つきで電話をかける。
プルル、と数コール音が聞こえると、かすかにこちらにも声が聞こえてきた。
「場地?今何処いんの?……うん、分かった。そこ離れんなよ。……いーから」
一方的に話を進めて、納得のいかない声が聞こえた気がするが、マイキーさんは電話を切ってお子様ランチを口の中にかき込んだ。
「よし。家近いし、バイクで送るよ」
「マイキーありがと!」
「ありがとうございます……!」
△
マイキーさんが運転するバイクの後ろに乗って着いたのは川辺。夕方の薄暗い中、川辺の土手を散歩する人達が行き交う。夕陽を見ると、前に場地さんが産んでするバイクの後ろに乗った時の記憶が蘇った。
「名前ちゃん、俺アイツの事好きだからさ、ちゃんと伝えてあげてね」
「……はい!」
ふと川の近くの草むらに居る場地さんの後ろ姿が目に入り、マイキーさんにお礼を伝えると「がんばって」と一言、エールをくれてそのままバイクで戻って行った。ここまで背中を押してくれたんだから、先に進むしかない。
川辺に繋がる階段を駆け降りで、背後に一歩、一歩近づく。久しぶりに会うからなのか、今から気持ちを伝えるからか、胸の鼓動が早くなって深呼吸をして声をかけた。
「っ……場地さん!」
「……おー、名前じゃん。こんな所でどーした?」
声をかけて振り向いた場地さんは、目をまん丸にして驚いた表情を見せつつ、いつも通りの口調で笑顔を見せた。
「マイキーさんに、場地さんの場所教えてもらいました」
「あ……そ。あー俺まだ用事あっから。もう日暮れるしかーちゃん心配すんだろ?マイキーに送ってもらって帰んな」
「あの……っ」
「んじゃ」
一方的に話を終わらせる場地さんは、そのままこちらを見ずに早足で去っていく。ごめんなさい、一回だけでも、私の話聞いて欲しいの。
場地さん、っと声をかけて追いかけても振り向いてくれない。やだ。避けないで、もう傷つけたりしないから。場地さんの気持ちも、自分の気持ちもちゃんと受け止めて、悲しませないから。
場地さんっ、と声をかけても振り向いてくれず、込み上げてくる気持ちに心臓がぎゅっとなり息が上がり、思わず小さな段差に躓いて盛大に転けてしまって大きな音を立てて倒れてしまった。
……痛い、いたい痛いいたい。
本当に嫌われちゃったのかな、もうどこが痛いのか分からないけど、これが私が後回しにした罰だ。もう、戻れないのかな。
「大丈夫か」
視線を上げると、場地さんがしゃがんで私に手を差し出してくれていた。砂利のついた手を伸ばせば、大きな手のひらでぎゅっと握って身体を起こすのを手伝ってくれた。下を見れば、膝に砂利がついて赤い血が滲み出ている。痛い、でもこんな傷より、もっと胸が痛い。立ち上がった私を見て握ってくれた手を緩めて解こうとするのを、ぎゅっと逃がさないように握りしめた。
「場地さん……場地さん、場地さんっ」
「おい、」
「場地さん……私、好きです、好きなんです、場地さんのこと、私も好きです……っ……だから……だから避けないでぐだざい……」
「……ちょっ、泣くな……!」
気持ちを伝えるとダムが崩壊したように涙が溢れてきた。あわあわ焦って困ってる場地さんの顔がぼやけるけど、私自身止め方が分かんない。
場地さんも優しく膝や肘についていた砂を払って「痛えか?!痛えな?!水道あっちあっから、な?!」と声をかけてくれる。嬉しいけれど、今は痛みよりも、痛みよりも。
「ズッ……場地ざんずぎでず……、どっがいがないでっ……」
今はそれだけ痛くても苦しくても、この気持ちを受け取って欲しい。例え私の事を嫌いになってたとしても、場地さんが伝えてくれたんだからちゃんと伝えたい。
ズッ……、鼻を啜りながらも握った手をぎゅっぎゅっと確かめ、好きです、と呟けば、後頭部を優しく撫でて身体を寄せて抱きしめられた。
「ばじ、さん……」
「わーった、わーったから……落ち着け」
場地さんの声に握っていた手を離せば、背中をトン、トンっとゆっくりのリズムで優しく叩き、そのリズムにゆっくりと深呼吸をした。頭を場地さんの肩に寄せて身を任せた。
「……少しは落ち着いたか?」
「……はい、」
どれくらい経ったのか分からないけど、少しの間泣き止むまで背中をさすったり頭を優しく撫でてくれたおかげで、気持ちに余裕が出来た。
辺りは暗くなってきていて、薄暗い中場地さんの瞳を見つめると、苦笑いをして「良かった」と抱きしめた手を離し、少し距離をとった。
「ごめんなさい、私、場地さんの気持ちちゃんと答えるまで……時間かかっちゃって。本当は、私もあの出会ったときに魔法にかかってたのに」
「魔法ね。でも俺やっぱり魔法使いじゃねーよ」
「分かってます……でもあの時、場地さんに恋したのは、違わないんです」
じっと目を見て、心の奥に魔法のように煌めいた気持ちを伝えた。出会った時にドキドキとした鼓動、顔が身体が熱くなった魔法は、貴方に恋をしたから。
場地さんは私の気持ちに答えるように口をゆっくり開く、それはスローモーションのようだった。
「……悪いな、なんか急かして。俺は好きって言う気無かったけど、抑えられんかった」
「やだ、場地さんのおかげで自分の気持ちと向き合えたんだから、そんな事言わないで」
離れないようにと洋服に縋り付いてみれば、ふっと鼻で笑われた。
「……ははっ。やっぱ可愛いなお前」
にっ、と特徴的な八重歯を見せて笑う姿は、久しぶりに見た彼の好きな顔。
「今まで避けて悪かったな。……俺も好き、やっぱ諦められねーわ」
「場地さん……」
「つ……付き合ってみっか?」
「ふ……なんでそんな弱々しいんですか」
「悪ぃーかよ!……俺だって付き合うの初めてでこういうのは苦手なんだっつの」
暗闇であまり分からないけれど彼の頬が赤くなるのが分かる。そんな弱々しい姿も、かっこよく見えてしまうのは、やっぱり貴方が好きな証拠。
「場地さん」
「んあ?」
「よろしく、お願いします」
「……おう」
場地さんの手を取って、気持ちを伝えた。貴方の近くに入れるなんて、これほど幸せな事はないでしょう。
ふと周りを見渡せば、小さな光が周りを照らして動き回る。よくみれば、東京ではあまり見かけなくなった蛍が、この河辺には住んでいるようだ。
「蛍、綺麗ですね」
「だな。おら、怪我してっとこ流そーぜ」
「はい。……ねえ場地さん」
「んー?」
「このままデートしません?」
蛍の光は私達を包み込んで、歓迎しているようだった。
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