あんていく
とても冷え込んだ早朝に、私は死んだ。即死だった。父と同じように喰種捜査官にクインケでまるでゴミ屑のように頭と図体を引きちぎられて

学校で聞いた時のことは、よく覚えていない。気付いたら私は制服のまま、病室の入り口で母の背中を見て立ち尽くしていた。無言でベッドに横たわる父からは、生命維持装置がとっくに外されていたように思う。息を引き取ってしばらく経った父の体に縋り付き、母は身も世もなく泣きじゃくっていた。いつも凛としている母の、あんな姿を見たのは初めてだった。

 魂を亡くした父と、縋り付く母の背中を無言で眺めていた私の目から、涙がこぼれることはなかった。自分でも驚くほど両目は乾いていて、いつものように目の前の光景を映しているだけだった。この時、頭の中が妙に澄んでいる感覚がしていたのは、思考が酷く鈍ってしまっていたからだろう。思考が進まないと、かえって頭がすっきりしている錯覚を覚える。

 少ししてから私に気付いた母は、ぐしゃぐしゃに握り潰されたハンカチで涙を拭いながら私を呼び寄せた。言われるがまま母の隣に移動した私は、ようやく父と対面する。事故に遭った割に父の死に顔はとても綺麗で、まるで眠っているようにも見えた。だが、指先でそっと父の頬に触れた時、温度を失くした皮膚の硬さを感じ取り、その考えが間違いなのだと悟った。もう生きた父に会うことは2度とない。ぼんやりと私が考えたことは、今朝、父に「いってらっしゃい」と言いそびれてしまったということだった。ああ、言っておけば良かった。どうしてその日に限って、父はいつもより早く家を出てしまったのだろうか。私は込み上げる何かを我慢するように、制服のスカートを握り締めた。





 そして私は今、葬儀場で父の葬儀の受付をしている。母は会場の方で参列者に挨拶しているため、傍には居ない。本来ならば受付は葬儀場のスタッフに任せ、私も母と一緒に居られるのだが、どうしても何か仕事をしていたかったため、受付を引き受けた。だがそれは1人きりの仕事ではない。私の隣には、私と同じ黒いセーラー服を着た、しかし小柄な私と違ってすらりとした美しい体型の少女が立っていた。

 毛先が緩く巻かれたセミロングの彼女の名前は鳴滝加奈(なるたき かな)。幼稚園の頃からの付き合いがある同い年の幼馴染で、私の1番の親友だ。私の家の隣に住んでいた彼女とは、家族ぐるみの付き合いでとても仲が良かった。だから、父の死を知った彼女は、綺麗な顔が涙でぐちゃぐちゃになるまで泣いてくれた。吊り目が真っ赤になるまで泣き腫らした彼女は、父を亡くしてから私と出来る限り一緒に過ごしてくれたし、こうして親族の仕事も手伝ってくれた。

 父の葬儀には、父と仕事絡みの関係がある人が多く参列した。他には父と母の友人や、私のクラスメイトと担任の先生くらいだろうか。


[] | []
肋骨