396

[25/119]

社員旅行2
社内恋愛(2)
└課長×部下(1)


どうしよう。
物凄くドキドキする。

「今回の宿もいい宿だな」

課長は窓を開け、外の景色を眺めている。
ちらほらと紅葉が見られるようになった木々に目を細め、満足そうに僕を振り返った。

「そっ、そうですねっ」

しまった!
声がひっくり返ってしまった……。

そんな僕に課長は一瞬、びっくりしたような顔をした後、クスクスとおかしそうに笑っている。

年一回あるうちの会社の慰安旅行は温泉旅行と決まっているが、毎年違う旅館に泊まっているらしい。
僕は今回が初めての参加で、一年目は楽しみにし過ぎて当日に熱を出し、去年は祖父ちゃんが亡くなって行くことが出来なかった。

それに何より、今回は課長と同じ部屋なのだ。
一つ屋根の下で二泊三日。
しかも、初めてのお泊り。
課長と二回も夜を迎えることになる。

「かっ、課長。好きですっ」

勢いあまって、課長に告白してしまったのが一週間前。
課長から飲みに誘ってもらった酒の席でのことだった。

「わ、忘れてください」

我に返って取り繕おうとしたら、

「俺もだ」
「へ?」

いつもより少し赤い顔をしたほろ酔いの課長に、そんな嬉しい返事をもらってしまった。
かと言って僕たちの関係は何ら変わらないまま、今日の日を迎えたわけで。

あの夜はまるでなかったかのような態度の課長に、どう接していいのかがわからないのが本音。
バスの中でも隣同士だったけど、乗車した早々、課長は疲れていたのか、ものの数分で眠ってしまった。
僕も課長につられて最終的には眠ってしまったけど、眠りにつくまではあれこれ深く考えてしまって。

「へえ。この旅館には内風呂もあるのか」

来てみろと言われて縁側に出てみると、目の前に小さな露天風呂があった。
サイズ的にお父さんと子供二人が一緒に入ることが出来るぐらいの大きさで、これは所謂家族風呂ってやつなんだろう。

「足立。後で一緒に入るか」

そう言われて、僕の顔が一瞬で沸騰した。

……温泉だけに。
なんちゃって。
…………チーン。



…………………………
………………………………
……………………………………

荷物をそれぞれの部屋に置いたらもう夕食の時間で、夕食は全員で大広間の宴会場で取ることになっている。
それからの数時間は無礼講の宴会で、いろんな出し物で盛り上がった。

「ちょ、主任。お触りはダメですよ」

中でも一番盛り上がったのが新入社員による自社製品のファッションショーで、商品が商品だけに女子社員がモデルになるわけには行かず、男性社員がモデルになってランウェイを歩く。
ランウェイと言っても舞台から降りて社員が食事してる前を練り歩き、その度に様々な歓声が上がった。

さすがにショーツの方はまずいだろうと、思い思いのズボンを穿いている。
男性社員が身につけているのはブラジャーやキャミソール、ベビードール等のランジェリーで、それはそれぞれが関わっている開発中の試作品で、ウイッグを被ってばっちりメイクもしてるからなんとも気持ち悪い。

そんな中、

「足立は出ないのか?」
「ええ?!」

課長にそんなことを言われてしまった。
確かに僕は、男性社員の中では一番小柄で女顔をしてるけど、

「ほら、あれなんか足立が一番似合うと思うぞ」

そんなことを言われても、全く嬉しくはない。
冗談だと笑う課長は一週間の夜と同じほろ酔いで、あの夜のことを思い出し、僕もいつもよりお酒が進んでしまった。

一日目の夜はそんな風になんとも賑やかに過ごし、深夜近くなったところでようやくお開きとなった。
時間が時間だけに大浴場や共同の露天風呂を利用する社員は少なく、足早にそれぞれの部屋へ向かっている。

「足立、大丈夫か?」
「大丈夫れす……」

僕はと言えば酒豪の部長に捕まってしまい、しこたまお酒を飲まされてしまった。
念願の課長と迎える初めての夜なのに、情けないことにほろ酔いの課長に介抱されながら部屋に戻る。

その途中で意識を手放した僕は、

「まったく。くそ可愛いな」

耳元で何か言った課長の声を聞き逃してしまったのだった。



*******

「ふぁ……ん」

暗闇でなんとも甘い声がする。

「足立。気持ちいいか?」
「や」

酔いがすっかり醒めた僕が、課長に喘がされている声だ。

あの後、旅館の部屋で目覚めた直後に悪寒に襲われた。
お酒が切れた直後に悪寒に襲われることはよくあることで、幸いにも内風呂もあることだし、温泉で温まることになったんだけど。

「足立、大丈夫か?」

すっかり酔いが醒めている僕を、課長は思いきり甘やかした。
まだけだるさを持て余した僕の体から着衣を一枚一枚剥いで行き、庭先の内風呂に入れてくれた。

内風呂とは言え、立派な露天風呂で、部屋毎におそらくは檜(ひのき)の板で仕切られている。
24時間利用出来るように行灯(あんどん)風の明かりが点(とも)され、深夜でもほのかな明かりで温泉が楽しめるようになっていた。

寒さにがたがた震える僕を横抱きに抱え上げ、 課長は温泉に入れてくれた。
課長の腕の中で体の芯から温まって行くのを感じて、体から自然と力が抜けて行く。
それだけで十分気持ちいいのに、

「課長……?」
「シッ、黙って」

背後から課長に顔を覗き込まれ、そのまま唇を奪われてしまった。

「おまえの唇は柔らかいな」
「……やっ」

そう言った課長の手が体中を撫で回し、

「足立は何もかもが柔らかいんだな」

そんな恥ずかしいことを言われた。
その時、唯一体の中で緊張して硬くなっている場所が課長に見つかってしまい、あまりの羞恥にまた顔が熱くなる。

「……勃ってる」
「やっ。言わないで」
「俺に触られて興奮したのか?」

課長の声が今までで一番甘くて、耳に熱い吐息を吹き掛けられると、硬く勃ち上がっている場所を残してますます力が抜けてしまった。
そんな僕に気をよくしたのか、課長に勃起を握られてしまう。

「なんで……っ。こんなこ、と」

思わず涙目で訴えると、また唇を奪われてしまった。

「ふ……んんっ」

言葉ごと全てを奪うような激しいキスに頭がついていかない。

「可愛い恋人におねだりされたんだ。応えないわけにはいかないだろう?」
「え……?」

課長の思いがけない言葉に目を見張った。

「今、なんて?」
「可愛いおねだりには、なんとしても応えなきゃなって……」

僕の聞き間違いかも知れない。

「その前」
「前?」

聞き糺(ただ)すと、

「おまえが可愛い恋人だってことか?」

課長は、そんな嬉しい言葉をくれた。

「……僕が?」
「そうだよ」
「……誰の?」
「俺の」

さっきとはまた違った意味でぼんやりしている僕の問い掛けに、課長は茶化すことなくちゃんと答えてくれた。

「だって僕、告白はしたけど付き合ってくださいって言わなかったし……」
「そうだな」
「課長から付き合おうと言われたわけでもないし……」
「そうだったか?」

それは悪いことをしたなと、課長は改めて甘いキスをしてくれた。
どうせなら思い出に残るものにしてやりたいと、特別感のある今日までキスもデートも全部我慢していたらしい。

「入社したての足立じゃないが、今日を楽しみにしすぎて、当日に熱でも出すんじゃないかと心配したぐらいだ」

そう言われてまた顔が赤くなる。

「それじゃあ、改めて」
「はい」
「足立、俺もおまえが好きだ。よかったら俺と付き合ってくれないか?」
「喜んで」

改めて向かい合って確認した後、お互いの顔を見合わせて笑った。


それが今から十数分前の出来事。

「あっ、入って来る……っ」

取り敢えず初デートは日を改めてすることにして、課長はデート以外で我慢していたことを全部教えてくれた。

温泉の中で向かい合わせに課長の膝の上に乗せられて、課長の熱い唇が僕の首筋を這う。
お湯にふやけた僕のお尻の穴をずっと弄っていた課長の指が、ゆっくりとその奥に侵入して来る。

「はあ……んっ」
「足立、痛くないか?」
「へ、平気です」

感覚的には『ぬぷん』って感じに、課長の指が全部穴に埋まってしまった。

「ふぁ……っっ」

その指が隙間を拡げるように動き回る度に、自然と漏れる声を我慢出来ない。

「足立。そろそろいいか?」
「あ……」

今度はつぷんって感覚で指を抜き、課長は僕を見詰めて来た。

「足立は初めてだよな」
「はい。そうです」
「挿入するほうは?」
「……っっ。実は僕、キスもさっきのが初めてで……」

優しくしてくださいねと言う前に、再び優しく唇を塞がれてしまった。


「ふぅ……んっ」

お湯で十分ふやけていたせいか、思ったよりも痛みはなかった。
お湯を巻き込むように僕の中に入って来る課長は温泉のお湯よりも熱くて、思わず腰が引けてしまう。

「ふぁぁんんっ」

改めて抱え直されると、自分の体重でより深く課長と繋がってしまった。
じんじんと壁全体が痺れるような感覚に慣れるまで、課長は動かずにそのままでいてくれて。

「……くっ。そろそろ、動いていい、か?」

ゆるゆると揺すられながら僕が何度も頷(うなず)くと、課長はゆっくりと動き始めた。

「あっ、あっ、あうんっ」

その動きに合わせ、思わず漏れてしまう声が恥ずかしくて堪らない。

時刻は既に12時を過ぎ、辺りはしんと静まっていた。
あまり大きな声を出すと隣に聞こえるぞと課長に言われたけど、自然に漏れてしまう声は我慢出来そうにない。

結局、食事以外の時間は全て自由時間だったため、寝床と内風呂の往復で社内旅行は終わってしまった。
僕たちが一度も大浴場や共同温泉に行かなかったことを指摘された時には、課長はしれっと『嫁が女の子の日でね』と有り得ない言い訳をしたのだった。


それって、ある意味、洒落にならないんですけども。


End.

▽キャスト
受け:足立 葉月(25)
攻め:江東 透(32)
おまけ:港 拓哉(23)

※メンズラブ万歳!!
自分で書きつつ、思わず悶えてしまった(笑)
甘い大人恋愛、大好きです。


▽シリーズ
社内恋愛

2016/12/20


<< 前のお話 (*)
(#) 次のお話 >>
25/119話

[戻る] [Home]
Copyright © 2016-2018 396 All Rights Reserved.
ALICE+