運命なんて存在しない?
蘭と別れてから、何年経ったんだろう。正確な年数は数えていない。だってそれだけ蘭と会えていない証拠になってしまうから。考えたら泣きそうになってしまうから。それでも、冬になるとあの海へと自然に足が向くから未練がましいと笑われても仕方が無いと思う。実際、私がされたら笑うだろうから。次があるかどうかなんてわからないのに。
相変わらず海は濁っていて、昔と何も変わらないように見えた。
会いたいと、思う。じゃなきゃ今こんな所にいないし、毎年毎年律儀にやってきたりなんかしない。
それと同時に会っちゃダメだな、とも思う。邪魔にならないために終わらせたのに、その意味がなくなってしまう。蘭の邪魔になってしまう。だから、会っちゃダメ。
蘭が次なんて言わなければ良かったのに。そうしたら私はもうこの場所へはやって来なかっただろうし、こんな矛盾した気持ちを抱えずに済んだのに。
「蘭のばーか」
「バカはオマエだろーが」
独り言に返事が来てびくりと肩を揺らした。声のする方へ振り返ると、髪の短い男がお高そうなスーツを着て立っていた。
見た目は全然ちがう。髪は短いし色もガラリと変わって紫っぽいものになっている。だけど優しげに垂れた瞳とか、その声とか、ちょっと呆れたように笑うその顔とか、ぜんぶぜんぶ、
「……らん」
「オマエさー、オレが最後に言ったこと忘れてんの?」
「わすれて、ない」
わすれてないから、ここにいるんだよ。
蘭が一歩前に出る。それにならって私も一歩前へ。二歩分の距離が縮まる。
その腕に飛び込んでいいかな。自ら手放したものを、また手に入れても、いいかな?
両手を持ち上げかけて、怖くなってやめた。でも目敏い蘭は気付いたらしい、少し笑って、受け入れるように両手を開いた。
「らん……、!」
「おー。マジでバカだよなあ」
バカでいいよ。邪魔にならないようにって自分から身を引いたのに、連れてって欲しいと願って毎年こんなところに来るんだから。バカじゃないとこんなことしないでしょ、感謝してよ。
抱きしめられたぬくもりがなつかしくて、帰ってきたなあ、と思う。この数年ずっと蘭のことを待ち望んでいたのだと、改めて感じる。
「蘭、」
「んー?」
「連れてって、くれるんだよね」
「オマエがそれでいいなら」
「あの時は問答無用で連れてくって言ったくせに」
「まさかマジで会うとは思ってなかったしなー」
「それは、私もだけど……、だって蘭が来るとは思ってなかった」
来てほしい、とは思ってたけど。いや来なくてもよかった、街のどこかで会えたなら、それで。こうやって話せなくても、一目だけでも見ることができたら、それでよかったの。
……ほんとうに? 自分の中に生まれた疑問。今こんなにも蘭の腕の中にいれることが、嬉しくて仕方がないのに、私は本当にそれだけで満足できたんだろうか。
たぶん、むりだろうなあ。
顔を上げて蘭を見つめると、ゆるりと笑っていた。蘭がそんな顔をするなんて珍しい。……うれしいと、思ってくれてるのかな。だって蘭がこんな風に笑うのなんか、見たことがないような気がする。
「もう逃がせねーけど?」
「いいよ、私だってそれを望んでる」
「は、上等」