七夕の日
『織姫と彦星今年も会えなかったね』
「そうですね〜」
ペン回しをしながら網戸越しに外を見る。そこには年に一度だけしか会うことを許されていない二人が会うための架け橋はない。可哀想に。そう呟きながら手元の長方形の紙に視線を戻す。
左手には少し不思議なデザインのペン。かなたが買ってきたブラックライトを当てると文字が見えるという幼い子が好きそうな物。『はずかしがりや』なあなたにいいとおもって。そういう彼はもう願い事を紙に書き終えたのか机に肘をつき無邪気な笑顔をうかべている。
『笹の葉サラサラ〜…♪』
「ふふ、『ごきげん』ですね?」
『え、そう?』
私の問いに彼は答えることなく、のきばにゆれる〜…♪と続きを歌い出す。かなたこそご機嫌じゃん。そう小さく呟き続きを歌うかなたの歌声を聴く。ローテンポな曲であるそれはかなたのまったりとした、海を漂っているような優しい歌声にマッチしていてとても心地良かった。
「そらからみてる…ってどうしていっしょにうたってくれないんですか」
『えっ、今のそう言うやつだったの?』
つかの間の沈黙。互いに目をぱちぱちと瞬かせ見つめ合っていると、しばらくして同時に笑い出す。くすくす。ふふふ。2人の笑い声が水色と白で構成された部屋に消えてゆく。
『私たち、本当に意思疎通出来ないね』
「そっちのほうが『おもしろい』からいいじゃないですか」
『確かにそうかも。』
「ふふ、そういえば、『たんざく』に『ねがいごと』はかけましたか?」
あっまだ書いてない!そう言って慌てて無色のペンで短冊に願い事を殴りつけるように書く。字がぐちゃぐちゃだけれど、彼の買ってきてくれたペンのおかげで見られることは無い。
はい、と彼に短冊を渡すと、何も書かれていないように見えるそれはかなたの手によってカーテンレールに掛けられる。本当に何が書いてあるか分からないね。そう笑い合う私たちを前に無地の水色の長方形が2枚、そよ風に吹かれ靡いていた。