初めて会った日






  私が初めて彼を見た時、可哀想な子だと思った。海を司る一族の末裔として生まれ、外界のことを一切知らずに宗教だ神様だと都合のいい大人の言う『ねがい』を告げられるだけの人生。宗教、土地、歴史。それらのせいで自由を失った彼に対して幼い私は哀れみの目を向けていた。


 宗教なんてくだらない。嫌い。神様なんて存在するわけが無い、と小さい頃からずっとそう思っていた。だからずっと宗教に熱望している両親も嫌いだった。神を信じすぎた挙句、自身の心身を削ってまで貢献しようとする両親が怖かった。けれど、宗教の方が私よりも優先されていたのが何よりも辛かった。

 ある日、両親に儀式に一緒に行こうと誘われた。両親がのめり込んでいるその宗教と関わりたくなくて最初は拒もうとも思ったが、相手は怖くても嫌いでもやっぱり大好きで仕方ない親。拒否することも出来ず、言われるがまま共について行った。なんだか悔しくて少しだけ泣いた。

 しばらくして、まさに日本家屋という言葉がぴったりな豪邸に連れてこられた。庭には大きな桜の木が植えられており、満開なその花を見て心が踊ったのを今でも鮮明に覚えている。けれど儀式自体は本当に退屈だった。大勢の人間が小さな子供を囲んでやれ誰々が病にかかっただのやれ不幸事が続いているだのと伝えているのだ。その光景があまりにも不気味で私は儀式中ずっと下を向いていた。

 それからというものの、私は桜の木を見たいがために両親とそこへ足を運んだ。それだけでなく、そこは家から数分歩いた所にあったので、私は度々1人で歩いては柵の前からその桜を眺めていた。昼夜で姿を変える桜はとても綺麗だった。

 それからしばらくしたある晴れた日。いつものように桜を眺めていると柵越しに誰かに声をかけられた。

「 『さくら』、みたいですか? 」
『 か、かみさま…… 』
「 くすくす 」
『 えっ、あの、えっと…… 』

 きょうはてんきがいいですね〜なんて彼は脈絡もなく話し始める。まさかあの日遠くから哀れんでいた神様(笑)が私の目の前にいて私に話しかけている。先程まで人の気配も全くなかったのに。私は驚きで上手く言葉が出なかった。

「 こっちのほうが『きれい』にみれますよ 」

 そう言うと神様は私の腕を柵越しに引っ張り始める。もちろん互いの体は柵を挟んでいるため、私は柵に乗り上げてしまいそうになる。腹部に感じる痛みと浮遊感が怖くてストップをかける。

『 まっ、まってまって!!こわい!! 』
「 だいじょうぶですよ〜、ぼくがいますからね〜 」
『 だ、大丈夫じゃっ……うわぁっ!? 』

 この驚き様をみて察した人も多いだろう。案の定私は柵を乗り上げて反対側へと落ちてしまった。あまりの恐怖に強く目を瞑っているが不思議と痛みは感じない。むしろなにかに包まれているような、ほんのりとした温かみを感じる。

「 ほら、ぼくがいたからだいじょうぶだったでしょう? 」
『 んぁ…? 』

 目の前にはエメラルド色の澄んだ綺麗な瞳、1束だけ垂れている浅葱色の細くて柔らかい髪の毛。舞う薄い桃色との対比はあまりにも神秘的で、圧倒的な美しさにおもわず目を奪われた。


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