お菓子の山に囲まれて


白い息が、青空に向かって消えていく。道行く人々はみんな新年に向けて期待で胸を膨らませ、目が輝いている。わたしもなんとなく足取りが軽い気がする。
通りすがりにお魚屋さんのお兄さんからおいしそうなみかんを頂いた。「知り合いからたくさんもらったから」と。ちょうどみかんを切らしていたので有り難くいただいた。

雪が止み、日差しが照ってきたので履いている黒いタイツがほんのりあたたかくなってきた。
冬は外出が減ってしまい、運動不足になってきたのであれこれ買い物がてら散歩をしていたら、癖なのか友人の家についた。


「士郎くんのお家……」

大きなお家は、いつみてもため息がでる。みんなで過ごすことの多い士郎くんのお家は、わたしにとって第二の我が家だったりする。たぶんみんなにとってもそう。


誰か来てるかな、とチャイムを鳴らしてみる。軽い足音が聞こえ、ガラリと開いた扉の向こうには士郎くんが立っていた。


「なまえじゃないか。一人か?」
「うん。お買い物のついでに寄ってみたの。今誰かいる?」
「いや、セイバーは女子会?で遠坂と桜と一緒に泊まりにいって今日は俺だけなんだ」
「そうなの?」

むむっ、じゃあ帰ろうかな……士郎くん独り占めしたことがバレたら大変だし……。

「じゃあわたしは、」
「寄っていかないのか?」

シュン、とした士郎くんにちょっぴり胸が痛んだ。男子高校生でこんなかわいい仕草が似合うなんて……!

「俺と二人きりは嫌か?たしかにいつも誰かしらいるが」
「えっあ、えっとえっと、お邪魔しようと思ってたの!足が疲れてたし」

思いっきり休憩所扱いじゃない!?と、失礼なことを言ったかな、と思ったけれど、士郎くんは「そうか!じゃあお茶を淹れるから入ってくれ」と嬉しそうに笑ってくれた。



士郎くんのお家のリビングはいつもおいしそうなにおいがする。食欲をそそる、ちょっぴり懐かしいにおい。食堂みたい。


「なまえはもう昼は食べたのか?」
「うん。贅沢ミルクプリン!!」
「……それは、食事とは言わないぞ?」
「えっ、いつもはお昼食べないからプリンを食べるなんてわたしにとっては割りと大事件なんだけどな…」

士郎くんは少し考える仕草をしたあと、目が合ってからわたしに「なら、」と切り出した。

「休みの日はここに来ればいいじゃないか」

と言ったのだ。

「え、えぇ………いや別にそんなことしてもらわなくても……」

こたつの上に置いてあるお裾分けのみかんを取ろうとしたわたしの手を一回り大きな手でやんわりと止めながら、士郎くんは秘技・困り顔をこちらに向けてきた。

「貧血で倒れたり風邪引いたり、なまえはほっとくとすぐ具合が悪くなるだろ。家に来ないなら俺がなまえの家に行くがいいのか」
「いやっ!!ぜひご馳走になります!!!」

士郎くんには頭が上がらない。敵わないや…。

「じゃあ、お手伝いさせてもらってもいい?勉強したいし」
「それは構わないが、…ははっ、なまえも弟子みたいだな」
「あ〜、桜ちゃんとキャスターさんの次の弟子的な??よろしくお願いします師匠!!」
「おう、よろしくされる」


士郎くんはふんわり笑って、わたしの分のみかんも剥いてくれていたらしく「ほら」と少し冷えたみかんを手のひらに乗せてくれた。

ダメ人間製造機はこれだからもう〜。


「あっ、でも明日と明後日は来れないや」
「?」
「アーチャーさんがおいしいオムライス作ってくれるって」
「なんでさ!?」
「ギルさんがおいしいフレンチ連れてってくれるし」
「なまえちょっと食べ物に釣られすぎじゃないか?!」
「それを言うなら士郎くんもおいしいご飯作ってわたしのこと釣るくせに〜」
「えぇっ!?それはだな、」


title/はくせい
190102