言葉巧みに
『かなたって私の事好き?』
浴槽に水を張りぷかぷかしている彼に問いかければ彼はわざとらしく顎に手を当てて「う〜ん」となにか考えるような素振りをする。
別にこれを聞いた事に特に理由は無い。なにか不安になるようなことがあったりだとか、寂しくなってしまったという訳では無い。ただ、ふと気になったのだ。
私と彼は幼少期からの仲なわけで。もはやほぼ家族のような感覚なのだ。世間ではそういう人間は相手の恋愛対象から外れることが多いと聞く。それに今半同棲をしているにも関わらずどちらかが告白した訳でもない。有耶無耶なまま、彼に上手く丸め込められながら生きてきてた。また彼の性格上感情が全く読めず(私の理解力が低すぎるからなのかもしれないが)、ちょっとした好奇心が働いた。
「いきなりどうしたんですか?」
『ちょっとした好奇心だよ、かなたって何考えてるか分かりづらいところあるし』
で、どうなの?と浴槽の縁に腰掛けて自身の足を水に浸ける。足元がひんやりと冷えて心地が良い。
浴室内はとても静かで外で車が走る音が微かに聞こえてくる。好きかどうかそんなに考える?と少しショックを受けながら黙って待っていると視界の端から腕が伸びてくる。え、と声が出ると同時にざぶんと水が激しく揺れる。先程までの冷えが全身に伝わり、着ている服が重くなる。
『ゔぇ……ちょ、かなた危ないじゃん!』
「ちゃんとだきかかえているのでだいじょうぶですよ〜」
『私の心配じゃなくてかなたの心配!痛くなかった?』
『おみず』のおかげで『へいき』ですよ〜と彼は私を抱きしめる腕に力を込める。体は冷えているのに彼と触れている所は温かくて不思議な感覚に少し背筋が粟立つ。
「こうやって、ずぅっとぎゅ〜ってしてたいくらいだいすきですよ」
『なっ……』
「そんな『ふあん』にかんじなくてもだいじょうぶですよ、ぼくの『いとしご』は『しんぱいしょう』ですね〜?」
ずいっと鼻が触れる程の距離に彼の顔が迫り、上手く言葉を発せなくなってしまった。水も滴るいい男、なんて言葉はきっと彼のためにあるんだろう。濡れている彼なんて幾度と見てきたにも関わらず、彼の言葉のせいか普段よりも艶っぽく見えて目を逸らしてしまう。
「あなたはほかの『しんじゃ』のひととはちがって、『ぼくじしん』をみてくれた。」
「あなたをみるだけでぼくは『げんき』になって、『しあわせ』なきもちになれます」
「いままでもこれからも、ずぅっとあいしてますよ」
頭がクラクラする。甘ったるくて、それでもって甘酸っぱい。あまりにも直球な彼からの言葉に耐えられなくて逃げようとするももちろん彼は腕の力を緩めてくれるはずがなくて。
『こ、告白されてないのにかなたの愛が溢れてる…』
「『こくはく』ですか?」
『ほ、ほら、普通はさ、一緒に住むとかってなるのって付き合ってる人達じゃん…』
「? ぼくたちつきあってないんですか?」
『……ん?』
「あれれ?」
『え、告白なんてされたっけ…?』
「う〜ん…?」
『されてないよ!?』
「ぼくはみやびのことがすきで、みやびもぼくのことすき、ですよね?」
『えぁ、ま、まぁ…』
「なら『すきどうし』なのでもんだいないですね…♪」
『大問題だよ!!』
「「きす」もしたなかですよ?ぼくは『ことば』ではなく『たいど』でしめしているので〜」
数秒の沈黙の後、2人同時に吹き出して笑いあった。言質、という訳では無いものの私も女。好きな人からの愛の告白は聞きたいものだ。けれど今の彼の言葉を聞き、聞かなければ死ぬというものでもないか、と私は彼の頬に軽く口付けた。あぁ。また彼に上手く丸め込まれてしまった。