選択は自己責任
※連載夢主
※揺籃たる死期のあと
一度誘いに乗るとやめらない……いや、断れないそんな中毒性がある。あ、いやどっちかっていうと……足元を巣くわれる。何故あの人は私の学校の時間割を把握しているのだろうか。ああ、蘭ちゃんから聞いたとか?いやいや蘭ちゃんだって無意味に教えたりしないでしょ。何で時間割知りたいんだよ。何に使うのその情報。そもそも私をポアロに誘ってなにがしたいの??意味が解らないよ。一層の事罰ゲームとか言ってくれよ。お願いだよ。納得するから……。
「ノイローゼ気味だね」
『蘭ちゃん……私に勇気をください』
蘭ちゃんの手を両手で包み勇気をチャージ。今日は、今日こそは……必ず断る!!
そう決意した私は放課後のチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出し、裏門から堂々と出て陸上走りで目的地へと駆け抜けた。近所のマダムに教えてもらった穴場のスーパーでの特売。今日こそは必ず肉と魚をゲットする!そして……冷凍保存だ!!
安全のために携帯の電源は切っておいた。
穴場だけあって知る人ぞ知る者しかいないようだ。カートと籠を手にしカラカラと引きながら食材の調達を始める。野菜が安い……大根が80円だって!?煮物にするかな、あとはお味噌汁……おでんもいいね。他にもほうれん草にたまねぎ、トマト等などお安く野菜が売られている青果コーナーは天国かと思った。キャベツもいいね。ロールキャベツにしようかな。きゅうりが大袋で200円?!……浅漬けにつけるか。歩きだから荷物も限られるし計算して買わないと。
料理上手というよりは、私はクッ●ドゥーさんとか中●味とかほ●だしとかにお世話になっている。まあ家庭的な味の人ってやつ。だから料理上手というよりは、料理はまあ出来る人っていうのが正しいかな。あとう●んだしは結構何でも使える。
精肉コーナーへ行き挽肉や鶏肉などを吟味する。昴さんって洋食が好きなんだよね。私はどちらかといえば和食派だから……たまには洋食でも作るかな。ハンバーグとかソテーとか。てかお肉も安いとかここは天国ですか。これは鮮魚コーナーも期待できるぞ。
鼻歌を歌いながらカートを引き籠を埋め尽くす食材たち。ああ……なんて充実しているんだ。こんな放課後を過ごせるなんて思いもよらなかった。勇気を出してよかった。
お菓子コーナーに差し掛かるとポッキーのパッケージにイラストが記載されているのを発見。これコードを読み取ればボイスが聞ける奴だ。確かSNSで拡散されてた、TLにも流れてた……推しの声優さんが参加してるんだったかな……。
無言で探しまくった。
奥か奥にあるのか、それとも棚の上か?あの一番上にあるやつか。背伸びをしても届かない。とーどーかーなーいーー!牛乳箱ないかな。あとは脚立とか。辺りを見渡すが子供用の脚立もなかった。なんて不親切なスーパーなんだ!子供が取りたいお菓子があるときどうすればいいんだ!!床に手をつき段々と拳を打ち付ける。
「ママ、あの人凄く悔しそうだよ」
「己の力の無力差に打ちひしがれているのよ」
「ビスコを食べて強くなればいいのに」
「あのお姉さんはもうビスコでは強くなれないのよ」
ちょっとそこの奥さんにめっちゃ声をかけたかったけど、今は辞めておいた。ビスコ食べてもまだ強くなれる自信しかねえよ。だけど今の私はポッキー食べて強くなりたいんだ……!立ち上がりスカートの埃を払ってから、ジャンプして獲ることを試みた。跳躍力は結構自信があるのだ。伊達にこの小さき身体と付き合いは短くない。
だけど、一向に届く気配すらなかった。
あそこに……好きな人がいるのに……私は何て無力なのッ!あの人に会いたい――!!
『ふぬ――ん!』
それでも私には背伸びという策しかなく必死に手を伸ばして足の裏が攣りそうになっていると、後ろからポッキーの箱が取られる。まさかの刺客か!とも思ったがその人は私にそのポッキーの箱を差し出した。なんて紳士なの。手の形からして男の人だとは気がついていた。背中を向けたまま受け取る。
『ありがとうございます』
「いいえ。とんでもありませんよ―――名前さん」
手にしていたポッキーの箱を滑らせ床に落とした。カタン、タン―――っと箱が冷たい大理石の床に落ちる音がゆっくりと届き、腹部辺りが急に痛み出した。持病の差し込みが……ッ。冷や汗が額から頬へと伝い顎へ到達するとポタリと落下していく。振り返るのが怖い。
「お買い物ですか?」
『ふぇ…ふぅ、ふむ。そ、そうであります……』
「携帯に連絡しても電源が切れていたみたいで繋がらなかったので心配しました」
『え、え、まあその……で、電池切れちゃって』
「あれ?おかしいな……60%の残量がありますけど」
いつの間に私のスマホを入手したのですか。それすらあまりの恐怖に尋ねられなかった。振り返ったら後ろに祟り神がいる。神隠しされるより怖い。ホラー映画より怖い。貞子に井戸へ連れていかれるより怖い。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい……
ゲシュタルト崩壊に襲われた。
「買い物に寄りたいのならそう仰ってください。僕だってそれくらいの考慮くらいしますから」
『え、本当ですか』
声色が普段と同じに戻ったので勢いよく振り返るとお菓子の棚に肩を押さえつけられて壁ドンじゃなくて壁を遣って尋問のスタイルを決め込まれた。うわぁ……魔王につかまった生贄の気持ち超わかりみ。
「買い物に付き合いますから、ほら荷物持ちとか必要でしょう」
逃がさないコースとか。強制的に喫茶店には連行するコースなのか。何をどう選んでも必ずお前の元へ行かなければならないコースなのか!うぷ、と逆流する血液。口端から零れ落ちそうで白目向きそう。ああ……どうして私は頑丈なのかしら。もしひ弱だったらここで意識を失って総ては夢の中の出来事、悪夢だったのよと物語の幕を閉じることが出来るのに。
「気を失ってもいいですけどその時は横抱きをしてこの店からお連れしますけど」
『申し訳ございませんでした。これからはバックレないようにします』
「じゃあこちらの紙にサインしてください」
悪徳商法かな。それかヤクザかな。裏社会の人間かな、この人は。誓約書とか書かれている紙を掲げ、笑顔で迫ってきている。傍から見れば皆様口を揃えてこうささやかれておりました。
「イケメンの壁ドンよ」
「私もされたい」
ちがうちがうちがうちがうちがうちがうっ
どこをどう見ればそうなるの?これ羨ましいか?やられてみたいか?完全に取り立て屋よ。このスタイル。地上げよ、このスタイル。顔か、顔がいいのか。顔なのか。世の中のすべての通貨は顔でまかり通るのか。
頬を撫でられ親指で顎を持ち上げられる。
「返事は」
『………ハイ』
私は思い知りました。現実で顎くいされると……恐怖の気持ちになるんですね。じゃあゲームで頬を赤らめる女子は、強靭な精神をもった限られた勇者だけなんですね。アップデートしました。
その後、買い物は無事に終わり。荷物は彼の車へつめ喫茶店に強制連行された。
