奇人と噴水




『……はぁ、まぁた噴水で水浴びしてる』
「あ、みやび〜♪」

 いっしょに『ぷかぷか』しましょ〜と笑顔で手を振るのは学園内で五奇人としてまとめられている(らしい)私の幼なじみの深海奏汰。こんな変人が学院の頂点に立っているなんてすごい学院だなぁ。なんて思いながら噴水の縁に座る。

『わたしはぷかぷかしないよ。ていうかかなたもやめなよ。先生たちに注意されてるんでしょ?』
「でもぼく、ぬれていないと『げんき』がでないので〜 」

 ぴちゃぴちゃと水の跳ねる音は心地いいがここはあくまでも学び舎なわけで。ただの普通科に所属している私が教師や生徒会に目をつけられるのは嫌だ。最初はかなたとの距離も置こうと考えたのだ。"変人"と周囲に認知されている彼と共にいる私まで白い目で見られてしまう。それは嫌だと初めは楽しく生活していたもののこんな光景を見てしまったからにはそういうわけにもいかないわけで。どうにかして"普通の"人間として生活してもらうためには彼を見つける度にこのように言い聞かせないといけない。私の思い描いていた"青春"は彼のせいでもろくも崩れ去ってしまった。

『はぁ……私の思い描いていた青春が…かなたのお守りに……』
「もうっ、じぶんが『おせっかい』やいてるのにぼくのせいにしないでください」
『うっ、それはそうだけど……』

 ぷく〜っと頬を膨らませる彼はまるでフグのようで可愛い。……違う、そう言っている場合では無い。私は持参した水色のタオルで勢いよく奏汰の髪を拭き始める。油断したなかなため!なんて笑いを堪えながら髪を拭き続けているとバシャンッと水と体がぶつかる音が響いた。

『〜〜〜〜っ!!ちょ、かなた!!』
「くすくす、これで『どうるい』ですね…♪」

 そう、彼は私の腕を掴み私を噴水へと引きずり込んだのだ。シャツやスカートが皮膚に張り付く感覚が妙に気持ち悪い。この感覚は何度味わっても慣れないものだ。

『ほんとに最悪……着替えもないのに……次の授業出れないじゃん…』
「ふふん、たおるもぬれてしまってるのでもうどうしようもないですね〜♪」

 悔しい。油断していた私が悪いがこれは悔しすぎる。彼が大人しく髪を拭かれている時点で異変に気づくべきだった。はぁ、と頭を掻きながら彼の顔を見ると彼はじっと何かを見ている。

「きょうは『みずいろ』なんですね〜」
『え、なにタオルのこと?タオルはいつも……』

 視線を下ろすと水のせいで透けているシャツ。そこで顕になるのは私の下着。あまりの恥ずかしさに熱が顔に集中する。こんな漫画の世界でしかないようなことが現実で起こるなんて。

『かなたのばか!!さいてー!!』
「あなたが『ゆだん』してるのがわるいんですよ〜」

 もう嫌だ…と前をタオルで隠すとざばんという音と共にでも…という声が頭上から聞こえる。顔をあげれば影になり彼はどのような表情をしているのかは分からない。

「『それ』がほかのひとのめにはいるのは『いいき』がしませんね〜?」
『え?なに、ちょっ……ぎゃっ!?』

 肌を伝う水。ふわっと浮くような浮遊感。ほんのりと感じる生温さ。高くなる視界。ゆらゆらと上下に揺れる体。恐怖でかなたにしがみつく。……しがみつく?

『なっ、ちょっとかなた!!これはさすがに恥ずかしすぎるって!!』
「も〜、じたばたしないでください。おちちゃいますよ〜?」
『ねぇ君アイドル!私一般人!スキャンダル!!!わかる!?』

 はいはい、そうですね〜。と彼は騒ぐ私にお構い無しに姫抱きをしてどこかへと歩き出す。周りの冷ややかな目線を感じる。あまりにも冷めた目線のおかげで照りつける太陽の暑さなんてどこかへ吹き飛んでいってしまいそう。肌に貼り着く布の感覚と薄い布越しに感じる彼の体温。慣れない感覚に私は背筋を粟立たせながら彼の首元へ顔を寄せて目を閉じた。



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