お疲れ様





  目が覚めた頃には部屋も外も真っ暗だった。腕に抱いていた鮫のぬいぐるみはどこかに消えていて、鮫を抱き締めていたはずの私は何故か奏汰に抱き締められていた。

 奏汰には帰ったら起こしてと連絡を入れていたはず。にも関わらず起こされることなく、また彼自身も眠りについているのはきっと昨夜眠れなかった私に対する彼なりの優しさなのだろう。そう思うと嬉しさと愛しさで感情が爆発してしまいそうだった。

 結局朝以降、彼の顔をしっかりと見ること無く一日を終えてしまった。そばにいるにも関わらず直接言葉を交わすことも無く終わっていく一日がなんだか無性に寂しく感じて、躊躇しながらも彼を起こす。

『かなた、おきて』
「ん…んぅ…?」
『おはよ』
「おはようございます…」

 ぎゅっと私を抱きしめる腕に力が篭もり、息苦しい。頬擦りをしてくる奏汰の頬はとても柔らかくてスベスベで。私の頬が餅なら奏汰はマシュマロだな。なんてよく分からないことを考える。寝起きだから今なら…と頬に手を添え軽く唇にキスをする。ぽやぽやとまだ意識がはっきりしていない奏汰は何が起きているのか理解していないのか、気付いていないのか。ゆっくりと目が開かれる。

「……?」
『ふふ、かなた眠そう』
「んん…?」

 サラサラと奏汰の髪を撫でる。細くて柔らかい髪の毛は指の間をさらりと落ちてゆく。じっと顔を見つめていると徐々に距離が近づいてくる。唇に感じるのはもちっとしたような柔らかい感覚。それは1度だけでは飽き足らないのか、何度も繰り返される。普段なら感じる羞恥も疲労と深夜テンションのせいかあまり感じない。ただただそれを受け入れ続けるだけだった。

「…ふふ、これもぼくだけの『とっけん』ですね?」
「うん…?」
「こうやってぎゅ〜ってできるのも、ちゅ〜できるのも」
『う、うん?』
「…えへ、ごめんなさいね。ちょっとさみしくって」

 へにゃりと笑っている彼の頬は薄らとピンクがかっていた。普段の余裕そうな彼がそんなことを思っていたなんて。でも確かにここ最近彼に構う時間は少なかったようにも思う。数日会えなかったかと思えば直ぐに私はイベントに夢中で。彼と言葉を交わすことはおろか、顔を合わせることすら少なかった。

『寂しい思いさせちゃってごめんね?』
「いいえ、ぼくもたくさんそういう『おもい』をさせてしまってたので…『おあいこ』ですね」

 もういっかい、ぎゅってしてもいいですか?そう聞く彼は私の返事を聞く前に再度腕に力を込める。骨が軋んでしまいそうなほどのハグ。いつもと変わらない苦しさが今はとても心地よかった。

「そういえば…いまは『なんじ』ですか?」
『えぇとね、11時半かな』
「…『へん』なじかんに『め』がさめてしまいましたね」
『明日鰻食べに行くのに時間通り起きれるかな』
「うぅん、どうでしょうね?」
『最悪オールかなぁ』
「…あ、そういえば『ばんごはん』はたべましたか?」
『いやこんな状況だし食べてないよ』
「『れいぞうこ』にあるのでたべましょうか」

 ベッドから起き上がり手を差し出される。その手を掴めば強い力で引かれまた彼の腕の中に。何故かそのまま抱っこをされた状態でリビングまで向かわれるので恥ずかしさで騒ぐも、おちちゃいますよ。なんて冷静に言われたので静かに彼に抱き抱えられたまま共にリビングへと向かった。


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