雪解けと和解 5


俺が生徒会長に戻ったのは昨日の今日で、まだ引っ越し荷物も片付いてはいない。
家電や家具、食器類は備え付けだとは言え、大事なミシンや身の回りの物はわりとある。

取り急ぎ着替えだけはクローゼットに仕舞い、筆記用具や教科書は書斎に、学校に持って行くものは鞄に入れて枕元に置いた。
それ以外の荷物は段ボール箱に入れたまま、リビングの隅に山積みにしている。
取り敢えず、必要な時に必要な物を引っ張り出し、それを使った後に片付けるようにはしてるんだけど。

鷹司も急な引っ越しでドタバタしていたようで、きっと宝物だろう天体望遠鏡をベランダに忘れていた。
今はちょうど夕日が綺麗な夕暮れ時で、星が出るにはまだ小一時間は掛かるだろう。

それでもなんとなく、鷹司が何を見ていたのか知りたくて、置き去りにされた望遠鏡を覗いてみた。

「やっぱ空かあ……」

日向のように(日向ごめん)誰かの部屋を覗いていたような形跡はなく、焦点は真っすぐ空に向かっていた。
時間が時間だけに星は見えず、見えるのはまだ燃えるような夕暮れの雲だけだけど、望遠の倍率はそんなに高くはないらしい。
大きさや立派さから月のクレーターもくっきり見えそうなのに、意外にも遠目で一画を、恐らくは星座を一つ眺められる位置にレンズは向けられている。

「鷹司って、意外にもロマンチストなのか?」

そう思うと、いつも仏頂面で眉間にシワを寄せている鷹司のことが可愛く思えたりして。

「仕方ない。星が出るまで片付けでもするか」

夕飯はまだだけど、一人だと食欲がわかなくて、先に荷物を片付けることにした。

「よっこらせと」

取りあえず、段ボール箱をそれぞれの部屋に運び込んでみたが、それだけでかなりの時間が掛かってしまった。
槙村の部屋に引っ越した時は槙村が手伝ってくれたのもあって、半日で片付いたんだけど。

今日は段ボール箱をそれぞれの部屋に振り分けるだけにして、そろそろいい時間だからベランダに出てみようかな。

「わあ……」

久しぶりに見たその景色に、ベタだけど俺は声を失ってしまった。

リコール前はゆっくりする時間もなかったから、この景色をちゃんと見るのは、生徒会の仕事が始まる前に見た一ヶ月以上ぶりだ。
学生寮が小高い丘の上にあるのもあり、眼下には百万ドルまで行かないかも知れないけど、綺麗な夜景が広がっている。

この景色は特別棟の最上階だからこそ見えるもので、槙村の部屋では見られなかったものだ。

「どれどれ……」

満を持して望遠鏡を覗いてみると、

「これ、何座なんだろ」

思った通り、何かの星座らしい星の群が見えた。

星同士が繋がっている線が見えるでもないし、星座にも詳しくないしで、この星座が何座なのかは俺にはわからない。
けど、この星座は鷹司にとっては特別で、何かしらの思い入れがあるものなんだろう。

この時、初めて鷹司を知りたいと思った。
鷹司は生徒会には戻って来てくれたけど、仕事以外では話したこともなく、ちゃんと和解したとは言えない状態だからかな。

山倉の次に謝ってくれたのは副会長の椿野で、椿野はリコール前も俺のことを気にかけてくれていたようだった。
ただ、山倉が来てからは山倉に嫌われたくないのもあり、自分達がサボっていると言い出せなかったらしい。

日向ともすぐに和解したし、庶務の二人もそれぞれこっそり謝ってくれた。
鷹司だけが相変わらずの態度だったけど、それでも率先して仕事をしてくれる。
この分だと、週末開催の生徒会主催の新入生歓迎会も上手く行きそうだ。

「あ」

その時、腹の虫が鳴り、俺はようやくキッチンに向かった。
鷹司が買い直してくれた食材を有り難く使い、簡単なもの作って口にする。

槙村の部屋ではダイニングテーブルは使わずに、テレビを見ながらちゃぶ台で食事をしていた。

「……味は悪くないはずなんだけど、なんか味気ないな」

引っ越し初日にも関わらず、早くも槙村と二人で囲んだちゃぶ台が懐かしかった。

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366日の奇跡
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