告白
『す、すき…ーってさぁ……たのしいよねぇ…』
『つき…ってなんであんなに綺麗なんだろうね!』
今日こそ奏汰に告白してこの曖昧な関係性から脱しよう。そう思ってから数時間。私は未だに話を振ることは出来ていなかった。どう頑張っても思いを伝えるのが恥ずかしくて苦し紛れに他の話題へと変えてしまう。こんなベタな少女漫画のような事が自分の身に起きるなんて…とバラエティ番組を見ている奏汰の隣で頭を抱える。
まさか自分がこんなにも話を切り出せない人間だとは思っていなかった。何度も頭の中でシミュレーションして準備は万端だったはずだったのに。ちらりと隣を見るとテレビに向かってくすくす笑っている奏汰。可愛いなぁ。好きだなぁ。なんて心の中では言えても口に出すことは出来ない。
もういっその事酒の力を借りようとも思ったがそれは不誠実で彼に失礼だと思い何とか耐える。そもそも酒にあまり弱くないので酔うまで飲むとなると明日の仕事に響く。それだけはどうしても避けたい。
「あついしせんでからだに『あな』があいちゃいそうですね 」
『…えっ、あ、ご、ごごごごめん』
何かありましたか〜?と距離を詰めてくる奏汰。今が絶好のチャンスなのに恥じらいが勝ち、私は口をはくはくと動かすことしか出来なかった。奏汰はと言うと不思議そうに私の顔を見つめている。
「もう、なにがあったんですか?さっきからずっと『そわそわ』して」
『えっ、あ、いやそのぉ…』
「ぼくにはいえないことなんですか?なにか『やましい』こととか…」
『そ、そそそそれは違う!なにもやましい事なんてない!』
「じゃあなんですか?」
ずいっと近づく奏汰の顔。その翡翠色の瞳がじっと私を捕える。その瞳があまりにも澄んで綺麗で思わず息を飲む。今だ、もう、今言うしかない。
『あのっ、お、お葬式とかさ、付き合ってたり結婚してないと赤の他人として参列しなくちゃいけなくなっちゃうらしくて…』
「…はい?」
『あと、家族じゃないからなにか身体的に危ない時とか…真っ先に病院から奏汰に連絡行かなかったりするらしくてぇ…』
目の前で眉を顰める奏汰。どうしてこんな回りくどい言い方しかできないんだろう。そう思うとじわりと涙が滲み、視界が歪む。
『だ、だからね、その……私は、奏汰にみ、身内…として葬儀に参列して欲しい…し、死んでしまいそうな時には、真っ先に、奏汰に会いに来て欲しい…から、その…か、奏汰と彼氏彼女、の関係に、なり、たくて…ですね…はい……』
「…えっ、ぼくたち、つきあってなかったんですか?」
そ、そ、そう来たか〜〜!人間初心者難しすぎる。いつ、いつ私と奏汰は付き合っていたんだろう。
『えっ、だ、だって告白、されてない…』
「あなたが『こうこうせい』のころにしたじゃないですか」
高校生の頃?急いで頭をフル回転させて記憶を辿る。彼に告白された記憶なんてひとつも…いや、ひとつだけ心当たりがある。きっとそれは私が当時付き合っていた彼氏に振られて、彼に泣きついていた時で。
ーーーーーーーーー
『もう、もういやだ…もう彼氏なんて作らない…』
「またひどい『め』にあったんですね〜?」
『どうせ私は重くてめんどくさい女ですよぅ…』
「ぼくはみやびのこと『すき』ですよ〜」
『うぅ…かなたぁ…わたしもだいすきぃ…』
ーーーーーーーーー
『あれ告白だったの!?』
「えぇ、みやびがよわっているところにつけいろうと」
『なっ…あんなん慰めだと思うじゃん!!』
「けれど、どうしてそんなに『かれしかのじょ』にこだわるんですか?いまの『かんけい』では『ふまん』なんですか?」
『ふつう』の『かっぷる』となにもかわらないでしょう? 確かに彼の言うことは間違っていない。不満かと言われたら別に不満では無い。彼と共にすごしていて楽しいし、時にはドキドキして、傷つく事もあるし、やることもやっている。今の関係のままでも普通のカップルとは変わりない。
けれど私が求めているのはそれだけではない。奏汰が私の彼氏で、私が奏汰の彼女だという証明が欲しい。胸を張って堂々と彼の彼女を名乗り、彼女が言うから許されるわがままだって言いたい。ただ、この曖昧な関係を持っている私にはそれらを言う資格は無い。
『ふ、不満は無い…けど…その……奏汰の恋人って証が欲しくて…その…正式…?に付き合いたい…といいますか…曖昧なままだと不安…といいますか…』
「……うふふ、あなたはほんとうにぼくが『だいすき』ですね〜」
『う、ううううるさいっ…』
「そんな『しんぱい』しなくてもいいのに」
『や、やだ!一緒に住むのは流されたけどこれは流されないから!』
自分の意思は固いんだと頬をふくらませてじっと彼を見つめる。彼は あぁ、となにか理解したような表情を浮かべたかと思えば軽く触れるだけのキスをする。
「『だいすき』ですよ。ぼくと『おつきあい』してください」
ふっと微笑む奏汰。ほんのりと頬は桜色に染まっていて、この表情、ズ!のジュンブラのスチルと同じだ!なんて脳天気なことを考える。そうでもしないと正気を保てないような気がして。
『……な、なぁ…っ』
「『へんじ』はくれないんですか?」
『よ、よろ、よろしくお願いしますぅ…』
これで『かれしかのじょ』ですね〜と奏汰は手を絡めてくる。今までもスキンシップが恥ずかしく思っていたが、今は変に意識してしまっているのかいつも以上に恥ずかしい。しれっと離そうとしたその手は奏汰の手によって阻止されてしまった。